コトハとのデート①


「あの、コトハさん…?」

「…ん、何?」

「今日って一応デートなんですよね?」

「…そう。…デート…アスタルテとの…二人きり…」

「あのー、出かけたりとか…しないんですか?」




アスタルテとコトハは今アスタルテの部屋でベッドの上にいた。

そして何故かコトハはアスタルテの腕に抱きついていた。




今日はコトハとのデートのはずなのだが、何故かコトハは腕に巻きついたまま動かないのである。





「あの、今日のプランとかって決まってたりするんでしょうか…?」

「…アスタルテと……2人でいる……」

「えーと…どこかに行くとか決まってたり…?」

「…特に…無い…」




(え、無いの!?)





流石にベッドの上で異性(同性だけど)と一日中は私が耐えられないんですが…




アスタルテが困っていると、それを察したのかコトハが声をかける。




「…アスタルテ…どこか…行きたいの…?」

「いや、別に行きたいところがある訳ではないんですけど…」

「…じゃあ、このままで…いい…」




そしてそのままコトハはアスタルテの肩に頬ずりをする。




(え、本気で!?一日中!?このまま!?)




そしてコトハから衝撃の言葉が放たれた─────





「…アスタルテ…一緒に…堕落…しよう…?」





(えぇー…)




ま、まさかコトハさんがこんなめんどくさがり屋だったなんて…

そういえば物件探しに行く時も朝起きてこなくて結局置いていったな…




これ、デートっていうの?

あ、もしかしてあれ?お部屋デートってやつ?





「…アスタルテ…?」




「あ、はい!なんでしょう?」




コトハの呼びかけにアスタルテは我に返る。




「…出かけたいの…?」




じっと顔を覗き込まれコトハに尋ねられる。




一瞬ドキっとしてしまったアスタルテだったが、慌てて冷静になり返答する。




「そう…ですね、出来れば外に出たいなーなんて思ってたり…?」




返答後もコトハはアスタルテの顔を覗き込んだまま動かない。




(やばい、どうしよう…コトハさんが何を考えているのかが全くわからない…)




アスタルテがドキドキしていると、コトハがベッドから降りる。




「…分かった…行こう…」

「ありがとうございます、なんかすみません…」




アスタルテは謎の罪悪感に包まれ謝る。




「…問題ない…夫に従うのも…妻の勤め…」





(……ん?おっと?つま…?)




アスタルテは疑問を感じつつ、出かけるのであった。










▽▲▽▲▽▲▽▲▽▲▽▲▽▲▽▲▽▲▽▲▽▲▽▲












「あの、コトハさん…?」

「……?」

「えっと、外もこのままなんですか?」

「…アスタルテは…嫌…?」

「あ、いえ…嫌ではないんですが、なんというか…人の目が…」

「…見せつければ…いい…」

「えぇ…」




コトハは先程と同じくアスタルテの腕に腕を絡めていた。




コトハさんはSランク冒険者として元々有名、そしてアスタルテは今回のロックドラゴン変異種の討伐でそこそこな有名人になっていたというのもあり、周囲からチラチラと見られている。





(絶対誤解されちゃうよこれ…)




実はコトハが意図的にやっているのを知る由もなく、アスタルテは困っていた。





「…アスタルテ…」




コトハが呼びかける。




「はい、なんでしょう?」

「…どこ…行くの…?」

「どうしましょうか…」




とりあえず外に出たのはいいものの、正直行く宛がなかった。




コトハさんは元から出る気がなかったわけだし、行き先なんてないよね…




(う~ん、どうしようかな…)




アスタルテが頭を抱えていると、それを見たコトハが声を出す。




「…じゃあ…ついてきて…」

「え?あ、はい!」







─────コトハに引っ張られて着いたのは街の外にある森だった。





「コトハさん?ここで何をするんですか?」

「…見てて…」




コトハはそう言って一歩前へ出ると、何も無い場所に手をかざす。




「…ファイア……」




コトハが唱えると、手から小規模の火が生まれ地面に着地し燃え尽きる。




それを見届けたコトハは振り返る。




「…今のが…ファイア…火属性の…低級魔法…アスタルテも…やってみて…」




ファイア覚えてないんですけど…

そう言おうとしたアスタルテだったが、頭に発動方法が浮かぶ。




(フレイムを覚えているからその下位魔法も打てるのかな…?)





いまいち仕様が分からなかったが、とりあえずやってみようと手をかざす。




アスタルテは頭に浮かんだ通りに発動する。




すると手から青く激しく燃え上がる火が放たれ、前方一帯が火で包まれる。

放たれた火は中々燃え尽きず、やっと消えた頃には一面が凍りついていた。




それを見ながらコトハがアスタルテに話しかける。




「…ファイアは…常人なら指から軽く火が出る程度…その人の魔力量によって…威力が変わる…」




そしてコトハは振り返るとアスタルテを見つめる。




「…ファイアで…この威力は…常識的にありえない……それにおかしい…氷属性とも違う…火のように燃える氷なんて…存在しない…」




「そう…なんですか?」




「…氷は…燃えない…火は…凍らない…これは魔法の術式に反している…出来る事じゃ…ない…」




「…そして…前もそうだった…アスタルテは…詠唱していない…魔法は術式を組み上げて…最後に詠唱しないと…発動しない…」




全部スキルの効果で…とは言えなかった。

なぜならそんなスキルが存在することすらおかしいのだろうから。




「…術式は…計算式のようなもの…術式を極める…つまり暗算ができる人は…詠唱も短い…このスペルブックは…そろばんのような物…だから詠唱がより短縮できる…」




そろばん…この世界は電卓がないからそうなるか…

アスタルテが呑気なことを考えている間にもコトハは話を続ける。




「…でも…アスタルテは詠唱してない…答えを導く事をしていない…なのに…答えを出せている…」




うーん、つまり、魔法を出すにはまずその魔法の術式を頭の中で組み上げて完成したら準備完了、そして最後に詠唱をすることで具現化するって感じかな…?




よくアニメで一番強い魔法とかが出せるまでに時間がかかっているのはそれだけ術式が難解で組み終わるまでに時間がかかるってことなのか…





(コトハさん説明すごく分かりやすいな、教師とかできそう…)




アスタルテが呑気なことを考えているとも知らず、コトハは一歩進みアスタルテとの距離を縮め、顔を覗き込む。




その近さは、遠くから見たらキスをしているのかと見間違われるほどの近さだった。




「…アスタルテ…貴方は一瞬で…この世界の常識を…2つも覆した…」






そして最後に一言、コトハが問いかける─────






「…貴方は一体……何者なの…?」





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