初ダンジョンと魔王との邂逅



「それではアスタルテ君、また明日会おう」

レーネはそう言うと、仲間と共にギルドを出る。




結局、明日グレイス王国へ旅立つという事で話が決まった。




(さてと…これからどうしようかな)

時刻はまだお昼を回ったくらいだった。

とにもかくにもお金が必要だ。

流石にレニーに2晩もタダで泊めてもらうのは気が引ける。




(といっても仮登録じゃクエストも受けられないしなー……日雇いバイトみたいなのがあるとしても流石にこの時間からやらせてくれないだろうし…)

アスタルテが悩んでいると、ふと先日のレニーの言葉を思い出す。

「そうだ、ダンジョン!」

確かレニーは森にダンジョンがあると言っていた。




アスタルテはギルドへと引き返し、周辺地図を見る。

すると、森の中に3つものダンジョンが存在していたのだった。




(3つのうちの2つは結構森の奥だな…)

適正レベルの高いダンジョンはどちらも森の奥地だったので、入口付近にあるダンジョンに狙いを定める。

適正レベルは3~6と低かったが、小遣い稼ぎにはなるだろう。




「そうと決まれば早速出発だ!」

ダンジョンの場所を覚えたアスタルテは早速向かうのだった。










▽▲▽▲▽▲▽▲▽▲▽▲▽▲▽▲▽▲▽▲▽▲▽▲











「ここがダンジョン…なのか?」

アスタルテが着くと、そこには小さな洞窟のようなものがあった。

奥へと進むと扉があり、魔力を流して開けてください。と書いてある。

早速扉に手を付け、魔力を流すと扉が開いた。

すると、開いた先は小部屋になっており、真ん中にポツンと魔法陣があるだけだった。





(なにこれ…)

警戒しつつも魔法陣の上に乗るとアスタルテは一瞬で光に包まれ、次の瞬間には別の場所にいた。




辺りを見渡すと立札が刺さっており、「カンの森ダンジョン1F」と書いてある。

どうやらここがダンジョンで間違いないようだ。

アスタルテは早速、アイテム取出しでガントレットを選択すると、そのまま腕に出現させて直接装備した。

「よし、まずは天穿てんうがちし拳?だっけ、の固有スキルを試してみよう!」




進むと、早速魔物が出てきた。

最初の定番といえばスライムを想像していたアスタルテだったが、出てきたのはゴブリンのような緑色の魔物だった。

アスタルテの存在に気づいた魔物が襲おうと斬りかかってくる。

「よし、早速スキル発動だ!」

アスタルテが右手を突き出し、ガントレットに勢いよく魔力を流す。

(どうなるんだろう、ビームが出るのかな?それともロケットパンチとかかな?)




アスタルテが期待しながらガントレットを見つめていると、はめられた魔石が大きく光を放つ。






─────と思った次の瞬間、ガントレットの後ろの方の横長い穴からものすごい勢いで火が吹き始めた!




へ?っと思ったアスタルテはものすごい勢いで前へと引っ張られた。

(おわああああぁ!?)




その速さは音速はおろか光速をも軽く超えた速度で、アスタルテはその勢いのまま奥の壁に突っ込んだ。

その途中に魔物は血しぶき一つ残さず消滅し、自分が死んだことにすら気付く事が出来なかった。




「いた…くは無いけど、なんだこれ…」

壁に埋もれたアスタルテは、なんとか這い出す。

(これ…高ステータスじゃなかったら勢いで腕ごとちぎれてリアルロケットパンチになってたぞ…)




アスタルテが頭をさすっていると、とある疑問が頭に浮かんだ。




─────もしかして、魔力を流しすぎたのではないか?と。




そう思ったアスタルテはほんのちょっぴりだけ魔力を込める。

すると、魔石が淡く光り、穴からポポポポポと可愛く空気が漏れた。

これならどうだと一瞬だけ気持ち強めに魔力を流すと、一瞬だけボンッ!と火が出た。




それをみてアスタルテは理解する。




どうやら魔力を流す量に応じた火力になり、流し続けると火が出続けるようだ。

(一気に間合いと詰める時とか、パンチするときに一瞬火を出して拳の速度を加速させたりする感じかな)





使いこなすには場面に応じた魔力を流す量の把握とそれなりの慣れが必要そうだが、完璧に使いこなせたら相当楽しそうだ。頑張るか!




とアスタルテが意気込んでいると、騒ぎを聞きつけたのか、魔物がわらわらと集まってきた。

(よし、それじゃあ今度はブーツだな!)




