第2話 落ちるもの。2

徒歩5分程でコンビニにたどり着いた。

街はだんだんと目を覚まし、人や車の動きが始まっていた。


コンビニの中に入り、とりあえず菓子パンを数個買うことに決めた。

サオシロの部屋には菓子パンの袋が多くあったため、きっとパン派なのだろう。秋人は米派なのだが、自分の意見はいらないと割り切ることにした。


レジに向かい、今にも寝そうな店員にお金を払ってコンビニを出る。

菓子パン2個と、コーヒー。

夢といえど人のお金を勝手に使ってしまったので、申し訳ない気持ちでいっぱいだ。


現実で会えたら必ず返します。

まぁ、会えるわけないか。


そんなことをぼんやり考えながら、秋人はサオシロの家に向かって足を進めた。

外はとても冷え込んでいて、寒さが肌をチクチクとつきさした。

だがこれも、ほんの少しだけ心地よく感じた。


********************


朝食を済ませた秋人は、この後の流れを考えた。

時刻は6時30分前。

少なくとも夜眠るまではサオシロの生活をしなければならない。

今日はバイトがないみたいだ。

もしあったのなら、やったことのない仕事を長時間やらなければならず、かなり厳しい状況だった。

不幸中の幸と言ったところだろう。


「うーん…困ったなぁ…。」


このサオシロという男の1日は、どうやらバイトと酒で生活が構成されているらしい。


バイトもない、中身は未成年なわけだから酒も飲めない。(というより、飲みたくない。)


早々にお手上げ状態になってしまった。

もう一度部屋を調べてみることにした。


サオシロの住まいは1Kであるため、この部屋から手がかりを見つけるしかない。


とりあえずゴミ袋を引っ張り出し、床を埋め尽くすゴミを集めていった。

ゴミを拾い上げる度に鼻が曲がるような匂いが強くなっていっき、思わず吐きそうになる。

ゴキブリが出てきた時には失神しそうになったが、何とか持ちこたえた。


「…こんなもんでいいかな。」


なんとか床の全面が姿を現したところで、休憩することにした。

コップに水道水を入れ、一気に飲み干す。

…なにやら変な匂いがした。酒が上手く洗い落とされていなかったのだろうか。

秋人は疲労で短いため息をついた。


コップをかたそうと流し台に持っていこうとした時、何かが目にとまった。

食器棚の間に、何かが挟まっている。


引っ張り出すと、ボロボロのアルバムだった。

…おそらく家族たちとの写真を集めたものだろう。

人のプライベートに土足で踏み込むようで気が引けたが、今更言っても遅い気もするので中身を見ることにした。


前半は「模範的な幸せな家族」といった印象だった。美人な奥さんと、可愛い娘さん。今とは比べられないほど、サオシロの表情は輝いていた。


しかし後半になるにつれ、誰も写っていない景色の写真だけになった。


「………。」


胸が締め付けられる。

やはり、見ない方が良かったのかもしれない。

何があったのかはわからないが、なぜこんな幸せだった男がここまで落ちてしまったのか。


…落ち込んでいても仕方がない。

アルバムから情報を得るため、もう一度見直した。


すると、とあることに気がついた。

3枚、同じ場所で取られた写真があったのだ。


ここからそこそこ離れた高台からの写真だろう。

まるで色鉛筆で描いたような、優しく色鮮やかな景色だった。


だが、最後のページに貼られた写真には、酒でもこぼしたのだろう。醜い大きなシミがあった。


それを見て、秋人の頭にとあるアイデアが思い浮かんだ。


この場所で写真を撮り、新しく貼り直そう。


時刻は8時過ぎ。

グダグダしながらも、今日の予定は決まった。



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