二人の未来(5)
花火が終わってからすぐに駅を目指したが、人が多すぎてなかなか前に進めず、電車も数本見送ることとなった。
ようやく周りの人が減ってきたのは、柚子の家の最寄り駅が近づいてきた頃で、電車を降りたときには同じ浴衣姿の人が何人かいるだけで、いつもとほとんど変わらない風景が広がっていた。
それはそれでほんの少し寂しい気がする。まるでさっきまでの出来事が夢みたいだ。
けれど、柚子の左手の薬指には、俺がさっきはめた指輪が光っている。そしてうれしそうな柚子が隣にいる。それだけで言いようがない程幸せだった。
いつものように柚子を家まで送る途中、少し真面目に切り出した。
「お盆休みなんだけどさ、柚子は実家に帰るの?」
「うん、帰るよ。優くんもでしょ?」
「うん。……あの、ちょっと早いかもしれないんだけど……挨拶に行ってもいいか?」
「……へ!?」
少し間が空いてから、柚子は変な声を発した。その表情を窺うと、頬がだんだん染まっていくのが見て取れた。これはかなり動揺しているようだ。
「ええっ、そ、それは、早くない?」
「そう思ったんだけどさ……いつかはお互いの親に紹介して、ちゃんと了承してもらわないといけないんだから、できるうちに済ませとこうぜ。盆を逃したら次は年末だぞ」
柚子も俺も実家がそれなりに遠いので、ちょっと週末に帰って月曜日までにまた戻ってきて……というのは難しいのだ。
さりげなく説得しようとするも、柚子はまだあたふたしている。
(さすがに急すぎたか……)
今回は諦めておくか。あまり焦るのもよくないしな。
「別に、お前のこと急かしたいわけじゃないんだ。……そりゃあ、早くお前のご両親にも認めてもらいたい気持ちはあるけど。でも、お前にもタイミングとかあるしな」
「あ、そうじゃなくて……」
柚子は繋いでいた手をぎゅっと握ってきた。
「ん?」
「その、恥ずかしいの」
「えっ?」
思わず顔を覗き込むと、目を逸らされた。
「親とはあまりそういう話をしたことがなくて。だから、付き合ってる人がいるとか、結婚したいとか、どんな顔して伝えたらいいのか……」
そう打ち明けた柚子はすごく照れた顔をしていて、そんな表情も、柚子のことを今ここで抱き寄せたくなるくらいかわいかった。
「大丈夫、俺がついてるから。俺がちゃんと話を進めるよ」
「優くん……」
「あ、でも、付き合ってる人がいることくらいは言っとけよ? いきなり知らない奴が現れて娘さんをくださいって言ったらびっくりさせちゃうからな」
「うん、頑張る……」
よしよしと頭を撫でると、柚子は俺の腕に頭を寄せてきた。
「で、いつにする?」
「私は十三日に帰って十五日の夜には戻ってくるよ」
「じゃあ十五日に伺うから、その後一緒に戻ってくる?」
「あ、それいいね」
俺も十三日に帰る予定だったので、二日間だけ自分の実家に滞在して柚子の実家に向かうことになる。まあ、どうせ実家には親父一人だし、親戚の集まりに顔を出す以外は特にすることもないからいいだろう。
柚子に訊いてみたところ、彼女の実家は俺の実家からもそれなりに離れているようだ。電車で一時間くらいだろうか。
「十五日の……昼過ぎかな、そっちに行くのは」
「分かった、待ってるね」
「……なんか、日取りとか決めちゃったら緊張してきたな」
実際、ちゃんと柚子の両親に認めてもらえるかどうかはかなり不安だ。
初対面でいきなり結婚の承諾を得ようとしているのだから、生半可な態度で臨むことはできない。
けれど、柚子はそんな俺を励ますように、握った手にそっと力を入れた。
「優くんなら大丈夫だよ。うちの両親そこまで固くないし。優くんが頼りになる人だってことは私からもちゃんと伝えられるから」
「……ありがとな」
きっと何があっても、隣に柚子がいてくれたら俺は頑張れるだろう。
そう思うと少し気が楽になって、そっと柚子の手を握り返した。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます