第18話 修行と帰宅

 残り数時間程しかないのに、

 祖父の修行はベリハードであった。

 僕は基本的に逆立ちなんて出来ない、

 それでも祖父は逆立ちを無理矢理にでもやらせようとした。


 恐ろしいのは、祖父の体はなくとも魂があるので、

 祖父は魔法を使う事が出来る。

 箒に魔法をかけて、

 ちゃんとした形になるように、箒を鞭の代わりに叩きつける。

 逆立ちをしようとして少しでもバランスを崩すと、そのポイントを箒で叩きつける。

 不思議な事にそのポイントを叩きつけられるとバランスが取れて逆立ちが出来るようになる。


 祖父は椅子に座って、足を組み、社長のようにしているし、

 あの朗読は健在で、今も何かの朗読をしている。


 内容が頭に入らないという事はない、

 爺ちゃん、いやここでは1人の先輩として祖父と敬称しよう。

 祖父は恐らく僕が集中出来るような魔法をかけている。

 祖父の言葉がすんなりと頭に入ってくるのだから。



 色々とスキルを覚えているが、

 後程まとめて確認しようと思いつつも。


 

 俺は1時間程度で逆立ちが出来るようになった。


 祖父はにやりとほくそ笑むと、次の課題を提供、

 それは逆立ちで腕立て伏せをする事だった。


 いや物理的に無理でしょとは突っ込まない、そう言う事を言うとさらに難しい修行をさせてくる。

 しかし筋肉が悲鳴を上げてそこにぶっ倒れると、

 祖父は僕にエリクサポーションを飲ませる。

 緑色の液体のポーションは飲み過ぎると旨いのか、それとも不味いかが味覚が可笑しくなってくる。


 筋肉疲労が一気に回復すると、 

 また逆立ちをして、物理的に不可能な腕立て伏せを始める。

 こういうマッスルなんたらであったぞとは突っ込めない。


 なぜなら祖父はテレビを見ていないので、そのマッスルなんたらを知るすべはないのだ、

 祖父の修行の仕方と、そのマッスルなんたらが合致してしまっただけなのだから。


 なんとか逆立ちで腕立て伏せをやり遂げる。

 祖父はにやりと笑って、次の課題を出す。

 右足と左足に棒を縛り付けて、

 なんとその棒で歩かせるではないか、


 一体何がしたいのかと思ったら。


「両手が動かない時、両足に剣を縛りつけて、戦う方法」

「ある訳ねーだろ」


 思わず僕が突っ込むと、祖父はにやりと不気味な笑顔を浮かべる。

 まるでそれは道化師のようにくつくつと笑っているその物であった。


「え、いいのかい?」


「す、すみません」


「もう、遅いよ?」


 祖父は俺の頭の上に岩を乗せると、

 その状態で剣と言えども、屋敷の中に飾られているノーマルなロングソードなのだが、

 右足と左足に括り付けると、 

それで拠点の島を100周するというありえないものであった。


 それをやり遂げると、俺は死にかけており、

 エリクサポーションを再び飲むと、

 筋肉疲労が全て回復する。

 

「そろそろ時間じゃ」


 祖父はホログラムのぼやけている顔でこちらを見ている。


「お主はすごい! わしでも出来ない修行をしている」

「それひどくないですか」

「それだけわしは孫に期待しているという訳だ」

「それ虐待だから」

「違う、これは教えだ」

「それ昔風の虐待だから」

「いや、これは昔風の教えだ」


「まぁ、爺ちゃん色々とありがとな」

「気にするな、それだけの体力があれば現実でもやっていける。もう虐められるなよ」

「もちろんさ」

「では早く家に帰って、高校とやらの場所に行く為に寝る事じゃ」

「ああ、そうする、爺ちゃんもここじゃ1人じゃないから寂しくないだろ?」

「まぁな、人間が1人にその他のモンスター達だからなぁ、お主には色々と助けられる」

「そう言うのが孫と祖父の関係ってやつさ」

「まぁそれも悪くはない」


 その後僕は現実世界に戻る為、

 あの巻物を館の中で広げる。

 この巻物は僕しか通す事の出来ない、不思議な物で。


 僕はゆっくりと目を開けると、 

 同じ館の為、本当に現実に戻ったのか心配だから、窓から外を見ると、

 そこには人間の文化、つまり沢山の建物があった。


 僕は自分の部屋に戻って寝る事とした。

 時刻はちょっきし深夜の2時であったのだから。


 朝起きると、いつも通りに母親と父親に挨拶する。

 母と父はこちらを驚きの視線で見ている。


「昨日はどこに行っていたの?」

 

 母が尋ねてくると、僕はこくりと頷いた。


「友達の家で修行をしていたんだ。間違った勉強をしていたんだ」


「はは、そうなの」


「修行か、祖父がよく修行していたな、まさか祖父の影響で」

「父さん、それはないよ」


「そうだよ、祖父、いや父さんみたいになったら、金は儲かるが恐ろしい仕事ばかりをやっていたぞ」

「それは聞きたくありません」


「そうだな」


 母親と父親に挨拶して、

 俺はバスに乗って地下鉄に乗って、移動をする事に、

 すると地下鉄のところで沢山の人々が行き交う中

 突然腕を掴まれると、引きずり込まれる。


「おはよ」


 そう言ってくれたのは、七条楓さんだった。

 彼女は少し照れ臭そうにしながら、


「来るの待ってた」

「それはとても嬉しい、一緒に高校行こうか」

「うん!」


 それから僕と七条さんの世界になった。

 周りで何が起きようとも、車が事故っていても、

 スーパーで強盗が暴れていても、火事が発生しても、

 僕と七条さんは夢中で話をしていた。

 まるで最高な友達を得たとばかりに、

 

 内容は殆どが小説の内容だった。

 七条さんはありとあらゆる小説を読んできたので、 


「まだまだ僕には七条さんには及ばないよ」

「そんな事ないよ、面白い本を沢山読む、そして夢中になる本を沢山見つける。それが本と付き合う事なのよ」

「やっぱり七条さんはすごい賢いね、僕は暇つぶしだけの為に考えていたんだ」

「それもいいんだよ、だけど本は向き合いの仕方で強くなるんだ」


「そうか、おっとあぶない」


 七条さんに向かって野球のボールが飛んできたが、何気なく僕はキャッチして見せる。


「山明君ってすごいんだね、さっきだって車の事故で吹き飛んできた物をキャッチすると、火事で炎が飛び散った時も、私を守ってくれるし、強盗が私を人質にしようとしたら、一発殴っただけでアニメのように吹き飛ばすし」


「はは、これは偶然でね」


「そ、そうなんだ、でもいつかその力の秘密があるなら教えて」

「もちろんいいよ、では僕は授業があるので、七条さんは別なクラスだよね」

「そうよ、帰りも一緒に帰らない?」

「もちろんだとも」


 それから僕と七条さんはそれぞれの教室に向かって行った。


 ちなみに僕の上靴の中に何か棘みたいなものがあったけど、足つぼマッサージのようなものだと思っていた。


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