チリアについて




「さて、どうしようかな…」

アスタルテは部屋で特大ベッドに寝そべりつつ考える。




考えているのはチリアについてだった。





というのも、先日起きた変異種についての調査が難航していたのだ。

ファイアリザード変異種の氷付けをギルドに持っていったアスタルテ達だったが、調査して出た結果は‘’ただの変異種‘’という事だけだった。




結局ダンジョンの魔物が活発している訳ではなく、何故か変異種になっているという事しか分からなかった為、その後の調査はギルドの依頼待ちということになった。




ダンジョンは危険なため一時的に封鎖され、今はほとんどの冒険者が森や荒野へ狩りに出ている。





幸いアスタルテ達には貯蓄があるので、今はギルドからの依頼があるまでそれぞれ自由に過ごす事にしていた。





となると次に片付けなくてはいけない問題は、チリアについてになる。




とりあえず自立出来るようになるまでアスタルテ達と一緒に住んで料理やら掃除やら魔法やら、何かしらの職に着くためのスキルを身に付けて欲しいと思っていたのだが…




チリアのおかげでかなり家が良い状態になったのだ。




ご飯を作ってくれるおかげで外食が減って食費が抑えられているし、掃除洗濯をしてくれてるおかげでいつでも布団はふかふかなのだ。





そこで、チリアを正式に住み込みメイドのような感じで雇うというのはどうかと考えている。




(1回チリアに聞いてみようかな…)




そう思ってアスタルテは部屋を出ると、丁度床を拭き掃除しているチリアを見つけた。




見ると、チリアは真剣な顔をして丁寧に掃除をしていた。




そんなチリアを見ているアスタルテにふと疑問が沸いた。





チリアはアスタルテより2つ頭ほど背が高く、髪は少し黒みがかった銀色でその髪と腰から伸びる尻尾には黒いシマシマのような特徴的な斑点があった。

何故か耳は黒かったが、そういう模様なのだろうか?

瞳は透き通った綺麗な水色をしている。

肌は健康的な小麦色の褐色肌で、ネコミミを除くと膝までは普通の人なのだが、その下からはふさふさの毛に覆われた猫の足だった。




今はメイド服のスカートによって足しか見えないのだが、その足も靴下や靴を履いていない。




(アニメとかでよく居たネコミミっ娘って猫の尻尾と耳が生えてるだけで他は普通の人間と同じだったんだけどな…)





まあ現実とアニメを比較しても仕方ない…




それよりも、アスタルテには1つ気になる事があった。

ネコミミが生えてるという事は、人間の耳の位置には何も無いのではないだろうか?




よくアニメに出てくるキャラはみんな横髪で本来人間の耳がある所が隠れていてどうなっているのかが謎なのだ。




(今こそ長年の謎を解き明かす時なのではないのだろうか!)