アスタルテは右足を魔物に突き出し、最初にガントレットに流した魔力の半分位の力で流す。

(普通は足から炎で加速、手からビームなのに、手から炎が出たってことは足がビームだ!)

謎の持論を頭に展開しつつビームを待っていると、ガントレットの時と同じく、魔石が光を放つ。






─────すると、ブーツの足裏からものすごい勢いで炎が吹き始めた。





(まずい、まずいぞ…ひっじょーに嫌な予感がすr)

アスタルテは後ろにものすごい勢いで引っ張られた!




「だと思った!だと思ったよちくしょー!!」






─────ドゴオォォォン!!






腰から上が壁を突き刺し、お尻から下だけが壁から生えているような状態になってしまった。




「いやいや、仰向けの壁尻とか見たことないから!」

意味不明な言葉を口に出しつつ、壁ごと破壊して抜け出す。





見ると、魔物達はブーツから出た炎で黒焦げになっていた。

(知ってたけど力加減が難しいな…)




そう思いながら下層へと進んでいくアスタルテであった。









▽▲▽▲▽▲▽▲▽▲▽▲▽▲▽▲▽▲▽▲▽▲▽▲









「ここが最下層か」




カンの森のダンジョン B15階 最下層という立札を見てアスタルテが呟く。

あれから数時間目に付く魔物と片っ端から戦い続け、少しずつ神器の扱いに慣れてきたアスタルテは、最後は応用で前々から試してみたかった魔法スキルと組み合わせて戦ってみようと思い、歩みを進める。





大きく開けた空間に出たアスタルテは、真ん中に5メートルくらいのドラゴンが居ることに気付く。

(おおお!少し小さいけど、ダンジョンのボスといえばドラゴンだよな!)




やっと自分の思い描く異世界ファンタジーになってきたとアスタルテは興奮する。




ドラゴンがこちらに気付くと、のそりとその身体を起こした。

(分かる、分かるぞ。その後は洞窟を揺るがす咆哮だろ…!)







─────ピキイィィ!







ドラゴンからえらい可愛い鳴き声が発せられ、アスタルテはずっこける。

(いや、そうじゃないだろう…!確かに最序盤のダンジョンだからそんな強いボスは出ないんだろうけど、でも違うだろぉ…)





頭を抱えながらアスタルテは思うが、気を取り直す。





(まずは一番弱い魔法スキルで牽制してから一気に距離を詰めてぶん殴る!)

アスタルテは右手を広げて前に出し、左手で腕を抑えて構える。





「魔法スキル発動!フレイム!!」





右手の平から青い炎が吹き出す。




次の瞬間、アスタルテの視界は





アスタルテの放ったフレイムは、一瞬でB15階全ての空間をで埋め尽くしたのだ。




この時アスタルテは唖然としていて気付かなかったが、これがアスタルテの持つ常時発動スキル《属性反転~炎~》の効果だった。




アスタルテのみが持つそのスキルは、全ての炎の属性を反転させ、形は炎そのままに燃え盛る絶対零度の氷を生み出すのであった。

そして同じく常時発動スキルの魔法強化(極)を持ってる上に魔法攻撃力のステータスが常軌を逸しているアスタルテが放つ魔法スキルは、例え下級魔法だとしてもその威力を数万倍に引き上げるのだった。





アスタルテが辺りを見渡すと、氷はまだそこら中で燃え広がっていて、収拾がつけられなくなっていた…




(これ…どうしよう、怒られるかな…怒られるよなぁ…)

アスタルテがそう思っていると、突如周りの空間が歪み出す。




「な、なんなんだ!?一体…!!」




やがて空間の歪みが戻ったと思えば、そこはつい今までいたはずの空間では無くなっており、また別の開けた空間に出ていた。

(ダンジョンをクリアしたから戻ってきた…のか?)




一瞬そう思ったアスタルテだったが、どうも様子がおかしい。

具体的にどうおかしいのかはいまいち表現できないのだが、なんというか、禍々しいというか、そういう雰囲気がするのである。





「大きな力を感じて来てみれば…なんじゃ?そなたは」





突如声が聞こえ、その方向を向くと、に何者かの姿があった。




膝の裏まで伸びる長い黒髪に渦巻く角、そして背中と腰からそれぞれ生える4本の禍々しい羽。

身体には左足から左頬まで全体的に左側に紋様が浮かび上がっていた。





この姿を見て、アスタルテは一瞬で察した。






こいつが、魔王だと─────





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