第26話 ジャンプと現実

―――跳躍レベル1を習得しました―――


 まだ跳躍レベル1という事もあり、10メートル以上を普通にジャンプで到達出来る領域にまで達する事に成功した。


 後の10メートルは攻撃魔法レベル3Maxの炎魔法を発動させる事で補う、

 最初はコントロールが難しかったのだが、

 今では慣れてしまった。


―――操縦を習得しました―――


 どうやらこの操縦というスキルのおかげで足から炎魔法のジェット噴射をコントロールする事が出来るようになったようだ。

 これには僕として思わぬ誤算であった。


 ようやく20メートルのジャンプに成功すると、

 ちょうど朗読が終わったので、 

 その分のスキルを獲得する事となった。


―――縮地を習得しました―――

―――気配遮断を習得しました―――


 祖父はこちらにやってくると、

 軽く手を叩いて見せた。


「よくやった。スキルの解説は、いるかのう?」


「基本的なものは、いらないとして縮地と気配遮断だけは教えて欲しいよ」


「それなら解説しようかのう、まず縮地とは距離を縮める事であり、まるで瞬間移動しているように見えるが、実際は直線の距離を縮めて、ものすごいスピードで走っているという事じゃ、全力疾走の比ではなく、弱点があるとしたら直線上にしか縮める事が出来ないという事じゃ」


「なるほど、そんなすごいスキルを覚える本を読んでくれていたのですね」

「そうじゃ、これは色々と便利じゃからのう、さて、もう1つじゃが」

「それは気配遮断ですね」

「その通りじゃ、まず気配遮断を説明するにはこれを知る必要がある。ヤマアキは暗殺者の資格を持っている。という事は暗殺者でしか使えないスキルも覚える事が可能となり、気配遮断は元々は暗殺者が覚える物じゃ、お主はそれを学ぶ事に成功した。というかその本を朗読して思い出させた。例えばのう、モンスターテイマーの資格があるじゃろう?」


「あります。それがどうしたのですか?」


「異種族言語とモンスター言語はヤマアキがモンスターテイマーの資格を持っているからだ。それでヤマアキはモンスターテイマーの職業も持っているという事、この世界で沢山の職業を得る事が出来るのが、我らの利点なのじゃ」


「なるほど」


「そこで、気配遮断は暗殺者の資格があるから覚えたものであり、暗殺者の資格がなければ、わしが朗読しようと習得する事は出来なかったのじゃ」


「そのようなシステムがあるとは、僕は気づきませんでした」

「気にするでない、それで気配遮断は言葉の通り気配を永続的に消す事が出来る。最強の暗殺者の誕生じゃな、しかし近づきすぎるとばれるからそれは忘れないように、透明人間になった訳ではないという事を忘れぬように、ではそろそろ深夜の2時になろうとしている。しばしの別れじゃ」


「はい、爺ちゃん、いつも本当にありがとう、爺ちゃんとは沢山生きている時に話をしたけど、爺ちゃんは厳しいイメージがあったんだ。ここまで新味になって色々と教えてくれるのが、とても嬉しいよ」


 祖父はこちらを見てにこりと頷く。


「お主が虐められているのをあの世から見ていた。わしはそれに地団駄を踏んで怒りを遠吠えを上げていた。それだけじゃ」


「はは、すごいね」


「まぁ早く戻れ」


「そうするよ」


 その日は屋敷に戻って巻物を開くと、

 色々とやりたい事があると思いながら、

 この世界を、そして島をまるで育成しているのがとても楽しくて、

 今の僕の人生を彩っているそんな気がする。


――――――――――――――――――――――――

異世界(ファンタリアル島)→現実世界(祖父の屋敷)

――――――――――――――――――――――――


 祖父の屋敷に戻った僕は、

 ふらふらになりながら、自分の部屋のベッドに辿り着くと、

 まるで疲れたサラリーマンが寝落ちするかのように、 

 僕は高校の制服を着用したまま眠りについたのであった。


 今日は何かの夢を見ていた気がする。

 祖父と楽しく遊んでいる夢だ。

 2人の祖父がいた事を懐かしく思っていた。

 今では両方の祖父は天国に行き、

 片方の祖父だけが今無人島にホログラムとして存在している。


 夢はそんな所で終わり、

 母親と父親が僕とにこやかに挨拶をして、

 僕は遅刻しないようにパンを食べて、

 スクランブルエッグにケチャップをつけて食事を終わらせた。

 コーヒーをごくごくと飲み干して、 

 制服がくしゃくしゃな所を母親が軽く直して。


「行ってきます」


「行ってらっしゃい」

「お、途中まで父さんと行くか」


 僕は父親と走っていた。

 父親の会社のバス停は隣なのだが、

 走りながら会話をする事となった。


「最近変わったけど何かあったのか?」

「父さんは魔石を集めて会社を作ったんだよね」

「お、祖父から聞いたのか?」

「そんなところ」


「そうだな、父が集めてくる魔石に祖父は事業を始めた。それを引き継いだのが父さんだ」

「父さんはその魔石がどういうものか分かっているの?」

「もちろんだ。とても危険なものだという事、これは我が一族が守らねばならぬ事で、その為にはお金が必要で、魔石を信頼の置ける会社に売っている」


「父さんが恐ろしい権力者じゃなくてよかったよ」

「父さんを馬鹿にするな、これでもあの厳しい祖父の息子だぞ?」


「それは言えてる、じゃ、僕は行くよ」

「元気でな、無理をするなよ」


 その日バスに乗って地下鉄に乗ろうとしたら、

 この前と同じ様に地下鉄のところで七条楓さんと出くわした。 

 彼女はこっちに走ってくると、

 にかりとこちらの眼差しを見ていた。


「いこ!」

「うん」


 地下鉄の中、そして高校にたどり着くまでに、色々とトラブルがあった。

 それでも2人は小説の話に花を咲かせながら。

 飛んでくるサッカーボールを僕が払ったり、

 野球のボールが飛んできてもキャッチしたり、

 マンションの屋上から花壇が落ちてきてもそれをパンチで粉砕したり。


 なんか可笑しい事に僕は気づき始めていた。

 その殆どが七条さんにヒットするようでいて、

 それが僕がガードする事を見越しているような、

 とてつもない戦略を感じたのであった。


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