魔王とSランク冒険者




「さて…何故ここにいる?」

一息ついたアスタルテは正面に座るノレスの方を見る。

ノレスは悠々と足を組んで紅茶を飲んでいた。




「伴侶とともに行動するのは当然の事じゃろう?」

「…は?」




今、伴侶って言ったのか…?

伴侶ってあの、結婚相手とかに言う奴だよな…?




「私がいつお前の伴侶になったんだ…?」

「何を言う、接吻をしたではないか」




せっぷん…?

アスタルテの頭の中で思考がぐるぐる回る。

(あの回復ポーションの時か!!)

確かにした。

したのは間違いない。

だが、なぜそれで伴侶ってことになったんだ?





「我は初めて接吻した相手を伴侶にすると決めていたのでな」

「いや、乙女かっ!」

アスタルテが突っ込むも、ノレスは構わず続ける。

「それに、貴様はまだまだ強くなるじゃろう。血筋も申し分ないしの」

そう言って手にしていた紅茶を置くと、アスタルテを見つめる。





「魔王の我と、神の血を引くそなた。この間から生まれる子はきっと物凄いぞ?」

「いやいや、そもそも女性同士だよね!?」

それを聞いたノレスはきょとんとした顔になる。




「なんじゃ、そんな事を気にしておったのか?そんな物、魔法でどうとでもなるじゃろうに」

「いや、魔法すごいな!?って、そういうことじゃなくて!」

アスタルテは机を叩いて立ち上がる。




「そもそも伴侶になる気も無いし、子供を作る気もないから!」

「それは聞き捨てならんのう?我の初めてを奪っておいてからに」

「あれはそっちからしてきたんじゃないか!」

「ほう?あんなに情熱的に舌を絡ませてきておいて何を言うか」

「絡ませて無いし!?なんなら死にかけてたし!?」





だめだ、全く話が通じない…

「あの~…」

その時、横で座っていたレニーがおずおずと手を挙げた。

(レニー!この話の通じない魔王になんとか言ってやってくれ!)




アスタルテが期待を込めて見ていると、レニーはアスタルテを見つめる。

(ん?なんでこっちを見るんだ?)

「アスタルテさんっ、してしまった事はもうしてしまった訳なんですからっ、受け入れたほうがいいのでは…」





「……ん?」

ちょっとまって?なんでそうなる?

話聞いてたよね…?

俺おかしくないよね!?

アスタルテが狼狽していると、続けてレニーが語りだした。




「それにっ、私もそのっ…初めてのキス…でしたしっ!魔法でどうにかなるならっ、私もアスタルテさんとの赤ちゃん産んで欲しいなって…」




まてまて、あれ初めてだったの!?

相当慣れてそうだったけど!?

「って、なんでおr…私が毎回産む側なの!?」




興奮しすぎてつい俺と言いそうになりつつ、アスタルテは叫ぶ。

一応女の子なんだから、一人称はせめて私と言うことにしたのだ。





「アスタルテさんが私に産んで欲しいなら私はそれでも構いませんっ、でもあの夜にアスタルテさんを組み伏せた時にっ、なにかに目覚めてしまってっ…」

「一夫多妻について異議はないぞ?それよりもレニーとやら、その組み伏せた夜について詳しく教えよ、我は物凄く気になるでな」





(なんなんだよこいつらはあああ!)

きゃっきゃとはしゃぐレニー達を横目にアスタルテは机に突っ伏す。

「早く待ち合わせの時間にならないかなぁ…」




早く時間が過ぎないかと祈るアスタルテだった……











▽▲▽▲▽▲▽▲▽▲▽▲▽▲▽▲▽▲▽▲▽▲▽▲










「やぁ、アスタルテ君おまたs……!?」

待ち合わせ場所に着いたレーネ達はアスタルテを見てギョっとする。

「おいアスタルテ…そいつ何者だ」

「これは…無理…ゼタ…やめたほうがいい」

背中のバスターソードを手にかけるゼルをコノハが抑える。





(まぁ…そうなっちゃうよね…)

なんせ隣に明らかにやばいオーラがダダ漏れのがいるのだから。

「え~っと…昨日知り合った方で…」

なんて説明すればいいのだろうか…

説明に迷っていると、ノレスが口を開く。





「我は魔王ノレスなり。そなたらはアスタルテの知人か?」

普通に魔王と名乗るの!?

アスタルテは驚くが、レーネらはそれ以上に度肝を抜かれていた。





「アスタルテ君…知り合ったってどういうことだい…?」

「コトハ!ステータスアップをかけてくれ!早く!」

「ゼル…だから無理…焼石に水…」

「そんなもんやってみなきゃ分からねーだろ!」

そう言うとゼルはバスターソードを抜きノレスに斬りかかる!





