数の暴力

「貴方にはこれから、次の世界へ転生するための肉体を創造して頂きます」


「・・・・は?」



突然語られた言葉に詩憐は理解が追いつかず、間の抜けた声を上げてしまう。

(ちょっと待ってくれ次の世界へ転生・・・は、まぁ最近アニメや漫画で見たやつみたいなものだと思う・・・実際目の前には神々しいのがいるわけだし、あの事故も夢なんて事はないだろう・・・)



正直信じがたいものだし、誰かに言えばきっと、大丈夫か?お前頭でも打った?なんて言われるに決まっているであろう。

しかし、この異様な空間は一言に夢幻ゆめまぼろしと呼べるような代物ではなかった。

そう感じさせるがあるのだ─────



「まず、貴方が転生される世界についてお話させて頂きます、この世界には“魔法”と呼ばれる物が存在し、科学はほぼ存在しません。そしてこれら──────」



(というか肉体を“創造”するってどういう事なんだ・・・?今まで見たアニメや漫画は全部生きていた姿かたちそのままに、なにか転生特典みたいなのが貰えるみたいな感じだったはず・・・いやこれは現実だからアニメ通りにいく訳がないだろうけど、でも・・・)



詩憐の頭の中はパニックだった。

これまでの経験からあらゆる仮説を立てるが、その仮説の穴を自ら突いて崩壊させてしまう。

それを元にまた仮説を立てても結論など導き出せるはずもなく、混乱のループを引き起こしてしまう。



(ってあれ?もしかしてこの人ずっと説明してたのか・・・!?)

詩憐が気づいた頃にはもう遅く、既に転生先の世界の事について話し終える所であった。



「・・・これで、この世界についての説明は以上となります。では次に───」

「あ、あの・・・!!」

知らず内に話がポンポン進んでいくので、詩憐は咄嗟に呼びかける。

「あっ、すみません私ばかり・・・何か質問などございますか?」

「えっとー、そのー・・・」

(やばい、話を止めたのはいいものの、すみません聞いていなかったので始めから説明し直してもらってもいいですか?なんて言える感じじゃないぞ・・・!?)



序盤ならともかく、一区切りの話が終わった所である。

そんな状況でまた最初からお願いしますと言うのは、相手に呆れられるか相手を馬鹿にしている事と思われても仕方ない事だろう。

ましてや相手は神々しい存在であり、そして今から自分を生まれ変わらせてくれる張本人である。

転生の件をなかったことにするくらい造作もない事であろう。

変に気分を害したらどうなるか分かったもんじゃない。



詩憐がどう答えるか悩んでいると、彼女はハッとなる。

「これはすみませんでした・・・私、大切なことを伝え忘れておりました・・・」

その言葉を聞いて詩憐はハッと顔を上げた。

(よし・・・!なんとなく伝わったっぽいぞ・・・!重要な事を知れるならそれが一番だ!要はテストの山と同じ!そこだけ聞けば後はどうとでもなる・・・!!)

詩憐は言葉を聞き逃さぬよう、真剣に聞こうとしていた。




だが、彼女が発した言葉は想像とまるでかけ離れたものだった──────




「私は輪廻の女神、キヤナと申します。本当は最初に言うべき事でした・・・申し訳ございません」

「あ、神門・・・詩憐です、どうも・・・」

まさかの自己紹介に面食らった詩憐からなんとか出たのはその言葉だった。

無論、彼女は最初に呼んでいたし詩憐もそれを覚えているが、咄嗟に出てしまったのである。


「えっと、それではこれから貴方の新しい人生を創造して頂きます」

それを聞いて詩憐はハッとなる。

(そうだ、最悪世界のことは行ってから知ればいい、最も重要なのはここだ)

一言一句聞き逃さまいと詩憐は耳を傾ける。








▽▲▽▲▽▲▽▲▽▲▽▲▽▲▽▲▽▲▽▲▽▲▽▲




「それではまずこちらからお願いします」

キヤナはそう言うと、持っていた杖を軽く振った。

すると、詩憐の前にパネルのようなものが現れた。






○●○●○●○●○●○●○●○●



✩名前ヲ入力シテ下サイ

 

 _________



○●○●○●○●○●○●○●○●




(なんだこれ、ゲームかよ!?)

