第3章 =魔族戦争勃発=
ダンジョンの異変
「おりゃ!」
アスタルテの放った拳が魔物を粉砕する。
「う~ん…ここって適正ランクFの初級ダンジョンなんですよね…?」
「うむ、そのはずなのだが…」
「……様子が…変…」
アスタルテが前を見ると、そこには自分と同じくらいの身長のゴブリンが10体ほどいた。
しかし、どこか様子がおかしい。
気が立っているというか、我を失っているとでもいうべきだろうか。
彼らに知性は感じられず、よだれはだらだらと垂らしているし、肌の色も薄い緑色のはずが茶色く濁っている。
そしてなによりも……強い。
アスタルテ達からしたら取るに足らない存在ではあったが、これを駆け出しの冒険者が相手をするにはきつすぎる。
「強さも勿論そうなんだけど、沸く量が多すぎるね。中級ダンジョンの下層クラスの沸き量だ」
レーネが魔物を切り捨てつつ言う。
「普通、魔物の沸きはインターバルを挟むもんなんだけどな、さっきから沸きが収まる気配がまるでねえ、一体どうなってやがるんだ?」
(やっぱり、何か原因があるのだろうか…)
アスタルテはなんだか嫌な予感がした。
───────2時間前
「ダンジョンの調査?」
アスタルテ達は依頼を受けるべくギルドに立ち寄ると、受付嬢から声をかけられた。
「はい。ここ数週間の間に何故かダンジョンの魔物達が活発化しているとの報告を受けていて…」
「ふむ、それで私達にその調査をしてきてほしいと?」
レーネが顎に手を当てる。
「つってもよ、たまたまそこのダンジョンの魔物が繁殖期かなんかで気が立ってるだけじゃねえのか?」
「それも考えたのですが…どうも様子がおかしいんです」
「……おかしい…?」
受付嬢が困った顔をする。
「報告があるのは複数のダンジョンからなんです。同時期に複数のダンジョンで魔物が活発化するというのは前例がありません…」
「まあ、別にいいんじゃねえか?その分冒険者も早く成長できんだろ」
「それが…」
受付嬢が一度言葉を詰まらせる。
「?」
一同は疑問に思ったが、次の言葉を聞いて愕然とした。
「先日Fランクダンジョンで、冒険者のパーティが壊滅、Fランク2名Eランク1名Dランク2名の合計5名のパーティだったのですが、4名が重症…そしてDランク冒険者の方が…」
「────死亡しました」
「は…?それは確かにFランクダンジョンで間違いねえのか!?」
ゼルが興奮気味に机を叩く。
「はい、間違いありません」
「……ダンジョンの…ボスで…やられたの…?」
「いえ…それが…2階層目で壊滅したみたいです」
「レーネさん」
「ん?どうしたんだいアスタルテ君」
「亡くなってしまった人は、Fランクの方を庇って攻撃を受けてしまったとかなんですかね…?」
「確かに庇った可能性はある。しかし、それで死亡するなんてことはありえない」
レーネは断言した。
「そうなんですか?」
「うむ、Fランクの2階層目の魔物の強さが1だとしよう。その場合、Dランク冒険者の強さは最低でも10だ。攻撃を正面から受けたとしても軽傷にすらならない」
「それに、5人パーティだったんだろ?仮にFランクの2人が倒れたところでそこは2階層目だ。余裕で全員帰ってこれるぜ?」
「……Fランクダンジョンなら…トラップも…迷路も…ない…真っ直ぐ帰れる…」
「う~ん、他の冒険者に襲われたとかってありますかね?」
説明を聞く限り魔物だけで壊滅なんて逆に難しい。
アスタルテは、他の勢力に攻撃されたのでは?と思ったのだが…
「いえ、それも無かったみたいです。彼らが言うには、魔物に全滅させられた、と…」
受付嬢がアスタルテの考えを否定した。
「まあ、ただ事じゃねえのは分かったけどよ、どうしてウチ達なんだ?ほかの冒険者は?」
「それが…先日Cランク冒険者のパーティが調査に行ったのですが…未だに帰ってこないのです…」
「おいおい…どうなってやがるんだ…?」
ゼルがため息をつく。
「……なるほど…それで…私達に…」
「はい。依頼内容はダンジョンの原因の調査、そしてCランク冒険者パーティの救援です」
「ふむ、分かった。皆、依頼を受ける方向でいいかい?」
レーネの言葉を聞き、一同は頷く。
「よし、それじゃ早速行こう」
Fランクダンジョンに向かいながら、アスタルテは考えていた。
(これは現実だ、ゲームじゃない。ダンジョンで死んでもコンテニューなんて存在しない…)
▽▲▽▲▽▲▽▲▽▲▽▲▽▲▽▲▽▲▽▲▽▲▽▲
「ノレス様?どうかされましたかにゃ?」
アスタルテ達がダンジョンへ出発した時、ノレスは家でチリアに家事を教えていた。
冒険者じゃないノレスは基本的に家にいる都合上、チリアの監視役兼先生なのだ。
ひとまずチリアは家の住み込みメイドのような感じになった。
アスタルテ達は食事は今まで外食だったし、洗濯もたまにする程度だったので洗濯物が山のように溜まっていたのだ。
それにチリアが料理を作れるようになれれば食費も抑えられるし家も清潔になる。
包丁すらロクに持ったことがなかったチリアだったが、拾ってくれたアスタルテのため、受け入れてくれた皆のために必死で勉強し、今では簡単な料理なら作れるようになったし、洗濯もできるようになった。
今日も朝ごはんを振る舞い、それの皿洗いをしていたのだが…
お皿を棚にしまっていたノレスがふと止まり、窓の外に目を向けていたのだ。
「ノレス様?」
返事が帰ってこなかったのでチリアはもう一度呼びかける。
「ん?どうした?」
ようやく気がついたのか、ノレスが振り返る。
「あ、いえ…にゃにかあったのかにゃと…」
「少し変な風を感じてのう…杞憂であれば良いが」
「…?」
少し疑問に感じたが、皿洗いが終わる頃にはすっかり忘れていたチリアであった。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます