戦いの終わりと潜む2つの影
「おっとっと…」
ノレスから繰り出される大きな魔法の玉をカヤは避ける。
「そら、まだまだゆくぞ。我をもっと楽しませてみせろ!」
ノレスは叫ぶと、瞬く間に周囲に闇の玉が出現し一斉にカヤに襲いかかる。
「くっ…カオスジャッジ!」
カヤが詠唱と共に大鎌を振るうと、その切り口から闇の次元が現れ攻撃を受け流す。
「カオスウェーブ!」
カヤはすぐさま攻撃に転じ、振った大鎌から闇属性の鋭い刃を飛ばした。
「ふん、甘いわ」
しかし、ノレスが手を前にかざしただけで闇の刃が弾けて消えてしまった。
(やっぱ魔法の打ち合いじゃ敵うわけないよねぇ…)
「……カオスシャドー」
カヤが詠唱すると、その姿が消える。
そして音もなくノレスの背後へ走り寄り、脇腹を狙って大鎌を振りかぶる!
「それで隠れたつもりか?」
ノレスの声が聞こえてきたのと同時に、回し蹴りが頭めがけて飛んでくる。
「なっ!?」
カヤは咄嗟に大鎌を縦に構え、柄の部分で攻撃を受け止める……が、衝撃を受け止めきれずに吹き飛んでしまう。
「いった~……」
どうやら無理な体勢で攻撃を受けたからか、大鎌をメインで支えている右手の手首が折れてしまったようだ。
「ノレス様ぁ、ちょっと痛いじゃないですか───」
カヤが言い終わる前に、前方から大量の闇の魔弾が向かってくる。
「ちょっとぉ!」
カヤは負傷した身体にムチを打ち、横に飛んでなんとか回避する。
しかし、その後もノレスの攻撃は止むこと無く降り続け、徐々にカヤの体力を奪っていく。
(魔力無限かあのバケモノはぁ!詠唱もしてる気配ないしぃ…どうなってんのほんとぉ…)
……このままじゃジリ貧だ。
カヤは勝負を決めるため、被弾覚悟でノレスの元へ一直線に走る。
「カオス…ブレイドォ…!」
攻撃に多少カスリつつも、なんとか間合いまで詰めれたカヤは詠唱で大鎌に闇を纏わせ、力を振り絞って左手のみで大鎌を振るった!
(この間合いなら横に避けても後ろに避けても完全な回避は不可能ぉ!)
「……ふっ」
攻撃が当たると確信したカヤだったが、ノレスは小さく鼻で笑った。
そしてノレスが素早く動く。
しかしそれは横でも後ろでもなく……
─────前だった。
「なぁっ!?」
戦いの中でカヤは一つ分かった事があった。
それは、ノレスは基本遠距離攻撃しかせず、あまり身体を動かさない事。
そしてこちらが攻撃を仕掛けた場合、それを防ぐか回避する。
先程は回し蹴りを食らってしまったが、それはバレていないという慢心から間合いを見誤ってしまったからだ。
ノレスの足より、カヤの持つ大鎌の方が長い。
つまり鎌が届き、足が届かない位置から攻撃をすればノレスは防ぐか回避する行動に出る。
────しかし、それは大きな勘違いだった。
初めからノレスは本気じゃなかったのだ……
本気で攻めたら勝負は一気にケリが付く。
だからこそ敢えてノレスは受身な戦い方をしていた。
一瞬で目の前まで接近したノレスにカヤは対応しようとするが、予想外の出方に一瞬ひるみ、さらに片腕しか使えない状態で間に合うはずも無かった。
「終わりじゃ」
トン……
ノレスは言葉と共にカヤのお腹に手を当てる。
次の瞬間───
ノレスの手から闇魔法が放たれ、カヤのお腹を貫くと同時にその身を後方へ吹き飛ばした!