そう思ったアスタルテはチリアの後ろにこっそり回る。

そしてチリアの横髪に手を添え、捲りあげた。





「はにゃぁぁぁ!?」




チリアは突然の出来事にびっくりしてその場に跳ね上がる。




「ご、ご主人様!?突然どうしたのにゃ!?」

「ぐぬぬ…一瞬しか見えなかった…」

「なんの話をしているにゃ…?」

「あ、いや耳どうなってるのかなって」

「耳?この耳の事かにゃ?」




そういってチリアは頭に付いてるネコミミを指差す。




「あ、うん、耳は耳なんだけど、ここにはなにもないの?」

アスタルテはそう言って自分の耳を指さした。




「あ、そっちの耳にゃね!」

それを見たチリアはポンと手を叩くと、髪をつまんで上にあげた。




「えっ…?」




アスタルテは困惑した声を出した。





────なぜなら、そこには人間の形をした耳があったからである。





「え?なんで耳が4つあるの…?ネコミミの方は飾り的な…?」

「飾りなんかじゃないにゃ!ちゃんと全部機能してるにゃよ!」

そう言ってチリアが頬を膨らませた。




「そ、そうなんだ…」

「そうにゃ!こっちの耳は近くの音を拾っていて、ネコミミは遠い音とか細かい音を拾っているのにゃ」





なるほど、そういうことなのか。

そう考えたらめちゃくちゃ便利だな…




「そういえばさ」

「にゃ?」

「勝手にネコミミって言ってるけど、チリアって猫ベースの獣人なの?」

「それ…は、確かにわちも知らにゃいけど…そうじゃにゃいの…?」





うーん…とアスタルテは考え込む。

言葉のところどころに“にゃ”が入ってるしネコミミだからてっきり猫だと思っていたんだけど…

一つ気になることがあった。




「猫って銀と黒でそんな柄のなんていたっけ…?」




なんだろう、なんて言えばいいんだろうか…

確かにスコティッシュフォールドという種類の猫は地球に存在していた。

あの模様は確かにグレーと黒のしましまだったのだが、なんか違う気がする…




しましまだけならともかく、楕円の模様があるというか…

なんか既視感があるような…





はっ!とアスタルテはある仮説を立てる。

「まって、もしかしてだけど…」

「ちょ!なにするにゃご主人様!」




アスタルテは唐突にチリアの耳を触る。




「もしそうだとしたら、確か耳の裏にあるはず…」

「ご、ご主人様…!耳触るのやめてほしいにゃ!こそばゆいにゃ!」

「ごめん!ちょっと我慢して!」

「そんにゃ~…」





あるとしたらこのあたりに…




「……あった」

「へ…?」

「虎耳状斑…!」

「こ、こじ…?」

「チリア、君は虎ベースの獣人だよ!」




虎耳状斑(こじじょうはん)とは、主にトラやヒョウ、チーターなどの耳の裏にある模様で、白い丸の斑点が特徴的だ。

アスタルテが詩憐だった時に猫と虎って大きさ以外何が違うんだろうと思ってネットで調べた時に出てきたのがまさしくこれだった。




確か野生の猫にもあることもあった気がするが、チリアの楕円の模様が決定打になった。





「青い瞳にその模様、そして黒い耳の裏には虎耳状斑…チリアはただの虎じゃない、ホワイトタイガーだよ!」

「ほ、ほわいとたいがー?」

「あ、えっと…白虎?」




あれ、白虎って言うと中国の四神になっちゃうかな…

白い虎?

ううむ、どう言えばいいんだろう…




「虎の白変種というか…」

「はくへんしゅ?ってなんにゃ?」

「ええっと、とりあえず虎!」




アスタルテには伝えられそうになかったので思考を放棄することにした。




「あ、そうだ、もう一つホワイトタイガーの特徴といえば…」

「にゃ!?」




アスタルテはおもむろに屈むと、チリアの足を持ち上げる。

そして肉球を見た。




「うん、やっぱりそうだよ、間違いない」

「チリアはご主人様の行動が分からにゃいにゃ…」

「あ、ごめん。えっとね、もう一つ特徴があって、このピンク色の肉球なの」




そう、チリアの手は人の手だが、足は動物に近い。

つまり肉球が存在するのだ。

そしてホワイトタイガーのもう一つの特徴、それは肉球がピンク色ということなのである。




ここまで特徴が一致するとなると、流石にホワイトタイガーがベースの獣人で間違いないだろう。





「わちは、お父さんもお母さんの顔も見たことにゃいから知らなかったにゃ…」

「虎族でさらにホワイトタイガーだなんて!チリアはすごいよ!」

「そ、そうなのかにゃ…?えへへ…わちはご主人様と出会えて本当に良かったにゃ…」




そう言ったチリアの瞳には涙が浮かんでいた。




そんなチリアの頭を撫でようとアスタルテは手を頭に乗せる。

もふっとした感触に、柔らかい髪の毛が心地良かった。

うん、心地良い。

めちゃくちゃ、心地良い…




「あ、あの…?ご主人様…?」




(やばい、めちゃもふふわなんだが…やばいかもこれ)




気付くとチリアはアスタルテに頭をぐいっと引かれ、上に顎を乗せられていた。




「やばいめっちゃふかふかする~…ネコミミ、じゃなくてトラミミもふわふわ…」

「や、ちょ、ご主人様、だから耳がこそばゆいのにゃ…!」

「尻尾もふにふにふわふわだ~!」




アスタルテが尻尾に手を伸ばし、ぐにぐにと揉み始める。




「にゃふん!ちょ、ご主人さにゃ…尻尾、しっぽはダメなのにゃ…」

「この毛触りがたまらない~!」




アスタルテの手が段々下へと移り、尻尾の付け根の骨をコリコリと指で転がす。




「にゃ!?つ、つけねはダメにゃ!なんだか身体が痺れてしまうのにゃ…」

チリアはアスタルテを剥がそうとするが、暴走モードへと突入したアスタルテを安々と剥がすことはできない。




「しっぽ、しっぽだめにゃのにゃ…そこ、変になっちゃうのにゃ…だめなのにゃー!」

「えへへへへ~」




もはやチリアの声はアスタルテには届いておらず、尻尾を撫で繰り回していた。




「ううう~、にゃあああー!!!」














▽▲▽▲▽▲▽▲▽▲▽▲▽▲▽▲▽▲▽▲▽▲▽▲












「ご主人様…本当にごめんにゃさい…」

「いや、チリアは悪くないよ、ごめん…」




顔に綺麗な引っ掻き跡を残したアスタルテとチリアはお互いに謝っていた。





うん、流石に調子に乗りすぎた…



そういえば、何か重要なことをチリアに聞こうと思ってた気がするんだけど…




なんだっけ…



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