第2章 =グレイス王国と目覚めし巨竜=
冒険者としての始まり
「アスタルテ君、そろそろグレイスに着くぞ」
いつの間にか寝てしまっていたみたいだ…
アスタルテは目を開ける。
すると、そこにはレーネの顔があった。
レーネは柔らかく微笑みアスタルテの頭を撫でていた。
(…?……??)
状況が分からず混乱する。
(ええっと…?目の前にレーネさんの顔があって、頭に伝わるこの柔らかな感触は…)
気づいたアスタルテが起き上がろうとするも、肩を押されやんわりと断れる。
「急に起き上がるのは身体に悪い。もう少しゆっくりするといい」
「は、はい…」
流石に恥ずかしい…
アスタルテは熱くなった頬を隠そうと横に体制を変えた。
するとそこにはジト目でこちらを見つめるコトハとぷるぷる震えながら顔を赤くするゼル、そしてクックックと笑いをこらえてるノレスがいた。
やがて耐え切れなくなったのかゼルが立ち上がる。
「レーネ!もう十分しただろうが!」
「私もしたい…アスタルテに…膝枕…」
「おや?ゼル、アスタルテ君を独り占めされて嫉妬かい?」
レーネの言葉を聞いたゼルは更に顔を赤くする。
「ちげーよ!!別に羨ましくなんかねぇ!」
「私は羨ましいかなんて一言も言ってないんだがね?」
「っ~!!」
まるでゼルの頭から湯気が出ているように見えた。
それほどまでに顔が真っ赤だ…
「だからちげぇ!ちっげーって!!」
ゼルがその場で地団駄を踏む。
「あのーっ!馬車の中で暴れないで下さい~っ!」
御者席にいたレニーが顔を覗かせて叫ぶ。
コトハは頬をぷくーっと膨らませてこちらを見ているし、ノレスはついに腹を抱えて笑い出した。
(なんなんだよこのカオスな空間はー!!)
アスタルテは心の中で叫んだのだった─────
▽▲▽▲▽▲▽▲▽▲▽▲▽▲▽▲▽▲▽▲▽▲▽▲
「ここが…グレイス王国…!」
馬車から降りたアスタルテは目を輝かせる。
そこはカンの町とは比較にならないほど大きく、まさに国と呼ぶに相応しかった。
広場には人が溢れかえっており、市場では目の届かないところまで露店が連なっていた。
大きな教会から立ち並ぶ家、行き交う馬車の数々。
あまりの規模の大きさにアスタルテは言葉を飲む。
そして何よりも中央に建つ大きなお城はまさにファンタジーであり、また大変美しく長時間見ていても飽きないだろう。
冒険者でお金を貯めたらここで家を借りるのもいいかもしれない─────
これからの事を考えるとワクワクが止まらないアスタルテであった。
「それじゃあ、ギルドへ行こうか」
レーネがそう言ってアスタルテの手を引く。
(どこまでもかっこいいなこの人は…)
一瞬ドキッとしてしまうアスタルテであった…
「私はこのまま実家の方に行きますねっ!」
レニーの実家はグレイスでも有名な大きな商店らしい。
「登録が終わったら寄らせてもらうね、馬車ありがとう!」
「はいっ!お待ちしておりますっ!」
お礼を言うと、レニーは馬車で去っていった。
レーネ達に案内されギルドの本拠地に着くと、アスタルテはまた驚いた。
(お、大きい…中継所の比じゃない…!)
