そして新しい世界へ
「現在存在が確認されている者で最もレベルが高いのは魔王ノレスで、レベル90になります────」
それを聞いた詩憐は動揺した──────
何故なら、詩憐がアニメで見てきた異世界転生の定番と言えば人間界への魔王の進軍を阻止し、魔王を倒す事が使命というパターンがほとんどだったからである。
正直、詩憐は魔王と戦うなんてまっぴら御免だった。
せっかく新しい人生を送れるというのに自ら死地に飛び込むようなものであるからだ。
「もしかして、俺が転生する理由って・・・その魔王を倒す必要があるから・・・なんですか・・・?」
詩憐は恐る恐る聞いてみる。
すると、それを聞いたキヤナの表情がより真剣な物へと切り替わる。
それを見て詩憐の心はより一層ザワつき、心拍数が上がるのを感じた。
─────そしてキヤナが言葉を発する。
「特にそのような事はありませんので、ご安心ください」
「・・・へ?」
(いや、違うんかいっ!!さっきまでの無駄な緊張感はなんだったんだよ!!)
なんだかドッと疲れた・・・
思わず詩憐はその場に座り込む。
「魔王ノレスは人間に対して特に敵意は抱いてないみたいです。最初こそ人間に対する不信感や不満はあったみたいですが、大地が豊かになり文明が発展してきてからはその感情も徐々に薄れてきたみたいです。」
(なるほど・・・それなら戦争に巻き込まれるようなこともないだろう、良かった・・・)
それを聞き安堵した詩憐は、改めてパネルに向き合ったのであった─────
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「うううむ・・・」
詩憐は再び悩んでいた。
その目には“スキル”の一覧が映っている。
初期レベルは12と、Dランク冒険者の少し上にし、ステータスのパラメーターもそれに合わせて平均的な数値をキヤナに聞いて設定した。
そこまでは順調だったのだが・・・
スキルのタブを開くと、そこにはおびただしいほどのスキルが存在していたのだ。
攻撃スキルから防御スキル、ステータス上昇スキルから移動スキルなどの項目があり、その一つ一つから剣スキル盾スキルなどなど・・・
中には“窓磨き”-窓をより綺麗に磨く-など、これ必要か?といったようなスキルまで存在していた。
どうしようかと唸っている詩憐を見て、キヤナが話しかける。
「スキルはレベルや個人の成長に応じて新しく覚えられますので、深く考えなくても大丈夫ですよ」
「あ、そうなんですね・・・」
(それなら最初は無くても良いくらいだけど、なんかしら欲しい感じもするんだよな・・・)
そう考えた詩憐はある物を思い出した。
─────先ほど容姿作成の方で選んだ“おまかせ”である。
(おまかせなら適当に付くだろうし、仮に使えないスキルが付いたらそれはそれで無いものだと思えばいいか)
そしてスキルのタブを閉じ、《おまかせ》を選択してその横の《決定》を押した。
この時も詩憐は気付かなかったが、スキルのタブの最下部に
しかし、先ほどの容姿作成でも《おまかせ》を選んだ詩憐には、“おまかせ”はここだという先入観があり、深く注意しなかったのである。
─────その一方、提出された物にキヤナは愕然としていた。
なぜなら、最初だけでなく、今回の入力欄も全てランダム(おまかせ)になっていたからである。
流石にこれはどうなんだろうか、とキヤナは思ったが頭を振る。
(いやいや、神は人を導くもの・・・その者の決定に異議を唱えるなどといった事はあってはなりません)
道を外れるような物ならともかく、これはただランダムになるというだけで間違ったことではないのだ。
(しかし、念のため確認だけでも・・・)
そう思ったキヤナは問いかける。
「本当にこちらでよろしかったでしょうか?」
と、少し強めに聞いてみる。
それを聞いた詩憐は少しビクっとしたが、その理由はキヤナの意図とは違うものだった。
(確かに初期スキルを深く考えなくても大丈夫とは言われたけど、だからっておまかせにするのはいい加減過ぎたかな・・・)
「す、すみません・・・でも俺、こういうの選ぶのすごい苦手で・・・駄目だったらちゃんと選びます・・・!」
「あっ、いえ!それでよろしいのであれば全然構わないです!」
少し強めに言いすぎたかなとキヤナは慌てる。
「では、決定ということで準備に入らせていただきます」
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「それでは、準備が完了しましたので転送の方を開始させていただきます」
キヤナがそう言うと、詩憐の足元に魔法陣が浮かび上がる。
すると、詩憐の体が段々薄く透けていった。
(色々あったけど、新しい人生がいよいよスタートするのか・・・!)
緊張と期待を胸に、詩憐はキヤナに呼びかけた。
「あの!お世話になりました、ありがとうございました!」
それを聞いたキヤナは微笑む。
「いえいえ、貴方の新たなる旅路に幸あらんことを・・・」
こうして、アスタルテとしての人生が始まるのであった─────
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