「かはっ……!」
激しく壁に打ち付けられ、そのままズルズルと地面に落ちたカヤは身動き一つ取れず、血を吐く。
「さて、勝負は着いたじゃろう。知ってることを話してもらおうか?」
ノレスがカヤの前に来てその姿を見下ろす。
「クシシ…別に誰もぉ…勝負が着いたら話すなんてぇ…言ってないですよぉ……?」
カヤの言葉を聞いたノレスが顎に手を当てる。
「そうじゃな、確かにお前は口を割らせろとか言っておったな」
「クシシシ…そうですよぉ…私の口が堅いのはぁ…ノレス様も知ってますよねぇ?」
「ふむ」
ノレスは力無くぶら下がったカヤの右手首を足で踏む。
「ぐっ…!ク…シシ…そんなんじゃぁ…全然足りないですよぉ…?」
カヤはニヤリと口を釣り上げノレスを挑発する。
「そうか、そういえばお前は真性のドMじゃったな」
するとノレスは後ろを向き、手をどこかに向かって突き出すと闇の魔力を手に集め始めた。
「……?」
カヤはノレスの行動の意図が分からず、目で手の方向を見る。
─────そして次の瞬間、その表情は一変した。
ノレスの手が向いている先は、カヤが持っていた大鎌だったのだ。
「仕方ない。それじゃあまずアレを吹き飛ばすとしようでは───」
「ま…待って…くださいぃ…!」
ノレスの言葉を遮り、カヤは必死に声を張り上げる。
「私のカオスサイスに……罪はないじゃないですかぁ!」
「大事にしているのは知っておるが、まさか名付けまでしていたとはな……あと、ヤツは罪だらけだ」
はぁ…とノレスがため息をつくと、どこからともなく出現した回復ポーションをカヤに渡す。
「お前のカオスサイスとやらが吹き飛ばされたくなかったらさっさとそれを飲んで情報を話せ」
「はぁ…分かりましたよぉ……降参…ですぅ…」
カヤは観念したようだ。
「ところでノレス様ぁ…」
「なんじゃ、さっさと飲め」
「腕…上がらないのでぇ…これ、飲めませんよぉ…」
「………」
再びため息をつくノレスだった……
▽▲▽▲▽▲▽▲▽▲▽▲▽▲▽▲▽▲▽▲▽▲▽▲
「さて…とりあえずなんとかなったけど…」
アスタルテはレニーと再開後、急いで寝ている子達を起こしポーションを配った。
そして皆を連れてさっきの広間に戻り、怪我をしている子達に皆で分担してポーションを飲ませていた。
もちろん、重症者はなるべく布で覆って子供達には見せないようにしていたのだが…
流石に匂いがきつすぎるのもあり、かなり酷な事をさせてしまっている。
(でも私一人じゃ全員に飲ませるのに時間かかるし…最悪手遅れになっちゃうかもしれないからね…)
アスタルテは悩みつつもポーションを飲ませてあげていると、後ろから突如怒鳴り声が上がる。
「お前、さっきはよくも見殺しにしてくれたわね!」
「で、でも…私の力じゃどうすることも…」
「あんたが身代わりになれば良かったじゃない!私さっきまで傷を負ってたんだからね!?」
見たら、さっき奥の方で出会った子とレニーが喧嘩をしていた。
いや…どちらかというと一方的な罵倒か…
アスタルテは走って二人の間に入る。
「あんたもあんたよ!私を見捨ててどっかに行っちゃって!私がその間に襲われてたらどう責任とるつもりなのよ!」
「いや、ここはもう安全だって言ったでしょ…?それにレニーがまだ見つかっていなかったし…」
アスタルテの言葉を聞いて、彼女の顔がさらに赤くなっていく。
「はん!そういう事だったのね!」
「ん…?」
「その獣人とあんたがグルだってことよ!」
「えぇ…?」
「そいつが私より先に連れていかれなかった事に納得だわ!最初から魔物共を操って町を滅ぼそうとしてたのね、そんで後からあんたが合流して魔物を殲滅、これであんたは町を救った英雄の称号がもらえてそいつは悲劇のヒロインになるわけ!」
(こいつは一体何を根拠に言ってるんだ…?)
アスタルテはこれまで抑えてきていたが、ここに来て相当頭にきていた。
私の事は別にどう言ったってどうでもいい。
けど、同じ被害者であるはずのレニーに対して魔物を操って町を滅ぼさせただと…?
「ねぇ…」
「っ…!な、なによ…真実にたどり着いた私を始末しようっての?」
彼女は一瞬怖気づくが、依然として高圧的な態度を取る。
どうやら怒りでオーラが溢れてしまっているらしい。
でも、今のアスタルテにそれを消す余裕はなかった。
「私さ、最初に君に出会った時、獣人の子を知らないかって聞いたよね?」
「そっ、そうだったかしら…?ショックで何も覚えてないわ」
「君は獣人の子を知らないって言ったし、最後に連れてこられたからここにいる人で全員って言った。でも、レニーが閉じ込められていた牢屋以外にそのような物は無かった」
「知らないわよ!見間違いじゃないかしら!」
「見間違いな訳ない、そこの牢屋が突き当たりだったんだから」
アスタルテは知らずのうちに彼女にジリジリと歩み寄っていた。
「それに、君ショックで何も覚えてないんじゃなかったの?レニーによくも見殺しにしてとか言ってたよね?」
「そ…それは…」
彼女の目が泳ぎ始め、額から汗が流れる。
「ア、アスタルテさんっ!」
その時、レニーが後ろからアスタルテに抱きついた。
「レニー?」
「私はもう大丈夫ですから、ねっ?今は皆を安全な所に移動させましょっ?」
「う~ん…レニーがそれでいいのなら…」
アスタルテはあまり納得がいっていなかったのだが、時間を無駄にするわけにもいかない。
気持ちを切り替え、作業に戻ることにした。
(そういえば…このダンジョンにいたもう一つの大きな気配はどこにいったんだろう…)
気付いたら気配は消えてしまっていた。
「まあ、いなくなったならそれはそれでいいんだけど…」
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「さて、ひとまず全員を外に連れてきたのはいいんだけど…」
これからどうしようか…
カンの町まで行くにもそこそこ距離があるし、歩けない状態の子も少なからずいる。
とりあえず重症の子だけカンの町まで抱えて走ろうか…?
(医者の方がいればいいんだけど…)
アスタルテが頭を抱えていると、こちらに向かってくる大勢の気配を感じた。
まさか…残党兵の魔物か…?
時間が無いっていうのに…!
(いや、違う…この強さは魔物じゃない…!ということはまさか…!)
「あ、アスタルテ君!」
「レーネさん!それに皆さんも!」
それは、レーネ、ゼル、コトハの三人とその他冒険者の方々だった。
レーネ達は駆け足でアスタルテ達の元へ向かう。
「アスタルテ君…急に飛び出して行って心配したんだからね?」
「ったく、せっかく暴れようと思ったのにもう終わってんじゃねぇか」
「……そういう無鉄砲な所も…好き…」
三者三様の意見に思わずアスタルテは笑顔になるが、慌ててレーネに話しかける。
「レーネさん!この子達、町から連れ去られた子達です!中には重症の子もいるのですが…」
「ふむ、分かった。安心して、回復魔法が使える人が数人いる」
そう言うとレーネは後ろにいる冒険者数名に呼びかけ、すぐさま処置を行わせた。
「あのっ…皆の家や家族は…」
レニーがアスタルテの横に来ると、レーネに尋ねる。
「おや、君がレニーちゃんだね?」
「あっ、はいそうです。初めまして、レーネ様」
「様呼びは結構だよ」
「でもSランク冒険者様ですし…」
あの、私もSランクなんですけど…
アスタルテは思ったが口にはしなかった。
「私達もついさっき来たばっかりでね、状況を詳しくは理解していないんだけど…とりあえず町が復興するまではグレイスの教会でしばらく身を置いてもらう事になった」
「そう…なんですね」
「うむ、とりあえず私達はダンジョン内の様子を見てくるから、ひとまず馬車に乗って待っててくれるかな?」
そう言うと、レーネ達はダンジョン内へ入っていった。
(私はとりあえず外で治療の様子を見つつ敵が来ないか見張っておくか…)
そう思いつつ、アスタルテは皆を馬車へ誘導する。
馬車は複数あるし、レニーと喧嘩してた子は別の馬車に乗せよう。
また怒鳴られたら困るし…
そう思ってアスタルテは辺りを見渡すが、さっきの子が見当たらない。
もう馬車に乗ってしまったのだろうか…
アスタルテは近くの馬車を覗くとその子がいない事を確認し、レニーを乗せる。
「ノレス大丈夫かな…」
チラリと町の方を見るも、当然千里眼など持ってないアスタルテに状況が分かる訳もなく、心配するのだった────
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「全く…ナんなンだぁ?アノ化物は…」
暗い森の中で、カタコトで女性が呟いた。
「どうした?」
そこへ、どこからともなく黒い衣装に包まれ、深くフードを被った女性が現れる。
「おいオイ、聞いテくれヨぉ。ダンジョンで魔物の交尾見てたラぁ、化物みたイなヤツが殴り込んでキテ一掃しヤがった」
「戦ったのか?」
「いいヤ、やっテない。私ジゃぁ無理ダ」
「お前が大人しく退いたって事は相当だな、帰ったら報告するぞ」
「そっチはどうダったンだぁ?」
フードを被った女性は小さく頷き、言葉を続ける。
「予定通りカンの町は堕ちた」
「あレぇ?そうイやカヤの奴どこダぁ?」
「町にノレスがいてカヤは敗れた」
「ハぁ?ノレスが?デモ今のあいつなら倒せるダロ?」
「いや、どうやら格段に能力が上がっているみたいだ」
「チッ、あの愚妹が…しくジりやガって…オマエ、足ついてナイよなぁ?」
「問題ない、私は遠くにいた」
「ナラいいけどヨぉ」
その時、カタコトの女性が後ろを振り返る。
「どうした、カヨ。さっさと戻るぞ」
カヨと呼ばれた女性は舌なめずりをし、呟く。
「いイ感じの負のオーラを抱えたヤツが来タぞぉ?」
息を切らしつつ走る少女が前方から現れる。
それはレニーと喧嘩をしていた少女だった。
「ハァ、ハァ…何が教会よ…!そんな所に住めるものか…私は自分の力で生きるわ…そして、私を馬鹿にしたあいつらに復讐してやる…!」
「ヨぉ…」
「ひっ!だ、誰よあんた!」
突如目の前に現れた人影に少女はびっくりする。
「オマエ、力が欲しくナイかぁ?」
「い、いきなりなんなのよ!」
「復讐…シタイんだろぉ?それナラ、力がないとダメだよなぁ?」
少女の周りを闇が包み込む。
「そう…そうよ…!私は復讐したい!そのための力が欲しい!」
「クシシシ…そうダよナぁ?ナラ、ついてキナぁ」
気付けば、少女の頭の中には復讐という感情で埋め尽くされていた。
カヨと呼ばれた女性は少女を引き寄せると、フードの女性と共にその場から消えるのだった────
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