新スキルのお披露目




「ったく、ほんとにどうなってやがるんだ?」




魔物を切り捨てたゼルがため息混じりに言う。




私達は今第四階層にいた。

魔物達が強くなっているとはいえ、流石に私達の敵ではない。

でも…





「全部…変異種か…」

やはりダンジョンには何かが起こっていた。




出現する魔物が全て変異種なのだ。




「変異種って、時期とかで大量発生するんでしょうか?」

「いや、そんなことは有り得ない」

レーネさんが答える。




「変異種とは本来、極まれに生まれる魔物の事なんだ。それは生まれながらに力を持つ選ばれしものって所かな」




(動物で言うところのアルビノ種…みたいな感じかな…)




「例えば、変異種同士の交配とかだとどうなるんでしょうか…?」

アスタルテは疑問に思い聞いてみる。




「ふむ、その場合だと通常種が生まれるはずだね」

「じゃあ、この状況って…」

「うん、完全に異常事態だね…」





一体何が起こっているんだろう…

依然として嫌な予感がするアスタルテだった────











▽▲▽▲▽▲▽▲▽▲▽▲▽▲▽▲▽▲▽▲▽▲▽▲















「ここが第5階層、ここのダンジョンのボスが居るところだね」

レーネが辺りを見渡すと、5メートル程のトカゲがいた。




「おかしいね…」

「そうなんですか?」

「あれはファイアリザード…のはずなんだけど、大きすぎる…」

「……普通…ファイアリザードは…2メートルくらい…」

「やっぱ変だな、こいつの死体持って帰るか?」

「できればそうしたい所だけど…あれを持って帰るのは中々無理があるかな…」

「それなら任せてください!」




アスタルテは飛び出すと、ファイアリザードに先制攻撃を仕掛ける。




(とりあえず…フレイム!!)




アスタルテが手を突き出すと、そこから生まれた青い炎がファイアリザードの全身を包み込み、凍らせた。




「凍らせたのはいいけどよ、これをどうやって持ってくんだ?」

ゼルが首をかしげた。




「ふっふっふ、任せてください!」

次の瞬間、ファイアリザードの姿が消える。




「!?」

驚く三人の前に今度は出現させた。




「は!?これ、どうなってんだ!?」

「これは…一体…?」

「……こんな魔法…見たことも聞いたことも…ない…」





「これは…こういうスキルです!」




驚く三人にアスタルテは高らかに言った。




(あれ、なんかもうちょっと言い方あったかな…)

