カヨ、現る





翌日、話し合いのため再びリビングに集まった。




「んで?これからどーするよ?」

ゼルがコーヒーを飲みながらアスタルテに問う。




「う~ん…魔王城に乗り込む…とか…?」

半分冗談、半分本気でアスタルテは提案する…が、皆はポカンとしてしまっていた。




「アスタルテよ、お主が強いのは分かっておるが…流石にそれは無謀すぎじゃ」

「うーん、そうだよねぇ…」

「それに、魔界に行くにはそれなりの時間がかかるんじゃ。もし入れ違いになってその間に進行されていたら元も子もないぞ」




ノレスに言われ、アスタルテは腕を組んで唸る。




「…となると、防衛を固めて攻めて来るのを待つしかないのかな…」

「つってもよ、次に攻めてくんのがここグレイスとも限らねぇんだろ?」

「ですよね…」

「……そもそも…いつ来るのかも…どうやって攻めるのかも…分からない…」




確かにその通りだ…

情報が一切無く、世界征服するという目的しか分からないのであればこちらからは動きようがない。

RPGの魔王軍って勇者が魔王城に向かっている間にどうして他の町とか襲わなかったんだろう…




(まぁゲームの話したって仕方ないか…)




「せめて何をしてくるのか分かれば対策考えられるんだけどなぁ…」

アスタルテはため息を付く。




「まあ確かに、分からない限りはどうしようもないね…」

レーネも顎に手を当てて悩んでいた。

「とりあえずはギルド長からの指示待ちって所だね、これは国全ての問題な訳だから…」

「……きっと今頃…各国の偉い人たち…話し合ってる…」

「まぁ、ダンジョンとカンの町の変異種達を殲滅したのは奴らも予想外だっただろーし、裏で操ってんのが魔族だって知られたのも誤算だっただろうからな、しばらくは動けねーんじゃねぇか?」




(確かにゼルさんの言う通りだ…本来ならたまたまダンジョンから魔物が溢れて町を襲ったというシナリオにしたかったはず…でもカヤさんがこっちについた事で全てが漏洩してしまった…)




「ってあれ?そういえばカヤさんはどちらへ?」

そういえば、カヤさんの姿が見当たらない…




「あやつなら事情聴取でギルドに行っておるぞ」

「ギルドに…」

「どうした?何か気になることがあるのか?」

「もしだけどさ、ノレスが世界征服を企んでいたとして、最初の計画で上手くいったと思ったら部下が敵側に寝返って情報を全部話していたとしたらどうする?」




アスタルテの問いに、ノレスはふむ、と顎に手を当て考える。




「我なら…必要以上に話される前に消すじゃろうな」

「町の中にいたとしても?」

「魔族には暗殺技術に長けた者もおるからの、そいつに任せるじゃろう」




それを聞いたアスタルテは背筋に冷や汗が垂れるのを感じた。




「カヤさんが危ない!!」

「しかし、念のため奴には我の魔法で監視を付けている。今のところ変わった様子は無いぞ?」

「でも一緒にいて損はないと思う!私行ってくる!」




そう言ってアスタルテは家を飛び出し、ギルドへ走る。




「あ、アスタルテ君!?」

「あいつ、また飛び出してったぞ!?」

「……私も…行く…」




レーネ、ゼル、コトハの三人は急いで支度をし、アスタルテの後を追った。




「皆様どうされたのにゃ?」




ノレスも行こうとしていたが、チリアを見て動きが止まる。




(この家にはチリアとレニーがおる…どこから敵が来るか分からない以上、誰かが残って守らなくてはならぬ…)




ノレスは振り返ると、席に戻って紅茶を手に取る。




「アスタルテ達め…我の方が魔族に詳しいというのに何も考えず出て行きおって…」

「ノレス様?どうしたんですにゃ?」




ノレスの顔を心配そうに覗き込むチリアを見て、ノレスはいつもの澄ました表情に戻る。




「大丈夫じゃ、それより紅茶が冷めてしまったから淹れ直してくれるか?」

「了解ですにゃ!」




チリアが台所へ行くのを見送ると、ノレスは頬杖を付いて窓から空を見上げる。




(大丈夫じゃ、この家もお主らも傷付けはさせぬ……にしてもクエンの奴、この借りは高くつくぞ…)




