第3話 落ちるもの。3

「…やっとついたか。」


時刻はもう16時近くになっていた。

その高台は、電車で1時間程かかる場所だった。

だが時間はたっぷりあるため、秋人は寄り道をしながらゆったり歩いて行くことにしたのだ。


あまりの疲労にもう足は棒のようだが、形容し難い達成感がそこにはあった。

サオシロにとっても、いい運動になっただろう。

冬だが体はコタツに入っている時のようにポカポカと暖かい。


呼吸を整え、秋人は高台から街を見下ろした。

夕日と調和して、街が暖かなオレンジ色に包まれている。あの3枚の写真とはまた違った、幻想的な景色が広がっていた。

間違いない、あの写真はここから撮ったものだ。

あまりの美しさに、秋人は呼吸も忘れて、その景色を目に焼き付けていた。

しばらくしたあと我に返り、部屋から持ってきたデジカメを取り出す。

いつもはスマホのカメラぐらいしか使わない秋人だが、苦戦しながらもそこからの景色をなんとか数枚カメラに収めた。


もう目的は達成した。

秋人は近くにあったベンチに勢いよく腰を下ろし、長いため息をついた。

とてつもなく疲れたが、今日はいい日だった。




********************




「…そろそろ帰るかぁ。」


なんだかんだで、高台のベンチに1時間も座り続けていた。疲れもだいぶ回復したし、あとは帰って寝るだけだ。

歩いて帰ることも考えたが、もう外は真っ暗で少し怖いので、帰りは電車で帰ることにした。

駅はここを降りて20分ほど歩いたところにある。

足を軽く叩いて、秋人は立ち上がった。


サオシロはこの日のことを知ることはないだろう。

だが知らなくとも、きっと特別な日になると思う。


僕は、高台をあとにした。


行きに上った長い階段も、帰りは下りだ。

逆だったなら絶望していたかもしれないが、そんな些細なことも嬉しく思えた。

さて、さっさと帰るか_______________























その時、誰かがサオシロの背中を突き飛ばし。

サオシロは階段から転げ落ちた。


そして、死んだ。









  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る