流石にやばいと思って止めに入ろうとしたアスタルテだったが、それよりも早くノレスは動いていた。

バスターソードの剣先を人差し指と中指で悠々と挟む。

軽く挟んでいるようにしか見えないのに、それだけでゼルの剣はびくともしなかった。





「我に斬りかかるその度胸は認めよう、しかし我に敵意はないぞ?」

ノレスの言葉を聞いているのかいないのか、ゼルは剣を離しノレスに殴りかかった!

だがその拳も軽く受け止められてしまい、ノレスはその拳を握る。

「ふむ、勇気と無謀をはき違えるでない。その選択を続けているといつか身を滅ぼすぞ?」

ノレスの握る手から骨の軋むような音が聞こえだし、ゼルは膝をつく。





(流石にこれはやばい…!)

アスタルテは駆け出し、ノレスの前に行く。

「ノレス!やめろ!この方達は仲間であり私の恩人だ!」

「これは正当防衛じゃ、我は初めから敵意は無いと言っておろう?」

「その身体から溢れ出てる危険なオーラ感じたらこうもなるって!」

「オーラを感じたのであれば相手の力量位分かるじゃろう。それともSランク冒険者というのはそんなものなのか?」





なんでノレスはこうも話が通じないんだ!?

確かに敵意丸出しのゼルも悪いけど目の前にこんなやばそうなのいたらそうなっちゃうって…!

いっそ戦ってでも止めるか!?

でも町の前でやったら被害も出るだろうし…





なにかないかとアスタルテは必死に考える。

待てよ…?ノレスは私に好いているんだ…ならダメ元で…!

効果があるかは分からないが、イチかバチかでアスタルテが叫ぶ。





「の、ノレスの事嫌いになるぞ!!」

「……!?」




一瞬ノレスがビクっとしたように見えたが、手が離れていない。

(流石にこんなの効くはずがないか…どうしよう、こうなったら森までおびき出して戦うしか…!)

「ま…待て…」

「……?」

ノレスがぽつりと呟く。

と思ったらゼルの手を離し、膝をついて勢いよくアスタルテの両肩を掴む。





(ななな、なんだ!?流石に自分勝手な発言すぎて逆鱗に触れたとか!?)

アスタルテがびくびくしていると、肩を掴むノレスの手が震えていることに気づいた。

「待ってくれ…我が悪かった、やり過ぎた。もうこんな事はせぬ、約束する、だから…我の事を許してくれ…嫌いにならないでくれ…」




そう言ってアスタルテを抱き寄せる。

手だけでなく、身体もぶるぶると震えていた。

普段とはまるで違うノレスに、アスタルテはさすがに罪悪感を覚える。

(ノレスが私の事を好きでいる気持ちを利用してとんでもないことを言っちゃったな…)





「ごめん、私も言いすぎた。ノレスの事、嫌いにならないよ。」

ノレスの頭を抱えるようにしてそっと抱きしめる。

「ノレスは魔王だから、きっとこれからも敵意があると誤解する人は少なからずいると思うんだ。でも、どうかその人達を許してくれてあげないかな…?」

「分かった、アスタルテが望むなら我は従う…」





その様子を見ていたレーネとコトハは驚く。

「これは、驚いたな…まさか魔王を抑え込むとは…」

「アスタルテ…恐ろしい子…」





(待てよ…?勢いで嫌いにならないって言ってしまったけど、これノレスの好きを受け入れるって捉えられちゃうんじゃないか!?)





─────思わぬ形でノレスを受け入れてしまったアスタルテだった。











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「本当にすみませんでした!!」

その後ノレスをなだめたアスタルテは、レーネ達に頭を下げる。





「いやいや、こちらもすぐにゼルを止めに入るべきだった。仲間の非礼を詫びさせてくれ」

「ゼル…後先考えない…猛牛だから…許してあげて…欲しい…」

「ウチはただ、魔王にアスタルテがそそのかされてないかと思っただけだ!あと猛牛って言うな!」





(待って、なんでここで私が出てくるんだ…)

「と、とにかく!ノレスがご迷惑おかけしました…」

「すまぬ、我も熱くなりすぎていた」





思いのほか丸くなったノレスに内心驚きつつも、再度謝る。

それを見たレーネがゼルに問いかける。

「ゼル、君も言うことがあるんじゃないか?」

「うぐ…」

「ゼル…謝る…早く」

「分かった、分かったから!」

ゼルが頭をぽりぽりとかくと、ノレスに向き合う。





「早とちりしちまった、ごめん…」

そう言ってゼルは頭を下げた。





それを確認したレーネがパンと手を叩く。

「さて、わだかまりも解けたことだし、早速グレイスへ向かおうか」

「アスタルテ…聞きたいこと…いっぱいある…」

「そうだね、アスタルテ君には質問が山積みだ」




「あはは…お手柔らかにお願いします」

(なにはともあれ、無事に出発できてよかった…)





Sランク冒険者3人と魔王、そして幼女という奇妙なパーティの旅路が始まるのであった─────





「ちぇ、アスタルテにカッコ悪いとこ見せちまったなぁ…」

ゼルは小さく呟き、一行に戻るのであった。



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