Sランク級の実力




「おラァぁぁ!」

「甘い!」

迫り来るカヨを躱し、レーネは斬撃を浴びせる。




(おかしい…)




レーネは一度ゼルとコトハに先頭を任せ、後ろでカヨを分析する。

これは彼女ら三人がいつもやっている戦法だった。




レーネは早速カヨの分析を開始するが、どうにも引っかかる点があった。




(なぜ…武器を持っていないんだ…?)




そう、カヨは武器を持っていないのである。




最初は近接格闘あるいは魔法特化かと思ったのだが、アスタルテのようにガントレットを持っていなければコトハのようなスペルブックも持っていない。




そしてカヨが襲いかかってくるときも、ファイティングポーズを構えているわけでもなく、体当たりのような感じなのだ。




(どうにも引っかかる…まだスキルも一度も使用していないし…ただ防御力が高いだけの戦闘初心者なのか…?)




だとしたら現魔王が初心者を敵地に一人で向かわせるだろうか…?




(いや…もしかして…)




レーネはとある予想をする。




仮に武器の射程が拳よりも短い物だったら…?

それなら防御力を使って強引に間合いを詰める事も納得がいく。




(でも…自分の腕よりも射程が短い物なんて思いつかないな…)




レーネが考えていたその時、ただの体当たりを繰り返すワンパターンな戦法、そして斬ってもダメージが与えられないもどかしさから我慢の限界なのか、ゼルが一気に間合いを詰めた。




「いけない…!ゼル、すぐに離れるんだ!」




しかし、レーネが声を上げた時にはもう遅く、カヨはニヤリと笑っていた。




「デスバイトぉ!」

「なっ!?」




カヨが叫んだ瞬間……カヨの鋭く尖った歯が黒く染まり、ゼルに噛み付こうと飛びかかる。




「……フレイムボルト…!」

「チぃっ!」




すかさずコトハがフォローを入れ、フレイムボルトがカヨに直撃する、が……




「消えた…!?」




本来ならば爆発し、炎上効果のあるはずのフレイムボルトがまるでどこかにワープしてしまったかのように消えてしまったのだ。




「クシシシ!オマえ、中々イイ魔法撃つジャぁねェか…」




カヨがニヤニヤと笑うと、小さくゲップをする。




────その時、レーネはある確信を得た。




「まさか…のか…!?」




レーネの言葉にゼルとコトハは驚きの表情を浮かべ、カヨは変わらずニヤニヤと笑う。




「さァ?ドウだろうナぁ?素直ニ教えるホド私は優しクないゼぇ?」




しかしその時、レーネ達の横から声が上がる。




「そうですぅ!姉さんは全てを無力化する胃袋と全てを噛み砕くスキルを持ってるんですぅ!」




それはカヤだった。




その声に、カヨの顔が歪む。




「クソッタレの愚妹ガぁ!何デモかんデもペラペラ喋りヤがってェ!」

「させっかよ!」




カヨはカヤに飛びかかろうとするが、ゼルが大剣を振って阻止する。




「ちぃッ!鬱陶しイなァ!」




カヨが吠え、苛立ちを見せる。

その歯はいつの間にか元の色に戻っていた。




(さっき使用してから戻るまでおよそ20秒……ということは、時限強化系のスキルか)




「ゼル!交代だ、下がって!」

「おう!」

レーネが前へ駆け、下がったゼルとすれ違う。




「ゼル、あの強化が途切れた瞬間で決めるよ」

「おっけー」




そしてすれ違った一瞬でレーネはゼルに作戦を伝える。

これも三人が行ういつもの戦法だ。

そしてレーネはコトハに一瞬目を向け、小さく頷くのを確認する。

どうやらレーネのやりたいことが伝わったみたいだ。




長い間三人で共に戦ってきたのだ。

それぞれがお互いの思考を一瞬で理解し、阿吽の呼吸で攻撃を重ねていく。




レーネが素早く接近し斬撃を浴びせかく乱、そのよろけた隙をコトハが魔法で的確に刺し、最後にゼルの重い一撃を叩き込む。





「す…すごいですぅ…」

カヤは美しさすら感じる三人の攻撃に思わず魅入ってしまう。

正直カヤは、この三人の強さは所詮そこらの人間よりも強い程度の物だと思っていた。

しかし、完璧に息が合った連携による攻撃は一つの戦力としてその者達が持つ力を何倍にも膨れ上がらせるのだ。




ましてや彼女らはSランク冒険者である。

数々の戦闘で技術を高めていったその力は、持つ武器の能力を最大限まで引き出すことができ、相手の動きをほぼ完璧に読むほどの勘を生ませたのだ。





「イイ加減にィ…シろォ!!デスバイトォ!!」

自分のペースを乱され激昂したカヨはスキルを使って流れを断ち切る。




しかし、それこそがレーネの狙いだった。




「ゼル!」

「おうよ!狂戦士化バーサーク・モード!!」




ゼルは強化スキルを使い、カヨと互角に渡り合う。

その間、レーネはカヨに斬撃を適度に浴びせつつ時間の経過を意識していた。




「…18…19…20…今だ!ゼル、コトハ!」

「ナっ!?」




カヨがレーネの狙いに気付いたときにはもう手遅れだった。

そう、狙いはカヨの時限強化が切れるタイミングだったのだ。




「滅一閃!!」

「天地両断!!」

「……フォース…レーザー!!」




三人の奥義が炸裂し、カヨは吹き飛ぶ。




「く…クソがァぁ!私がァ…コんナ雑魚共にぃィ…!」




流石のカヨも大きなダメージが入りその場に膝を付く。




「まだ倒れないとはね…」

「その雑魚共に負ける気分はどうだ?」

「……私達を…侮りすぎ…」




レーネはカヨに近づくと、トドメの一撃を入れようと剣を構える。




「そこまでだ」




しかしその時、まるで感情がないかのような声が辺りに響き、咄嗟にレーネは後ろへ飛ぶ。

すると、どこから現れたのか、フードを被った女性がカヨの前に出現する。




「おいおい、まだ仲間がいたのかよ…」




ゼルが小さく呟き、大剣を構える。




「く…クロか…遅ェじゃネエか…」

「一旦退くぞ」

「フザ…けんな!コイつラ許せネぇ!お前ナラやれンダロォが!」

「そういう訳でもなさそうだ」




「うおおおおぉぉ!!」




クロと呼ばれた女性はカヨを掴むと後ろへ飛ぶ。

次の瞬間、クロ達が居た地面が粉々になった。




「アスタルテ君!」

レーネが叫ぶ。




そう、アスタルテが到着したのだ。




「どういう状況ですか!?」




地面に刺さった拳を引き抜き、アスタルテは素早く立ち上がる。




しかし、その時には既にクロとカヨの周りには風が吹き荒れていた。




「オマえラ…覚えトけよォ!」




カヨのセリフと共に、二人は姿を消す。





こうして、カヨによるカヤへの襲撃は終わったのだった────


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