ゼルとのデート②
「ウチと手合わせだ!!」
ゼルがそう叫ぶ。
「え~と?」
突然のことでアスタルテは理解ができず、首をかしげる。
「ウチはもっと強くなりたいんだ、それなら強いヤツと戦うのが一番手っ取り早いだろ?」
「ま、まぁ確かにそうですけど…」
えっと、今日って一応デートなんですよね?
デートで戦い合うなんて事あります?
「てなわけでアスタルテ!遠慮はいらねえ!本気でかかってこい!」
「え、でも本気はちょっと…」
「む、それはウチは本気を出すまでもないって言いてえのか?」
(いや、まぁ言ってしまえばそうっちゃそうなんだけど…う~ん、どうしようかな…)
「とにかく!本気でかかってこい!分かったな!?」
「わ、かりました…」
それじゃあ一瞬だけ本気でやってみよう…
アスタルテは覚悟を決め、ガントレットを両腕に出現させる。
「それじゃ、行きますよー!」
「おう、どこからでもかかってこい……え?」
ゼルが言い終わった瞬間、アスタルテの姿は消えていた。
そしていつの間にそこにいたのか、ゼルの真横に姿があった。
その右手はゼルの脇腹に紙一重で止まっており、完全にチェックメイトだった。
ゼルは理解ができなかった。
なぜなら音1つ無く、さらには風すら感じなかったからである。
アスタルテが高速で移動したのであれば、普通突風を身に纏うはずである。
なのにもかかわらず、まるで最初からそこにいたようにアスタルテはそこに現れたのだ。
「あの…本気だとこうなっちゃうんですけど…」
「そ、そうか…なんか悪かったな…じゃあ、ウチに合わせてくれ…」
ゼルは冷や汗を拭い、気持ちを入れ替える。
(なんであんなに驚いていたんだろ?)
アスタルテは疑問に思いつつゼルから距離をとった。
アスタルテはその速さが故に、風すら切り裂き瞬間移動の如くゼルの横に付いたのだが、その凄さをあまり理解していなかった。
まだ戦闘経験の少ないアスタルテにとってはただ普通より速く動いただけとしか思わないのである。
(ゼルさんに合わせると言っても、まだ自分の力をコントロールしきれてないんだよね…)
ずっと同じステータスならともかく、戦闘ごとにステータスが大幅に上昇しているため、アスタルテはまだいまいち自分の力を使いこなせていなかった。
「よし、これを機に戦闘技術も身に着けようかな…!」
アスタルテは気合を入れると、早速ゼルに向かって突っ込む。
速度で言うと100キロくらいだろうか。
そして右手を振りかぶり、ゼルに向けて右ストレートを放つ!
が、大剣の腹に受け流され不発に終わる。
「オラぁ!」
攻撃を受け流したゼルは、そのまま流れるように剣を振り下ろす。
「お!?っとっと…」
アスタルテは横に飛んでそれを避けるが、すぐさまゼルの追撃が飛んでくる。
「大切断!」
ゼルが叫ぶと、大剣はその大きさと重さを増して迫ってきた。
「くっ!」
アスタルテはそれをガントレットで受け止めて防御するが、ゼルはその重さが嘘であるかのように連続で振り回す。
このままじゃ埓があかないと思ったアスタルテはガントレットに魔力を流し、ブーストされた拳を大剣に叩きつけた。
「な!?」
急な攻撃に不意を突かれたゼルはそのまま後方に吹き飛び着地した。
「全開で行くぜ!
ゼルが叫ぶと、その身体は赤いオーラで包まれ、目は赤く光り、角はその大きさを増す。
(え、ちょっとまってなにあれ!?)
初めて見るアスタルテはその姿に驚くが、次の瞬間には目の前にゼルが迫っていた。
「ウグルアァァ!」
「おおっと!?」
危険を察し避けると、剣が当たった地面に大きな亀裂が生まれていた。
(ええ…ちょっと破壊的すぎない…?)
アスタルテは若干引いていたが、ゼルはお構いなしに剣を振り回す。
ちょいちょい攻撃を仕掛けてはいたのだが、狂戦士状態のゼルが絶妙に怖くて基本避けの動きになっていた。
(うう~ん…こういう時ってどうやって形勢を逆転させればいいんだろう…)
アスタルテが避けながら考えていると、突然ゼルが距離を取る。
「ん…?」
「天地両断!!」
次の瞬間、ゼルの大剣が空を覆う程の大きさになり眼前に迫ってきた。
「へ…?えええ!?いや、ちょ、これは洒落にならないって!」
慌てて両手を上に突き出して大剣を受け止める。
「うわ、これ重いいぃぃ…」
やばい、これ先に地面が崩壊しそうだ…
アスタルテは両腕のガントレットに魔力を流し、大剣の勢いを跳ね返す。
「うおおおおりゃあああああ!!」
そして大剣をそのままひっくり返し、ゼルの元へ駆けると軽めのキックを入れて吹き飛ばした。
「くっそ…まさかウチのとっておきがこんなあっさりやられるなんてな…」
ゼルは大剣を杖がわりにしてなんとか立ち上がった。
姿も剣もいつの間にか元に戻っていた。
きっと魔力が切れたのであろう。
「いやー、参った…もう一歩も歩ける気がしねえ…」
そう言うとゼルは倒れこむ。
「え、ゼルさん!?もう歩けないって、ここからどうやって帰るつもりなんですか!?」
アスタルテが駆け寄ると、ゼルはぐっすりと寝ていた。
「えぇ…どうするのこれ…」
ゼルを抱えて帰ろうにも、身長差が激しすぎてかなり厳しい…
アスタルテはゼルが起きるまで待つしかないのだった─────
▽▲▽▲▽▲▽▲▽▲▽▲▽▲▽▲▽▲▽▲▽▲▽▲
「くぅ~!肉が血に変わるのが分かるな!これは!」
ゼルがものすごい勢いで運ばれた肉にがっついていた。
(なんだか…物凄く疲れた気がする…)
あれからゼルが目が覚めるまでひたすら待ち続け、なんとか街まで帰ってきたのだが、もうその頃にはすっかり日は落ちて夜になっていた。
(これ…一応デートなんだよね…?)
アスタルテはスープを飲みながら、もう何度目か分からない確認をする。
(まぁ、楽しいっちゃ楽しかったしいっか…)
美味しそうに肉を頬張るゼルをちらりと見てアスタルテはそう思うのだった─────
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