炎の町に現れた青い炎





「ふぅ…」

アスタルテは安堵のため息をつく。




(瞬間移動、初めてで上手くいくか心配だったけど…大丈夫そうかな)




目を開けたアスタルテの表情が強ばる。

聞いてはいたものの、それを遥かに上回る地獄絵図がそこに広がっていた。




ほとんどの建物は炎で包まれ、そこら中に死体が転がっている。

まるで現実とは思えない光景に、アスタルテは呆然と立ち尽くしていたが、悲鳴を聞き我に返る。




悲鳴の方を見ると、冒険者らしき三人組がゴブリンに囲まれていた。

やはりどれも変異種だ。




「おりゃああ!」

アスタルテは咆哮し、光の速さでゴブリンの間合いまで詰めると拳でゴブリンを叩き木っ端微塵にする。




「大丈夫ですか?」

一瞬の出来事に唖然としていた三人組に声をかけると、ハッと我に返る。

「えっと…町の子供…?って、Sランク冒険者ですか!?」




アスタルテの容姿に困惑していたようだが、腕に付いてるアームレットで察する。




(銅のアームレット…Cランク冒険者か)




見たところ三人ともCランク冒険者らしく、女性の二人はシスター服のようなものを着ているから恐らくヒーラー、もう一人の男性は剣士ってとこだろう。





「っ!そうだ、レニーって子知りませんか!?」

アスタルテは目的を思い出し三人に聞く。




三人は顔を見合わせたが、皆首を横に振った。




「そう…ですか…じゃあ、私はダンジョンへ行ってきます!」

それを聞いて女性冒険者の一人が首を傾げる。

「なぜ、今ダンジョンに潜られるのですか…?」





どうやら、三人は急な襲撃を受けて立ち往生していたらしく、状況を理解していなかった。

ダンジョンから沸いた魔物が町に攻めて来ていること、子供達が連れ去られた事を説明する。




「そう遠くない内にグレイスから援軍が来ます、私もできる限り町の魔物を倒してからダンジョンに向かうのでそれまで隠れていてください!」




伝えることを伝えると、町の中央へアスタルテは走る。




道中で見かけた魔物を潰し中央まで行くと、そこには数え切れない程の魔物がいた。

ゴブリンにブルーウルフ、すべて変異種だ。




「あはは…無双ゲーかなにかかな?これは」

アスタルテは一度深呼吸をすると、両手を前に突き出す。




(フォースフレイムレーザー!)




頭で念じると、手の前に4つの巨大な炎の塊が現れて組み合わさり、渦を巻いて魔物の群れに突き刺さる!




「おらあああああ!!」




そのままアスタルテは魔力を注ぎ続け、照射レーザーへと書き換える。




そして両手を突き出したまま身体を180度回転させ、前方全てにレーザーを叩き込んだ。




ほとんどの魔物が凍りつくのを確認し、アスタルテは空へ飛び上がる。





「粉々に砕けろっ!!」




(天地両撃…!)




身につけているガントレットを20倍の大きさ及び重量に引き上げ、凍りついた魔物に鉄槌を降らす!





「はぁ、はぁ…」

アスタルテは砕け散った魔物だった物の上に着地し、呼吸を落ち着かせる。




「全然…爽快じゃないなこれ…普通に疲れる…」





ヒュン─────





アスタルテは危険を察知し、咄嗟に後ろに飛ぶ。




前を見ると、アスタルテがいた場所には3メートルはあるであろう大きな棍棒を突き刺さっていた。




「あれ、おかしいな…どこから沸いたんだこいつは…」




5メートル程だろうか…巨大なゴブリンがそこにはいた。

いや、ゴブリンというより、オークだろうか。





「ふぅ…とりあえずフレイムで凍らせ……ん?」




フレイムを放とうとして手を上げたアスタルテだったが、オークの腰を見てその手を下げる。




「下衆野郎が…」




オークの腰にはほとんど身に何も付けていない複数の女性が縛られて逆さに吊るされていた。

安否は不明だが、開放させる以外の選択肢は無い。




「……ぶち殺す」




アスタルテは地面を渾身の力で蹴り、その足跡を砕けさせながら一直線にオークへと突っ走る。




それを見てオークは巨大な棍棒をアスタルテへと振り下ろした。




空を覆うと錯覚するほどの棍棒をアスタルテは華麗に回避────しなかった。





「……邪魔。」




コツン、とアスタルテは棍棒に触れると、それは一瞬で粉々に砕け散った。




突然の出来事にたじろぐオークだったが、すぐさま次の攻撃へと移ろうとする。




────が、オークの視界には既に紙一重の所までガントレットが迫っていたのだった。




光を超える速度のアスタルテにとって、は余りにも遅すぎた────





パァン!!





アスタルテが放った渾身の拳は空気を割り、そして一瞬の真空状態を作り出した。




まだ己の死に気づいていないオークが最後に聴いた音は空気の破裂音だった────













▽▲▽▲▽▲▽▲▽▲▽▲▽▲▽▲▽▲▽▲▽▲▽▲













「良かった…全員生きてる…… っ!」





女性達の生存に安心したアスタルテが気配を察して後ろを振り返ると、大量の魔物がこちらに向かって押し寄せていた。




「えぇ、嘘でしょ…急いでダンジョンに行かなくちゃいけないのに!」

慌ててアスタルテは構える。





「えっ……?」




────その時、後ろからとんでもない魔力の気配を感じた。





それは、この前戦ったロックドラゴン変異種の数倍レベルのものだった。




(まずい…これ以上足止めを食らうわけには…!)





ダンジョンまで逃げるか…?

いやでもそれじゃあさっき助けた冒険者と女性達、そして町に残ってる人が…





「なんじゃ、苦戦しとるのか?我が愛しき人よ」




しかし、後ろから聞こえてきたのは敵の声ではなく、よく知る声だった。





「……ノレス」

「愛する者のピンチに駆けつけるこの姿…どうじゃ?惚れ直したじゃろう」

「うん、すごく心強いよ…これは普通の人だったら惚れちゃうやつだね」

「ほ、ほーぅ?そうか、惚れたか……ふふっ、そうかそうか」





普通の人だったらって言ったはずなんだけど…

アスタルテは調子の良いノレスに内心呆れつつも、普段の澄ました顔からは想像もつかない無邪気な笑顔に思わずドキっとしてしまうのだった……


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