5日目

 私は眠れなかった。血を脳にだけ集中させるようにして、目は見開いた。随分長いことそうしているうちに、部屋の窓からは、夜明けを告げるような青黒い光が差し込んだ。

 私は唇の端に微かに垂れたヨダレをしどけない夜着で拭って、適当に着替えをバックから掻っ攫い、大浴場へ向かった。

 私は確認したいことがあった。時間としてはちょうど格好な頃合いだと思う。以前もこのくらいの時間帯に……。

「あ」

道中、ケイコさんと遭遇した。あどけない爛漫な表情に、上気した頰を見せていた。イヤリングが耳元に確かに付けられていた。

「お風呂上りですか?」

私はわかりきったことを尋ねる。

「え、ええ。そんな感じ」

「今日はぐっすり眠れましたか?」

私は足早に質問する。

「え、ええ」

私のその質問に、ケイコさんは視線を逸らした。湿り気が残る髪の毛から、雨上がりのような芳しい香りを放っていた。首筋は真っ赤に染まり上がった。私は、多分これも風呂上りだからだろうと、滑稽なことを思った。

「それじゃあ」

そう言ってケイコさんは立ち去った。振り乱れる髪の毛から垣間見えるうなじが酷く美しかった。その美しさの理由を考えて、私はまた滑稽に思った。

……。

「レディースアンジェントルメーン!皆さん、大試写会の始まりです!」

スクリーンが下げられた演芸会場の一室に私らは集められた。部長がマイク片手になれない司会をしている。ただ、その明朗さの裏には、二重の思いが見え隠れしているように私は感じた。

「部長、気張ってますね。実は、完徹したんですよ」

隣にいた浩三くんが私に耳打ちする。私は、曖昧に相槌を打つ。あまり対外的な頭が回らなかった。

 私は部長のあまりのやる気に驚いていた。確かに、最後の部活、それもここまでやって来たのだから、良いものを完成させたいという思いはわかる。しかし、おそらく部長は先の事実を知っている。それでもなお、徹夜で作業をしたり、今も空元気を出して映像を見せようとしている。普通、あの光景を目撃してしまえば、やる気も何もかもが無くなるのが常ではないだろうか。なのに、むしろ、それを悟られまいとするように、テンションは高い。私は重たい瞼を上げ下げしながら、首を捻った。

 というか、部長は早々にあのことを知っていたはずだ。なのに、撮影は続行して……。私はまた首を捻った。そんなに最後だから、完成まで漕ぎ着けたいのだろうか。たとえ、仮初めであったとしても。

「浩三くんは映像の中身を確認したの?」

私は尋ねる。

「いや、してないです。ほとんどさっき完成しましたから」

「上島くんも?」

「ええ。してないです」

「あっそう。なら、部長だけが知ってると……」

私は若干の不安を抱きながら、スクリーンに目を移した。何か告発めいたことをしでかさないかと思った。しかし、ある意味、部長がそうする権利はあるかもしれない。多分、あのカメラに映っているのはほとんど嘘っぱちだろうから。

 会場は私の部屋と同じように畳が敷き詰められていた。随分と使われていなかったのか、埃っぽい空気が藺草から立ち込めた。机の類は片付けられているのか、広々とした空間が広がっている。私たちはそこに、めいめい好きな場所を陣取った。私らは後ろの方に、サーカスライオンのメンバーは前の方にいた。だから、表情は伺えない。ぎこちない距離を隔てて、右から、コウタさん、ケイコさん、レイナさん、ミワさん、シュウさんの順番で横並びになった。5人は石像のように固まっていた。スクリーンをただ眺めて、この時間をやり過ごせることを思案しているかのようだった。