不安になってきたアスタルテをよそに、三人は笑った。




「全く、アスタルテには驚かされてばっかだぜ」

「本当、そうだね」

「……うん…」

「それじゃ、ギルドに戻るか!」


「はい!」




ゴゴゴゴゴゴゴゴゴ…


アスタルテ達が戻ろうとした矢先、4人を地響きが襲う。



「な、なんだ!?」

「……地震…?」

「いや、これは…急いで地上に戻るよ!」

「は、はい!」







4人がダンジョンから戻ると、そこにいたのは─────






「グオオオオオオ!!」





「こ…こいつは…!!」

ゼルが険しい顔を浮かべる。




「……ロック…ドラゴン…」

「それも変異種…」




そう、そこにいたのは、以前三人が戦ったロックドラゴンだった─────





「え!?あの時倒したはずじゃ…」

「きっと別の個体だね…しかもあの時のより強そうだ…」

レーネが歯を食いしばり苦悶の表情を見せる。





「ここにロックドラゴンが現れることは到底有り得ない…しかもまた変異種だね」

「ったく、どうなってやがるんだ…」

「……やる…?」

「十中八九負けるね…でもこのまま野放しにするわけにもいかない…」




「でしたら、私がやります!」

アスタルテは一歩前へ出る。




「おいおい、いくらお前が強いっていっても、今回の相手は桁がちげえぞ…」

「この前のロックドラゴンとは身にまとってる覇気が違う…」

「……アスタルテ…危険…」




止める三人をよそに、アスタルテはもう一歩前へ出た。




そして─────






「滅一撃!!」




─────アスタルテがいい終わった頃には、ロックドラゴンの身体には穴があいていた。





「うおおおおお!天地両撃ぃ!!」




アスタルテのガントレットの大きさは20倍に膨れ上がり、重量もまた20倍になる。




しかし、アスタルテの腕力はそれをものともせず、ロックドラゴンに拳の雨を降らせた。





「お、おいおい…あれってまさか…」

それを見たゼルがわなわなと震える。




「うむ、間違いない…あれは私達の奥義だ」

とても信じられない、そんな顔をレーネはしていた。

(有り得ない…だってアスタルテ君はそもそも、私達の必殺技を見ていないはずだ…)




「……ということは…まさか…」





そのまさかである。

アスタルテは、ボロボロになったロックドラゴンに手を向け、唱えた。





「フォースフレイムレーザー!!」




すると、アスタルテの前に青い炎の塊が4つ出現し、やがて1つとなってロックドラゴンに一直線に向かっていった。

その威力は人智の範疇を遥かに超えており、その軌道はおろか、周囲をも冷気で凍らせていた。





「グルアァァアアアアアア!!」

ロックドラゴンは炎を消そうともがくが、その炎はとどまる事を知らず、ロックドラゴンの身体にあっという間に燃え広がり、そして………凍らせた─────





「アスタルテ君…この子は…」

「あぁ、とんでもねえ…」

「……常識を…覆す存在…」




驚く三人とは裏腹に、アスタルテは興奮していた。




(新スキル…!試してみたかったんだよね!うん、強いしかっこいい…!!)



こうして、人類に降りかかりかけた大いなる厄災は、人知れず静まったのであった─────













▽▲▽▲▽▲▽▲▽▲▽▲▽▲▽▲▽▲▽▲▽▲▽▲












「ほ、報告します!先日放ったロックドラゴンの変異種なのですが…!」

「あぁ、あれか。あれは作るのに結構手間取ったからな、今頃グレイス王国は火の海だろう?」




夜のように暗い闇に覆われた大地……そこに建てられた城で、不敵な笑みを浮かべる者がいた。





「そ、それが…」

「…?どうした、早く述べよ」

「グレイス王国にたどり着くことなく…瞬殺されました…」

「……は?何を言っている?あれはSSランクの冒険者数人がかりでも手に負えない代物だぞ?」

「はい…ですが…」

「ふざけるなッ!!」




ドン!と机を叩く音が響き、報告者を震え上がらせた。




「瞬殺だと…?そんな訳がないだろうがッ!!!」

「し、しかし…本当に…」

「それは本当なのか!?お前はそれを自分の目で見たのか!?どうなんだ!!」

「ももも、申し訳ございません!!私も先程報告を聞きまして…」




(そんな事を出来るやつがいるとしたら…1人しかいない…)

「ノレスの仕業か」




室内に重く響く声が、報告者の言葉を詰まらせた。

次の言葉を言ったら間違いなく激昂するからだ。

しかし、嘘を言うこともできない─────





「そ…それが…ノレス様ではなく…最近Sランクになった冒険者…みたいです…」

「…ノレス…“様”…だと?」




そこで報告者は自分の犯したミスに気づいた。

しかし、時既に遅しだった。




「も、申し訳ありません!これはミスで……ひッ…!」





─────ゴトリ。





床にが転がり落ちるのを最後に、報告者が言葉を発することはもう二度と無かった。





「最近Sになった冒険者…だと?そんなカスレベルのやつに瞬殺できるわけないだろうがッ!!」




室内にその声は響いた。




そこにはもう、先程のような不敵な笑みは存在せず─────




あるのは焦りの表情だけであった。





「クソが!」

地を蹴る足に、かつて喋っていた者の身体が当たる。




「チッ、下級オークにでも投げておくか…ノミレベルの脳みそしかないあいつらなら首が無くても勝手に貪り食うだろう」





扉を乱暴に閉め、その者は実験施設へと向かう。




「─────こうなれば、数で殺してやる」


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