ノレスは心に秘める怒りの炎を燃やすのだった────












▽▲▽▲▽▲▽▲▽▲▽▲▽▲▽▲▽▲▽▲▽▲▽▲













「はぁ…疲れたぁ、一体何度同じ話をすれば気が済むんだろぉ…」




何回も同じ質問を繰り返され、やっとカヤはギルドから解放された。

ノレスやアスタルテが説得したおかげで敵のスパイではないとはわかってもらえたが、証人として魔族のことを何回も根掘り葉掘り聞かれたのだ。




「にしてもぉ、クエンってなんで魔族以外を毛嫌いしてるのかなぁ…」




ノレスが魔王だった頃は、基本人間や亜人族などに対して敵対する事なく、逆に積極的に接するわけでもない中立的な立場にいた。

カヤもノレスに賛同する立場だったし、クエンだって反論していなかったはずだ。




(内心は気に入ってなかったのかなぁ…)




カヤが考えながら歩いていると、通行人と肩がぶつかってしまった。




「あっ、ごめんねぇ…」

「おイ…」




その通行人はフードを深く被っていたのだが、声を聞いてカヤは固まる。




「まさか…姉さん…?」

「カヤァ…テメぇに話がアル…ツイて来イ」

「で、でもぉ…」

「さっサとシロよ愚妹ガ…ココで話ツケてもイイんダぜェ?」




そう言うとカヨはギラリとした歯を見せてニヤつく。




「…っ!わ、分かった…」

「早くコイ…」








カヨは町を抜け、森の方まで歩くと立ち止まり、そして振り返る。




「そ、それで姉さん…話って?」

「あン…?」




カヨはフードを脱ぐと、眉間にシワを寄せてカヤを睨む。




「てメェ…分かっテんダロうがよぉ?裏切って全部ブチまけヤがったナぁ?」

「そ…それは…」

「クエンがブチギレてたゼぇ?テメぇを連れ戻して来いってヨォ…だが出来損ナイでも一応お前ハ血の繋がッタ家族ダカラなぁ、そノよしミで苦しまずニ殺シテやるヨ!」

そう言うとカヨはカヤに向かって飛びかかる。




しかし襲いかかった瞬間、火の玉がカヨ目掛けて迫り、咄嗟にカヨは避ける。




「なンだぁ?」




カヨが火の玉が飛んできた方を見ると、そこには三人の影があった。




「おいおい、町の近くで何暴れてんだ?」

「悪魔が情報を持って来てくれたね」

「……とりあえず…捕獲する…」




それは、レーネ、ゼル、コトハだった。




「み、皆さん…危険ですぅ!逃げてくださいぃ!」

カヤが叫ぶが、それと同時にカヨも三人に向かう。




「雑魚共ガぁ、邪魔スンなぁ!」




「コトハ、ステータスアップを頼む!ゼル、挟み込むよ!」

「……任せて…」

「おう!」




レーネは素早く指示を出し、剣を構える。




「オラァ!大切断!」

ゼルは大剣の重量を1.5倍に引き上げ、横になぎ払う。




「チぃ!」

カヨは後ろに飛んでそれを避けるが、その先には既にレーネがいた。

「スラッシュストーム!」

レーネは高速の剣技でカヨを切りつける。




「……フレイム…ボルト…!」

レーネの攻撃で動きが止まった所へコトハが炎の矢を打ち込み、カヨの身体が炎で包まれる。





「ウ…ガあァぁ!」




カヨは後方へ飛ぶと、咆哮と共に炎を一瞬で消し去った。




「なっ…無傷だと…!?」




カヨの身体には一切傷が無く、ダメージの痕跡が皆無だった。




「テメぇら…調子にノリやがッテよぉ…モウ許さネエぞ…」

カヨが静かに呟いた瞬間、その身体から猛烈なオーラが溢れ始める。





「ゼル、コトハ…気合入れるよ…」

「ああ、こりゃまたやべぇのが現れたな…」

「……うん…」















▽▲▽▲▽▲▽▲▽▲▽▲▽▲▽▲▽▲▽▲▽▲▽▲













「おかしいな…どこかですれ違ったのかな…」

ギルドまで来たアスタルテは、カヤを探していたのだが全然見つからず途方にくれていた。




「う~ん…もしかしてもう家に帰ってたりして…流石に早とちりだったかな…」

アスタルテは出かけたついでに何か食べ物でも買っていこうと思い、一歩踏み出す。





ぞわっ────。




その時、町の外から発せられた強烈なオーラに背筋が凍った。




「まさか…!?」




嫌な予感を感じ、アスタルテはそこに向かって全速力で走るのだった────



  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る