酸欠

 自分で自分の首を絞めて死ぬことはできないらしい。

 そのことを知っているからか、眠れない夜に自分の首を絞めてみると、気分が落ち着くときがある。


 血が出るのも痛いのも嫌だから、手首を切ったり皮膚を焼いたりする勇気はなく、少しの間苦しさを我慢する程度で終わる首絞めくらいが僕にはちょうどいい。


 手が首の骨の間に入り、酸素が足りなくなった身体が強張っていく。息を吸おうとする喉が迫り上がってくるのを必死に抑えながら、自分自身と戦う感覚が可笑しく思えた。

 緊張と緩和。手を離して、ダムが決壊したような勢いで全身に空気が巡っていく感覚が心地いい。大きく息を吸いながら、自分が今生きていることを実感する。


 昔付き合っていた女の人に首を絞めるようせがまれ、彼女が苦しそうにしている顔を見ながら恐ろしくなったものだけど、今ならほんの少し気持ちがわかる気がする。

 しかし、きっと今の僕では、彼女の相手にはならないのだろう。それは自傷行為以上の茶番になってしまうから。


 昨日は海の底に沈んでいく夢を見た。

 光が全く届かず、上下左右どの方向も同じ色が塗りたくられた空間で、僕は遠近感を失ってただ呆然と沈んでいく。

 苦しさはなかったが、自分のいる位置がわからないことがとても恐ろしかった。


 目が覚めて、汗が滲んだ枕の湿り気を感じながら、自分のしょうもない自傷行為擬きがひどく滑稽に思えた。

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