《おまかせ》の発見
あれからどれほどの時が経っただろうか──────
1時間かもしれないし、30分かも知れないし、5時間くらい経っているかもしれない。
時間の感覚が掴みづらいこの空間では全く分からないのだが、いずれにせよ詩憐には途方もない時間に感じた。
なぜなら、作業がまるで進んでいないからである。
性別は変わらず男性、
年齢は区切りよく20歳に設定し、種族は魔人と人間のハーフつまり悪魔族のクォーターにした。
見た目はほぼ人間だが、せっかくだし長い人生を歩んでみたい、と思ったからである。
キヤナさんに聞いたところ、新しい世界の人間の平均寿命は元いた世界と変わらないものであったが、悪魔族などの他種族は数百年から数千年まで生きることもあるらしいのだ。
一度他種族の血が混ざれば、肉体は多少なりとも受け継ぎ、寿命も純血ほどではないが伸びるみたいだった。
悪魔族のクォーターならば200年以上は生きられるとのことで、悪魔の容姿はそこまで濃く引き継がないようだった。
詩憐は転生後も人間の街で暮らしていきたいと思ったので、容姿をなるべく人間寄りにしていた。
だがそこまで決まったのはいいものの、案の定容姿の作成に頭を抱えていた。
あれからなんとなく目に付いた顔のパーツを選んでみたり、身長を伸ばしてみたりと頑張ったが結果は元いた世界のオンラインゲームよりも酷かった。
詩憐も男だ。
モテたいと思うのは当然であり、そのために完璧なイケメンを!と奮闘したが、やはりうまくいかない。
(どうすればいいんだよー・・・テンプレの容姿とか用意されてたりしないのか・・・?)
詩憐は選んでいた“鼻”のタブを一度閉じ、ページを下の方まで一気にスクロールする。
(おいおい・・・足の指の間隔まで調整できるとかどんだけ細かいんだよ・・・んっ?)
想像を再び超えてきた細かな調整に天を仰ぎ見た詩憐だったが、《決定》の横にとある文字が存在することに気づく。
「おまかせ・・・?」
その言葉に、杖をくるくると回して遊んでいたキヤナが反応する。
「あぁ、そちらはおまかせでランダムに創造させていただくものになります。ランダムとはいえ、手足の長さがバラバラになったり顔の輪郭が小さいのに対して体が大きくなったりといったことにはならず、バランス良く仕上がりますのでご安心を」
───これだ!と詩憐は思った。
詩憐が今までプレイしてきたゲームにも“おまかせ”は存在していたが、いびつな容姿になってしまったりと、とても選べたものではなかった。
「ただ、そちらのおまかせはこちらのページの全項目に振り分ける物で──────」
(しかし、今聞いた感じだとある意味テンプレに近いものだな・・・それならば悪くない、いやむしろ良い!)
この時、詩憐は自分にとって最も重要なことを聞き逃していた。
実は容姿という項目自体に
そして、詩憐が見つけた“おまかせ”はこのページ全てにおける“おまかせ”であり、種族はおろか、年齢、そして“性別”までおまかせになってしまうという事を─────
それもそのはずである。容姿の項目にある“おまかせ”は、数百種類ある容姿の最終項目に存在していたからだ。
たった数十項目で最後まで見るのを放棄してしまった詩憐にその文字を見つけられるはずもなかったのである。
「じゃあ、おまかせでお願いします!」
その言葉にキヤナは一瞬驚いた表情を浮かべたが、にっこりと微笑むと《おまかせ》を選択した。
▽▲▽▲▽▲▽▲▽▲▽▲▽▲▽▲▽▲▽▲▽▲▽▲
「それでは最後に、こちらの入力をお願いします」
キヤナがそう言うと、詩憐の前にまた新たなページが浮かび上がる。
○●○●○●○●○●○●○●○●○●○●○●○●○●○●
✩ジョブ 【選択シテクダサイ】
✩初期Lv _____〈1~999マデ入力可能〉
✩初期ステータス
〈各1~999マデ入力可能〉
▽HP-ヒットポイント-体力-
______
▽MP-マジックポイント-魔力-
______
▽STR-ストレングス-物理攻撃力-
______
▽INT-インテリジェンス-魔法攻撃力-
______
▽DEF-ディフェンス-物理防御力-
______
▽RES-レジスト-魔法防御力-
______
▽AGI-アジリティ-素早さ-
______
▽LUK-ラック-運-
______
✩初期スキル選択
〈0~20個マデ任意選択可能〉
【 】
-
+
±タブヲ押シテ追加、削除
○●○●○●○●○●○●○●○●○●○●○●○●○●○●
「おぉ・・・!」
詩憐の目が輝いた。
容姿作成ではゲンナリする程の量であったが、ここではそう多くない項目量だった。
それに、自分のステータスを降るということにわくわくもしていた。
さっきまで憂鬱そうにしていた詩憐が元気を取り戻したのを見て、キヤナも微笑む。
(よし、まずはジョブを選ぼう!)
そう思ってタブを開いた詩憐だったが、一瞬ゲッ、となる。
そこにはファイター、ウィザードという一般的なジョブの他に、その上位ジョブなのであろうウォーリアやソーサラー、ビショップやハーミットといった物から、ヒーロー、マジックマスターなどの全種族頂点ジョブと思われるものまであった。
中には農家、武器商人、鍛冶職人、一般市民や貴族なるものまであった。
「これらのジョブは途中で変えられるんですか?」
「はい、途中で変更する場合は一定のステータスが必要となりますが、可能でございます」
なるほど、それならばと詩憐はウォーリアを選択した。
(いきなり世界トップなんて重すぎるし、これなら周りより少し強いくらいだろう・・・!)
・ウォーリア:攻撃タイプのジョブ。自己強化や属性付与等のバフ魔法を扱い、近接にて会心の一撃を放つ戦い方を得意とする。
(うんうん、いいジョブじゃないか!次は初期レベルか・・・)
そこでキヤナに、この世界のレベルについて聞いてみる。
「そうですね・・・一般市民はほとんどレベル1ですね。冒険者ですと、Fランクがおおよそ3~5、その二つ上のDランクだと9、10、Aランクになると18~25あたりですね。その上のSランクは振り幅が大きく下が30上が40程になっております、最高峰に位置するSSランクは数人しかおらず、どの方も60を超えるレベルでございます」
それを聞いて詩憐は案外低いなと感じた。
Aランクでも平均レベル21辺りで、数人しかいないSSランクでも60なのである。
オンラインゲームのランキングトッププレイヤー達は皆カンストしていたし、丸一日プレイすればレベル30くらいは届くであろう。
(っといかんいかん、これはゲームの世界とは違うんだから!)
これが現実だということを思い出し、詩憐は頭を横に振る。
そしてふと感じた疑問を聞いてみた。
「この世界の最高レベルっていくつなんですか?」
「それは・・・」
キヤナは一瞬躊躇った様な顔をしたが、続けて言葉を述べた。
「現在存在が確認されている者で最もレベルが高いのは魔王ノレスで、レベル90になります────」
それを聞いた詩憐の額から一筋の汗が垂れた。
そう、魔族がいる時点で薄々感じてはいたのだ。
でもこれはゲーム通りの世界ではないからとどことなく否定していた。
でもやはりいるのだ、魔王が─────
その時詩憐は知る由もなかった。
まさか近いうちに魔王と対峙することを。
そして・・・ゲームと比べて低いと思っていた世界の最高レベルが持つ、圧倒的破壊力を─────
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