第13話 1人住民が追加


 僕はアイテムボックスに入れておいた果物のブーリンを夕食の代わりに食べていた。

 口に広がるリンゴのような甘味に感動しつつ、

 紫の葡萄の色のようなそれにも感激している。

 今日は赤いホログラムで出現した祖父は、

 こちらを見てワクワクしている。


「それでその女子とはキスしたのか」


「してないよ、友達なんだから彼女と言う訳じゃない」


「でもその女子は君に気があるから話しかけてきたのじゃろう?」


「そう言う訳ではない気がするんだ。どちらかというと本好きの仲間を増やしたいという」


「そうか、そういうものなのか、じゃあそれを食べ終わったらシルフの仕事ぶりを把握しようじゃないか」

「だね」


 僕は果物のブーリンを食べ終わると、

 今では祖父の分館だけしかないので、

 屋敷はとても小さいが、

 外では作物がどうやら実っているようで、

 風の精霊のシルフであるシルカは、エリクサの葉っぱの上ですやすやと寝ている。

 時間も時間で、今は夕方の5時過ぎになっているし、

 シルカのお休みタイムのようだ。



 しかし彼女はこちらの気配に気付くと、

 こちらに寝ぼけ眼の状態でやってくる。


「シルカはがんばった。沢山の作物が出来た。でも収穫した奴をどこに入れるかで分からなかった」


「爺ちゃんいい場所があるかい?」

「お主のアイテムボックスがいいぞ、いつでもどこでも取り出せるからのう」

「そうしておきます」


 僕はアイテムボックスを取り出すと、

 まるで掃除機のように作物を収穫して行った。

 それもあっという間に。


「では次の作物を作るであります」

「お願いしたよシルカちゃん」


「はいですぅぅ」


「いつ見ても風の精霊のシルカちゃんは可愛いね」

「うむ、老人としても目の抱擁だ」

「いやらしい眼で見てないよね?」

「なわけあるかもしれない」

「あるんかい」

「そんなヤマアキもどうなのじゃ? その友達のエロい所を」

「友達になったばかりでエロイ事してたらある意味尊敬するよ」

「ふぉふぉふぉ」


 爺ちゃんは笑っていた。 

 その笑い方は生きていた時と同じ笑い方だった。

 それを見ているととても心が締め付けられる感じがした。

 いつかこの魂となりホログラムとなっている祖父と別れる時がくる。

 そんな気がしていた。


「まずは次の無人島に行く事からじゃ、イカダに乗れい」

「あのボロボロイカダは怖すぎるから船とか作れないのか?」

「確かわしの時はスキルで船とか飛行機を召喚して、人工AIで操作してたよ」

「すげーなおい」


「わしがすごいからのう」

「それは否定しません」


 そんな会話を繰り返しながら、

 イカダにはボロボロでも壊れにくいように何かの魔法がかけているらしいが、

 それでも恐ろしさを感じざるおえなのだ。


 静かな波に揺られながら、

 自分の無人島を入れたら3個目の無人島。

 ほぼ自動運転でそこに漂着すると、イカダを固定する事も忘れないが。


「基本的に勝手に流される事は無い、自動運転機能があるように、主のデータがやってくるまで動かないようになっている」


「この世界ってさファンタジーなのかSFなのか理解出来ないよね」

「それはわしも感じていた事じゃ」


 そこは僕のいる無人島より2倍程くらいしか大きくなかった。

 しばらく歩いているとあっという間に周りをぐるりと回った。


 真ん中にある島があった。

 そこの台座には1人の白いワンピースを着て、黒いロングヘアーの高校生くらいの女性が眠っていた。

 なぜこんな所に美少女がいるのか、僕には理解に苦しむ所があるし、

 容姿だけでもものすごく可愛いし、

 息をしていない、

 恐る恐るその大きな胸に耳を当てると、心臓が動いていた。


 台座にはキスをしたら目覚めますと書かれてあり、

 祖父がそれに気づくと、


「ほれちゅーするんじゃ、唇にぶちゅーと」

「そんな事出来る訳ないだろ、この子がすごく迷惑じゃないか」

「お主は気付いていないだろうが、相当なイケメンだぞ、痩せてから」

「イケメンではないし、もしかしたらこの子は性格を重視するかも」

「お主は気付いていないだろうが相当な性格がいいぞ」


 僕は頭をぽりぽりと掻きながら。


「ああ、もうなるようになれ」


 といいつつ唇にキスをしようとしたら、

 足に石が躓いて、

 唇ではなくて頬っぺたにキスをしてしまった。


 するとぱちくりと白いワンピースを着たロングヘアーの美少女がこちらを見て、

 気絶した。


「意味ねーじゃねーかよ」


 僕の当たり前のツッコミだが。


「そうとも言えん」


 爺ちゃんがそう告げると、

 ゆっくりとこちらを見ている美少女が、

 

 彼女はずっとこっちを見て、台座から降りてとことこ僕の胸に飛び込んできた。


「抱きしめてくださる?」



 とりあえず軽く抱きしめると。


【新しい住民が追加されました。純白の女神です。名前はミュン】


 まるでゲームの世界のように放送されるその内容、

 どうやら彼女を抱きしめるという事は、住民にするという事らしい。


「1つ言い忘れていがた、モンスターでない場合、人間とかエルフとか色々な種族の場合、それぞれに受け入れる意思を告げると、住民として登録されるから」

「先にいえやああ、爺ちゃん」


「ふ、わしは老人で生い先が短い」

「もう死んでるだろうが」


「ふ、わしは老人で物忘れがひどい」

「その物忘れの脳味噌は焼却炉じゃねーか」


「ふ、何も言えない」

「ちょっと反省しなさい」


 美少女はずっと抱きしめているのだ。

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