アスタルテ、怒りのグーパン
「……魔法ってすごいな」
辺りを警戒しつつ治療を見守っていたアスタルテは呟く。
先程足が折れていた子、瀕死で呼吸が浅かった子も、今や軽く動けるくらいまで回復していた。
アスタルテがいた地球の技術ではまずこの短時間でここまで回復するのは不可能だろう。
一生足が動かなかったり、最悪亡くなってしまう可能性だってある。
(回復魔法…覚えられるなら覚えておきたいな…)
アスタルテが見ていると、後方から気配を感じて振り返る。
「あ、ノレス!と…誰だろう、あれ」
そこには、ノレスとその横の誰かがこちらに向かって歩いていた。
「あの子がノレス様が言っていた人ですかぁ?」
手を振るアスタルテを見ながらカヤが問いかける。
「うむ、そうじゃ。名はアスタルテという」
ノレスはアスタルテに向かって小さく手を振り、カヤの質問に答えた。
「ふ~ん、あのちっちゃい子がですかぁ…」
カヤは眉をひそめ、アスタルテをまじまじと見る。
「信じられぬか?」
「う~ん…ノレス様の言葉を疑うわけじゃないんですけどねぇ…」
「まぁ、無理もない。普段はオーラも感じぬしな、まぁそこが良いところでもあるのじゃが…」
「どちらかというとそのへんの田舎にいる農牧民って感じがしますけどねぇ…」
カヤの言葉にノレスの眉がピクリと動く。
「ほう…なら戦ってみると良い」
「え、いいんですかぁ?でも私ぃ、ああいう可愛い子にはやりすぎちゃうかもしれませんよぉ?」
「ふっ、まぁやってみろ」
ノレスの言葉を聞いてカヤはニヤリと大きく笑う。
「クシシシ!それなら遠慮なくぅ!カオスウェーブ!!」
「へっ?」
アスタルテは間の抜けた声をだす。
ノレスと横の人が話していたかと思えば、いきなり横の人から攻撃が飛んできたのだ。
「えっ、ちょっ…うぐぇ!」
一瞬の出来事でアスタルテは訳が分からず、顔面で攻撃を受けた。
「え、痛…なにこれ、どういうこと…?」
アスタルテは困惑の表情を浮かべる先で、カヤは固まっていた。
「あれぇ?首吹き飛ばすくらいの勢いで放ったつもりなんだけどぉ?まぁいいやぁ!」
カヤはアスタルテとの距離を一気に詰め、大鎌を振るう。
「え、ちょっと!?なんなんですか!?」
アスタルテは依然として訳が分からず、攻撃を避ける。
「クシシ!あんたぁ、ノレス様より強いんでしょぉ?その力私に見せてよぉ!」
カヤは狂気の笑みを浮かべながら大鎌を振るい続ける。
「いや、だからって!状況を考えて下さいよ!」
攻撃を避け続けながらアスタルテは叫ぶ。
子供達が怪我を負って治療中だし、町だって大変なことになっている。
そんな状況で力試しなんてしている場合ではないのだ。
「状況なんてどうでもいいぃ、私はあんたが本当に強いのかが気になるのぉ!」
この状況がどうでもいいだって?
そもそも一体誰なんだこの人は。
ノレスの知り合いかなにかなのだろうか…
「だったら後で手合わせしますから!今はこんな事してる場合じゃないんです!」
アスタルテは少しカチンときながらも、場を収めようと声を上げる。
しかし、それを聞いたカヤは口角をさらに上げて笑った。
「後でぇ?今でいいじゃん!ほらほらぁ、だったら私を止めてみなよぉ!」
「あーもう!」
アスタルテは我慢していたが、そろそろ限界だった。
「いい加減にぃ!」
アスタルテは動く速度を上げると、カヤの目の前まで移動する。
「しろおおおぉぉ!!!」
アスタルテは叫ぶのと同時に高速で振りかぶり、カヤの脇腹に拳を叩きつけた!
そのまま勢いで振り切ると、カヤは目にも止まらぬ速さで吹き飛び森を突き抜ける。
やがてアスタルテから1キロほど離れた場所で減速し、止まった。
「ハァ…ハァ…、あっやば、やってしまった!」
アスタルテは我に帰ると、回復ポーションを持って高速でカヤの元まで走る。
大量の木をなぎ倒した先でカヤは倒れていた。
「だ、大丈夫ですか…?」
アスタルテは声を掛けるが、反応はなかった。
「まさか…」
「大丈夫じゃ、そう簡単にこやつは死なん」
いつの間に来たのか、ノレスが横に立っていた。
「う…ぐぅ…ぇ…」
ノレスの声に反応してか、カヤがうめき声を上げる。
「これで分かったじゃろう、アスタルテの強さを」
ノレスが声を掛けると、カヤはうつ伏せで倒れたまま親指を立てた。
「全く…こやつは我が連れて行こう」
そう言うとノレスがカヤを乱暴に持ち上げる。
「ノ…レス…様ぁ…もちょい…ゆっ…くりぃ…」
「知らん。お前にとって痛みはご褒美なんじゃろう?」
「そいう…次元じゃ…ない…です…ぅ…」
「えっと…ノレス、その人は?」
「皆が集まったら話がある。こやつの事も含めてな」
アスタルテは首を傾げつつも、元いた所に戻るのだった────
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