思わず突っ込みが出そうになったが、改めてパネルに向かう。





(名前か・・・キヤナさんは魔法がどうのって言ってたし、ファンタジー世界だとすると横文字が無難だろう、ならいつも使ってるプレイヤー名でいいかな)

そうして詩憐はパネル上のキーボードで“アスタルテ”と入力した。

この名は過去に詩憐がオンラインゲームを本名でやるのをためらった時に何かないかと探した所、たまたま出てきた豊穣の神アシュタルテーから取ったものであり、それ以来気に入って使い続けていたものであった。





「これで大丈夫ですか・・・?」

一応アスタルテは神話に出てくるれっきとした神である。

同じく神であるキヤナの前で人間が神を名乗るなんていいのだろうかとも思ったが、他に思いつくものもなかったし、ダメならダメでまた考え直せばいいだろう。

そう思いつつもドキドキしながらキヤナの返答を待つ。




「はい、承りました」

名前を見たキヤナは特に何も引っかからなかったのか、あっさりと承諾した。

「それでは次に、容姿を創造して頂きますね~」

(ん・・・?なんか今、語尾伸びなかったか・・・?)

謎の違和感を感じキヤナの方を見ると、その顔はほんわかしており、ニコニコと笑っていた。



その視線に気付いたのか、キヤナは少し照れくさそうにする。

「あ、えっと・・・すみません、私、ここが一番好きなんです。目の前の方が生まれ変わって、どんな人生を歩むんだろうとか、これからどんな幸せを掴んでいくんだろう、とか・・・その第一歩に立ち会えるって素晴らしいことだと思いませんか?」

そう言ってキヤナははにかむ。



そんな可愛らしい姿を見て純粋に詩憐は思った。

(女神って、その名の通り女神なんだな・・・)

詩憐はパネルに目を落としつつ、心が洗われるような心地よさを感じた。



────だがパネルを見た瞬間、詩憐を包んでいた心地よさは吹き飛んだ。




○●○●○●○●○●○●○●○●○●○●○●○●○●○●




✩性別  【選択シテクダサイ】



✩年齢  【___歳】



✩種族① 【選択シテクダサイ】



✩種族② 【選択シテクダサイ】

 +タブヲ押スト追加、最大16種族マデ選択可能



✩容姿

 ▽骨格

 ▽体型

 ▽輪郭

 ▽顔

  .

  .

  .

  .





○●○●○●○●○●○●○●○●○●○●○●○●○●○●





下へスクロールするとまだまだ続く果てしない項目に詩憐は目眩がした。

元々キャラクリエイトというものが苦手で、イケメンを作ろうと数時間かけてもいまいち変なキャラになり、それならばと可愛い子を作ろうとしてもうまくいかない。

(そんなに項目が多くないゲームですら投げ出すのに、何なんだよこれはあああ!?)

思わず叫びそうになった。

というか叫びたい。全力で。

そんな衝動に駆られた詩憐だったが、ふと視線が種族の項目に止まる。


(というか種族がいくつもあるってことはハーフとかクォーターとかも作れるのか・・・これは面白そうだな・・・)

そう思いタブを開き、また後悔した。




────なぜなら、そこには人間は勿論のこと、エルフ、ゴブリン、ウルフ、スライムから、聞いたこともない種族まで合計100を優に超える数が記されていたからである。



もはや種族の組み合わせの項目だけで1つのゲームが作れるんじゃないかと思うほどであった。

人間と悪魔で魔人、人間とウルフで狼獣人、エルフと悪魔でダークエルフ等、適当に並べてみるだけでもキリがない。



(しかも身体は骨格から弄れるし、声は波長調整から最大最小オクターブ数・・・顔のパーツに至っては数万種類ある上に眼球の形とかこれとこれ同じだろ!ジッと見ても違い分からんわ!!)



正直、パーツ数が少ないなら時間をかけてじっくりやろうと思っていた。

なんせこれはゲームと違って自分の生まれ変わる姿そのものになるからだ。

だが考えてみれば当たり前だ、人間だけで見ても全く同じパーツを持った人間など存在しないだろう。

それに加えて別の種族まで入ってきたらもう手をつける気すらまるで起きない。



(どうすんだこれ・・・これ作ってる間に人一人の一生が終わるんじゃないか・・・?)


永遠に終わらなさそうな選択肢の前に詩憐は絶望した。




だが、意外にも早くその選択は終了する事となる。






──────《おまかせ》という文字の発見によって。

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