どうやら冒険者用の宿屋、軽い武器屋から大きな酒場まで併設されているらしく、その規模は小さい村くらいありそうだった。
「受付のカウンターはあそこだから、そこに行こう」
レーネが歩き出すと、その姿を見たギルドの職員が慌てて駆け寄ってきた。
「レーネ様、ゼル様、コトハ様、お待ちしておりました!今回の件に関してギルド長からお話がありますので、どうぞこちらへ…」
「あの手紙の内容についてか、そんなに急ぎなのか?」
「えぇ、事態はあまりよろしくないようで…」
レーネ達と職員がなにやら話していたが、やがて話終わるとこちらへ帰ってくる。
「アスタルテ君、すまないが急ぎみたいでな…できればもっと一緒にいたかったのだが…」
レーネが申し訳なさそうにする。
「全然大丈夫ですよ!むしろここまで付き合ってもらっちゃってすみません…レーネさん達もがんばって下さい!」
「すまないな、帰ってきたら一緒にご飯でも食べようか」
アスタルテの肩に手をポンと置くと、レーネは奥へと向かった。
「アスタルテ…今度は…私がひざまくら…するから…」
コトハが小さく手を振ると、レーネの後についていった。
二人が行ったのを確認したゼルは、アスタルテの頭に手を伸ばし撫でた。
「アスタルテ、ここはカンと比べてデカイ分、変なやつもいるからな。お前に手を出すようなやつがいたらウチに知らせてくれ、ぶった斬りに戻ってくるからよ」
「は、はい。ありがとうございます」
なんだか、3人ともどうも過保護なような…
見た目が幼女だから仕方ないとは思うけども。
そう思っていたアスタルテだったが、頭を撫でる時間がやけに長いことに気づく。
心なしかゼルの顔が若干紅潮しており、牛のような尻尾もふりふりと揺れていた。
「あ、あの…?」
アスタルテが声をかけると、ゼルはハッとし慌てて手を引っ込めた。
「そ、それじゃあ頑張れよ!じゃあな!」
そう言って足早に去っていった。
「なんだったんだろう…」
アスタルテが疑問に思っていると、隣にいたノレスがため息をついた。
「お主は鈍感じゃのう…」
その後、受付へ行ったアスタルテは、晴れて正式に冒険者となった。
どうやらカンの森のダンジョンでレベルが上がっていたらしく、Bランクとして銀のアームレットになった。
この世界は敵を倒さないと経験値が発生しないみたいで、ノレスとの戦闘でレベルが上がらなかったのが残念だったがまあいいだろう。
「無事冒険者になれたし、とりあえず手頃な依頼でも受けようかな…」
掲示板に張り出された依頼を見ているが、正直どれもパッとしなかった。
Bランクだと美味しい依頼はそう多くないみたいだ…
「そういえば、ノレスはこれからどうするの?魔王の城に戻るの?」
ふとノレスに聞いてみる。
「そなたと共に行動すると言ったであろう?」
あっけからんとノレスは答えた。
「え、魔王なんでしょ?仕事とかないの?」
「出て行く時、側近に大体の権限を渡してきたからの。問題ないじゃろう」
魔王がそれでいいのか…?と思ったが、魔族の事情を知らないしまぁ余り関わらないでおこう…
「ノレスは何か受けたい依頼とかある?」
「我は別になんでも良いぞ。強者と戦えるならそれで良い」
(いやBランクの依頼で魔王が強者と呼べる者なんて絶対出てこないと思うんですけど…)
「じゃあ近くのダンジョンでも行くかな…」
とりあえずダンジョンに行くことにしたアスタルテだった。
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「レニー!」
商店の前でレニーを見つけたアスタルテは声をかける。
とりあえずダンジョンに行く前に顔を出すことにしたのだ。
「あっ、アスタルテさんっ!ノレスさんっ!」
こっちに気づいたレニーが手を振る。
「レニーの実家…すごいね」
そこは相当立派な商店だった。
店の前には様々なアイテムが並んでおり、中を覗くと衣類から武器防具、家具から雑貨品までと、なんでも置いてあるんじゃないかと思えてしまうほどだ。
そのためお客さんも冒険者や一般市民と幅広く、中には貴族のような気品のある人までいた。
「貴方がアスタルテさん?」
「あっ、お母さんっ!」
声の方向を見るとアスタルテは一瞬驚いた。
レニーの発言から察するに母親だと思うのだが、獣人だったのだ。
獣人といってもレニーやゼルのような感じではなく、獣寄りというべきだろうか。
人間の肌のようなものはなく、服から出る手足は完全に毛皮で覆われており、顔もふさふさだった。
狼のような尻尾と耳にキリっとした目、肩まで伸びる青い髪と、クールな印象を受ける。
(やばい、めちゃくちゃモフりたい)
アスタルテがじーっと見ていると、レニーの母親が言葉を続ける。
「お話を聞きました、娘の命を救って頂き本当にありがとうございます!」
そう言って頭を下げる。
現実に戻されたアスタルテは慌てる。
「あ、頭を上げてください!当然のことをしたまでですから!」
「このお礼はなんと申し上げればよいか…うちの物で良ければご自由にお持ちください」
そう言われアスタルテは更に慌てる。
もう既に神器まで頂いてるのだ。これ以上もらうわけにもいかない。
「本当にお気持ちだけで結構ですので…」
「ですが、それでは私の気が収まりません。どうかお礼をさせてください」
遠慮したのだが、レニーの母親も一歩も引かなかった。
この少々強引な所はレニーに良く似ており、改めて親子だなと思う。
「じゃあ…少しモフらせてくれませんか…!」
別に欲しい物も思いつかなかったので、意を決して言ってみる。
レニーの母親はきょとんとなると、聞き返す。
「も、もふ…?」
その様子を見てノレスはため息をついた。
「お主は本当…一体何人たらし込むつもりじゃ…」
なにはともあれ、アスタルテの冒険者としての生活が始まるのであった─────
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