飛べない鳥は空を仰ぐ
千輝 幸
飛んだ私と黒い悪魔
夏の生ぬるい風がスカートを揺らす。
学校の屋上から見える景色は、いつもと変わらない
私も、今の状況も、いつもと変わりない。
心のどかで抱いていた希望。
いつかは私も、この状況も変わると思ってた。
それはあまりにも希望的観測だった。
もうどうでもいい。
私は希望を未来を心のそこに沈めた。
深く息を吐き、黒いアスファルトを見つめる。
これからその黒いアスファルトを、私の赤で染め上げる。
私がこの世界にいた証を、最後の力で刻み込む。
もう、自由になりたい。
その一心で私は最後の一歩を踏み出す。
風を切りながら地面に向かって飛ぶ。
鳥のように自由に飛べる訳では無いけれど、
生まれて初めて、幸せな気分だった。
手を広げ、空を見上げると
涙の奥で太陽の光が、嫌なほど暖かく
輝いていた。
「さよなら私」
目を開けるとそこにはあの不快な空があった。
「やあ」
声の方を向くと、そこには漆黒の翼の生えた悪魔のような少年がこちらを向いて笑いかけていた。
「・・・」
何も言えずに固まっている私に、彼は笑いかけながら自己紹介を始めた。
「やあ。
グルって呼んでね。さて、ほたるさん。自ら命を絶った貴方には選択肢が三つあります。
一つ目はこの学校に残り、人間にやり返しできる
地縛霊コース。二つ目はだれにも見えず何も出来ない、ただただ彷徨う浮遊霊コース。そして三つ目は7日間コースになります」
「7日間コース?」
「ええ。7日間普通に生活してもらいます。
ただ、夢のようなものなので何をしても構いません。お金を盗んで大豪遊したり、やったことない事をやってみたり、もちろん人を殺しても構いません」
目の前の悪魔は涼しい顔で淡々と話す。
「どれでもいいから好きにして」
目に腕を当て、投げやりに話す私に対して、彼は不気味な笑顔で言った。
「では7日間コースで行きましょう。
何より人の血を見れるのが僕はたまらなく好きなので」
腕を避けると夕焼けの空と黒い羽根を広げ飛んでいる悪魔の姿があった。
「ようこそ7日間コース死後の世界へ」
飛べない鳥は空を仰ぐ 千輝 幸 @Sachi1228
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