ゼルとのデート①
「アスタルテ!起きろぉ!」
ノックもなく扉が開かれ、開口一番そう言うのはSランク冒険者の先輩であり同居人でもあるゼルだ。
「う~ん……」
アスタルテはまだ脳が覚醒していない状態でぽりぽりと頭を掻きながら起き上がる。
「おはようございますゼルさん…今、何時ですか?」
寝ぼけ眼でそう言うが、ゼルからの返答はない。
ゼルの方を見ると、何故かぼーっとした表情でアスタルテを見つめていた。
頬が若干赤い気もするが気のせいだろう。
「寝起きのアスタルテも可愛いな…」
「ゼルさん…?」
アスタルテが呼びかけると、ゼルはハッと我に返る。
「じゃ、じゃなくて!ええーと、時間だったな!今は5時だ!」
「5時!?」
一気に目が覚めたアスタルテは窓を見るが、空はほんのり明るくなっている所だった。
「朝の5時か……って、どうしてこんなに早いんですか?」
確かに今日はゼルさんとデートする約束の日だったが、予想していた時間より圧倒的に早い。
アスタルテが聞くと、ゼルは急にしどろもどろになった。
「そ、そりゃあ、アスタルテと二人きりになれる日なんだし少しでも一緒にいたいというかなんというか…」
歯切れ悪くボソボソと喋っていたゼルだったが、ダン!と床を踏むとアスタルテの方を見る。
「とにかく!早いことはいい事なんだ!」
「えぇ…」
何がとにかくなのか全くわからないアスタルテであった─────
▽▲▽▲▽▲▽▲▽▲▽▲▽▲▽▲▽▲▽▲▽▲▽▲
「それで、これはどこに向かってるんですか?」
アスタルテが支度を終えると、行き先も告げずゼルは歩き出してしまった。
行き先が気になったアスタルテは素直に聞いてみた。
「ん?そういえば言ってなかったっけか、ここから真っ直ぐ行くとかなりでかい岩山地帯があってな、そこに向かってる」
(岩山地帯…?)
えっと、これって一応デートなんだよね?
朝5時から徒歩で岩山行くデートプランなんてあります?
(う~ん、ゼルさんって普段は雄々しいんだけど、恋愛系の話になると急に乙女になるんだよね…)
まあ一応デートなんだし、とりあえず手でも繋いでみようかな…?
不思議とゼルさんと接するときは緊張することが少ないのだ。
言ってしまえば仲の良い女友達みたいな…?
レーネさんは学校でも全生徒から人気で普段とても自分から話しかけることはないような感じ…だろうか。
コトハさんはちょっとミステリアスなのもあって距離感が未だに掴みづらかったりする…
ノレスは…うん、よく分からんけど一番話しかけやすいかも…
アスタルテは考えながらさりげなくゼルの手に手を伸ばしてみる。
「ひゃっ!?」
すると、普段のゼルでは考えられない声が出てきた。
「あああアスタルテ!?お、おま、何してんだ!?」
ゼルが激しく動揺している。
なんだかアスタルテのSっ気が刺激されるような感覚だった。
「いや一応デートなんですし、手でも繋ごうかな~っと」
「てて、手を繋ぐなんて!恥ずかしいだろうが!!」
いや中学生か!!
アスタルテはグッと言葉を堪えつつ続ける。
「いや~だってせっかくのデートですし、駄目ですか…?」
アスタルテは上目遣いで尋ねた。
よくゲームであるちょっとあざとい後輩キャラを思い浮かべつつ。
普段こんな事はしないのだが、初心な反応をされるとついいたずらしたくなってしまうのだ。
「~っ!ま、まぁアスタルテがしたいなら仕方ない…」
ゼルは顔を真っ赤にして俯いてしまった。
やばい、なにこれ可愛い。
調子に乗ったアスタルテは今度は恋人繋ぎにしてゼルの腕に身体をくっ付ける。
「あ、あ、あす、アスタルテお前!!」
「デートならこれくらいはしないとですよ~」
「う……」
「う?」
「うわああああああああ!!」
すると、ゼルは全身を真っ赤にしてものすごい勢いで走り出してしまった。
「ぜ、ゼルさん!?」
慌てて追いかけるも、想像以上に速くて中々差が縮まらない。
「ちょっ、いつもより速くない!?」
アスタルテは一度深呼吸をし、ちょっと本気で駆け出す。
朝っぱらからの激しいランニングの末、ようやく追いつくことができた。
「ゼルさん、すみません少しやりすぎちゃいました…」
「う~…アスタルテお前、後で覚えておけよ!」
ゼルは若干涙目になっていた。
(これはちょっとやり過ぎた…まさかここまでだなんて…)
仮にレーネさんが本気でアタックしたらゼルさん死んじゃうんじゃないだろうか…
「まあ、目的地に早く着けたが…」
「えっ?」
さっきまで道を歩いていたはずなのに、気付けば一面乾燥した荒野になっていた。
「さあ、アスタルテ!!」
ゼルに声をかけられそっちをみると、何故かゼルは大剣を引き抜いていた。
「ウチと手合わせだ!!」
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます