レーネとのデート②




─────カコン…





「どうして…こうなってしまったんだ…」




アスタルテは湯船に鼻の下まで浸かって目を閉じていた。




いや、そりゃさ?

私も思ったことありますよ?

アニメとかで女湯を覗く描写とか見て、あー現実もこれくらいゆるゆるだったらなぁ…

とか、

透明人間になって女湯に潜入したい!

とか?





でもね?

実際にそうなるとどうなるか。




私の場合は目のやり場がありません、ええ。

穴があったら入りたい、てかここから今すぐにでも出たい…





「アスタルテ君、そんな深く潜ってどうしたんだい?」

この現状の元凶であるレーネが尋ねる。




さっき目に焼き付いてしまったのだが、レーネさんは完璧な体型だった。

大きすぎず小さすぎずなハリのある綺麗な胸に引き締まった身体にくびれ。

一流の冒険者だからこそなせる少し筋肉質でありながら女性的な手足。




これはトップモデル顔負けのスタイルなのではないのだろうか…

しかも顔も美人だし…





とにかく、まともに見ることなんてとてもできません、はい。




「そんなに潜っていたらのぼせてしまうよ?」

アスタルテがブツブツ言っているうちに、いつの間にかレーネが真横に来ていた。

そしていつの間にか手を握られてしまっている。





「れれ、レーネさん!?」

「女性同士、別に恥ずかしむ事はないではないか」

いや私、中身は男なんですけど!?さっきから心臓が暴れまくっているんですけど!?




当然そんな事を言える訳もなく、アスタルテは顔が真っ赤になってしまう。




「おや?ふふふ、君は本当に可愛いね…」

レーネは繋いでいた手をほどき、アスタルテの脇腹へと指を這わせる。

そしてそのまま羽の付け根へと指を移動させた。




「ひゃ!?レーネさん、そこはダメです!」

指が羽に触れた瞬間、アスタルテに電撃が走るような感覚が訪れる。




「ほう、君はここが弱いのかい?」

レーネはそう言うと、指で転がすように羽を触り始めた。




「っ!レーネさん、そこは本当にダメなんですってばぁ…」

触られているだけで全身から力が抜け、お腹の下あたりがむず痒くなってしまう。




強引にでもここから出てしまおう。




アスタルテがそう思ったその時─────





「あれってもしかしてレーネ様じゃない?」

「本当だ!素敵よね~、憧れちゃうわ」




少し遠くから声が聞こえてきたと同時にレーネの手が引っ込んだ。




きっと銭湯に入ってきたお客さんだろう。





「ふむ…少々場所が悪いかな…さっ、アスタルテ君、行こうか」




そう言うとレーネは脱衣所へ戻ってしまった。




「た、助かった…」




アスタルテは安堵すると、湯船から上がるのだった─────












▽▲▽▲▽▲▽▲▽▲▽▲▽▲▽▲▽▲▽▲▽▲▽▲












「さて、さっぱりしたところだし、この街について案内しよう」




(いや、全然さっぱりしてないんですが…)

むしろ悶々とするアスタルテをよそに、レーネは街案内を始めた。




鍛冶屋、道具屋、商業区など、様々な施設を案内された頃にはもう陽も落ちかけていた。





(ひとまず、この街なら大体のものに不自由はしなさそうだな…)

最初はデートなんてどうなることかと思ったが、かなり有意義な一日だった。

アスタルテは今後利用しようと思った店をあらかたチェックすると、満足げに頷く。




それを見たレーネが微笑むと、パンと手を鳴らした。

「さて、それじゃあ今日の宿に行こうか」

「え?家に帰らないんですか?」

「せっかくのデートなんだ、邪魔されたくはないだろう?」




ん?邪魔されるような事があるの…?





レーネの言葉に疑問を覚えつつも、アスタルテはレーネについて行くのだった。





「さ、まずは腹ごしらえだ。ここの宿の料理は美味しくてね、私もこのために何回か泊まったことがあるんだ」

宿に到着すると、レーネは椅子に座って料理を注文する。




(まずは…?この後何かあるのかな…)




レーネの言葉に少々引っかかりつつも、アスタルテは運ばれてきた料理に舌鼓を打つのだった…








「ここが今日泊まる部屋だよ」

レーネに案内されて部屋に入ると、一つの違和感に気づいた。




「あの、レーネさん?」

「ん、なんだい?」

「ベッド、一つしかないんですけど…」

「うん、そうだね」




あれ?今、そうだねって言った?

部屋を間違えたのかな、とか、手違いかな?とかじゃなくて?





「アスタルテ君」

気づくと、レーネはアスタルテの真横に来ていた。

アスタルテはギョッとして反射的に離れようとしたが、真後ろのベッドに足を取られそのままベッドに倒れ込んでしまう。




慌てて起き上がろうとするも、レーネの手に胸を優しく押され、それを止められてしまった。




「れ、レーネさん!?」

レーネは既にアスタルテの上に跨っており、アスタルテはレーネの顔に釘付けになってしまう。




「アスタルテ君は…嫌かい?」

レーネがアスタルテの顔を覗き込む。

垂れた髪がアスタルテの頬に触れ、思わずピクリと跳ねてしまう。




(嫌…かと言われたら嫌じゃない……正直に言えば、欲望のままに行動したい…でも…)




「私…まだ気持ちの整理ができていないんです…それに、もっとレーネさんの事を深く知って……」





喉がカラカラだし、目も泳いでいるかもしれない。




でも、言い出してしまった事だ。

最後までしっかり言わないと…!




アスタルテはレーネの目をしっかりと見る。





「そしたら…心からいっぱい愛し合えるなって、思うんです…」





良かった…ちゃんと言えた…

安堵したアスタルテがレーネの返事を聞こうと顔を見ると─────




何故かレーネは顔が真っ赤にして固まっていた。

しかもご丁寧に耳まで真っ赤に染まっている…




「れ、レーネさん…?」




アスタルテが様子を伺うと、レーネはハッと我に帰ったようになった。




「アスタルテ君……君は本当に…」

レーネがアスタルテの頭に手を置き、優しく撫でる。

「君は本当に愛らしいね…」

そして目を閉じる。

次に開いた時には、決意を固めた目をしていた。




「分かった。なら、私は本気で君を惚れさせてみせる。だから────」




レーネはアスタルテに顔を近づけ、頬に優しくキスをする。

そして身体を起こし、人差し指を立てて口に当て、優しく微笑んだ。




「これは前払いだよ、君の気持ちへの…ね?」




今度はアスタルテが顔を赤くする番なのであった─────


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