「それでは、ご覧下さい」

部長はそう言って、部屋の明かりを消す。スクリーンには向日葵畑をバックに、全く頼りないフォントで、

「掛け替えのない日常」

の文字が映し出された。そして、映像は始まった。今日までの日常が淡々と映し出された。川釣り、武道場での練習、山菜採り。そんな類だ。

「うわー釣れた」

「大きいな」

「これなんて魚?」

「さあ」

「調べてよ」

「図鑑がないと無理だな」

「えええ」

「私が調べようか?」

レイナさんが笑ってそう言う。ミワさんは鱗を銀色に光らせるその魚を針から外して、乱雑にバケツへ放り込んだ。

「さすがリーダー。頼もしい」

「調べるだけで大袈裟だな。それに、あんまり当てにしないでよ」

「ケイコは釣れた?」

「全然。それに、かかっても私力無いから川の方に持ってかれちゃうかも」

「なら俺に任せときな」

「そんなこと言うなら、コウタくん代わってよ。見てばかっかじゃないで」

「こういうのは女子がやるから風情があるんだよ」

「そうかな」

「ミワ、ごめん。魚わからなかった……」

「そっか。まあ仕方ないね。ほら、逃げな」

そう言って、ミワさんはバケツからその魚を出して川に投げ入れた。魚は鰭を器用に動かして川下へ消えた。

「シュウもやったら?ていうか、なんでさっきから女子しか釣りしてないの?」

「食いもしないのに釣って何が楽しいんだか」

「風情もないわね」

「そもそも、そんな釣り針使っている時点で生態系傷つけまくりじゃねえか」

「魚釣りなんてそんなものでしょう」

「くだらねえ」

「気取っちゃってさ」

「まあまあ」

レイナさんが割って入る。それでも、二人の表情は晴れやかでない。そして、注釈をつけるように、カメラへ向かって、

「い、いつものことですから。気にしない気にしない。あはは」

と言った。奇怪な画面だった。

 私はサーカスライオンのメンバーへと目を移した。依然として、姿勢は変わらない。距離感も微動だにしない。

「微笑ましいですね」

浩三くんがポツリそう言った。私は何も言わなかった。

 私は不意に笑いそうになる瞬間がいくつもあった。昨日の、あの声を思い出したからだった。あれが決して彼らの仲が破滅を迎えていると、指示するものでもなかったが、私にはそれに類する暗示としか認識されなかった。

 私は部長に目を向けた。彼は正座して、画面を食い入るように見つめていた。私は彼の心情を最大限推測し、何も得られないことを発見した。

 ……。

 その日の夜、私は武道場へ呼び出された。背中が重かった。日没間近だったが、地面には日中の熱気がまだ滞留していた。剥き出しの向う脛に日焼け後のようなヒリヒリした痛みが滲む。私はサンダルで小石を蹴り飛ばすように歩いて、武道場へ向かった。

 私はすっかり気が滅入っていた。落胆、失望、諦観。そんな感情でいっぱいだった。眼を見開こうにも、脳がそれを拒んだ、瞼の上にでも小人が居直っているのではないかと思うほどだった。明るいことを考えようとすると、すぐに暗い話題が思い浮かんだ。

 武道場には明かりが灯っていた。食当たりのように、お腹が痛んだ。数分入り口近くで右往左往した。その頃には、月明かりが私を照らし出したが、昨日の件が思い出され、私は酷く苦い思いでようやく入口をくぐる決心をつけた。

 中には、機材のセッティングをすませた、サーカスライオンのメンバーが所定の位置にいた。レイナさんが中心で、マイクを握っていた。部屋の隅の方に、新聞部の面子も伺えた。

「これは一体?」

私が呆けてそう尋ねる。

「これが、私のしたかったことなの」

私の疑問に、レイナさんは漠然と答えた。

「そこに座って」

そう言って、レイナさんは紫色のふっくらとした座布団を指差した。私はどう座ろうか悩んだ末に、正座を選択した。

「私たちのファンなんだよね?」

「ええ。でも、まさか」

「前のは練習だったから。私も別に気合は入れてなかったし。今日のは別」

「いいんですか?」

私のその言葉に、レイナさんはひしゃげた笑顔を作った。しかし、私は内心特に浮かれてはいなかった。

「もちろん」

私は、他のメンバーを見遣った。コウタさんはやけに手汗を気にしているようで、ミワさんは鬱陶しそうに虚空を見つめていた。シュウさんは前髪の垂れ具合を弄び、ケイコさんは俯き加減の笑みを浮かべて時間を待っていた。

 確かに嬉しくないことはない。しかし、最上の歓喜が私を逆巻くわけでもなかった。どうしても昨日のことが記憶の大半を占拠した。

 言ってみれば、現状が私の瞳にはぶれて見えた。瞬きするたびに、その色や表情は劇的に切り替わった。騙し絵を見ている気分だった。見方によって、Aに見えたりBに見えたりする。私はそのAとBを瞬きのたびに入れ替えた。理想と現実が、色彩と汚濁を提示して、私の視界を覆っていた。

 私はそこでようやく、自らの幻想あるいは妄想から解き放たれた。私が聞いていたサーカスライオンの曲は全てまやかしの上に成立していた。彼らはとっくに離れ離れであり、歌の上でのみ、仮初に成立した。それは私には覆しようのない事実として認定された。彼らに対する色を私は失った。

 私はレイナさんを見つめた。レイナさんだけは、明確な色彩を帯びていた。それは、一見向日葵色に映ったが、鑑みれば、晩夏を思わせる衰退も顕著だった。瘴気を浴びたように、褐色混じりの芥子色を色調とした。

 私は初日、レイナさんと眺めた向日葵畑の景色を思い出した。そして、私はまた一つ、レイナさんがあの向日葵畑に馳せた思いを夢想した。あそこで、自分のかつての色を見たのではないだろうか。今の濁った向日葵色ではなく、純粋な向日葵色。それが一体、彼女にどのような意味を持つのか、私にはわからない。でも、なんだか、レイナさんは、その色を取り戻すために、ここへまたやって来たのではないかと、そう思えた。

 ビートを刻む音が耳に流れた。いよいよ演奏が開始された。私は彼らの表情を見ないようにした。私は、彼らと出会った初めのこと、つまりは、あの電光掲示板に映された彼らの姿を脳裏に思い浮かべた。ただ、残念ながら、その映像は私の中では色褪せて、どんな瞳をしていたのかやどんな表情をしていたのかについても、一切思い出せなくなっていた。

 歌はいつの間にか終わった。私はおざなりの拍手で出迎えた。

「いやー素晴らしい」

部長のそんな声が聞こえた。私はそれを咎める気もなかった。

 ……。

 私はその夜、向日葵畑へ向かった。いつもの通り、ベンチに座ってその光景を眺め、それが持つ意味を考えた。

「ここにいたんだね」

レイナさんがそう言って、私に声をかけた。私は不明瞭に反応した。

「どうだったかな。生ライブは」

隣に座って、私に歌の感想を求めた。ほんのりとした甘い香りも今は特別意味を持たなかった。

「良かったですよ」

「そっか」

「本当に、良かったです」

私は独り言のようにそう言った。それは、その言葉を本心だと思い込もうとこの期に及んで抵抗する私の欺瞞に他ならなかった。最早守るべき矜持もないはずなのに。多分それは、レイナさんの手前という最後の砦が原因なのだろうと思った。

 向日葵が揺れる。私は、この向日葵の美しさよりも、秋を迎えて更地となる殺風景に心を奪われていた。そうやってこの向日葵たちは一年を過ごしている。向日葵の咲かない冬。地中に埋まった種子は、それでも懸命に太陽を指差しているのだろうかとぼんやり考えた。

「ねえ、岬ちゃん」

私を呼ぶ声がする。

「はい?」

「ごめんね」

レイナさんはそう言った。伺った横顔は、ピカソ的な印象を私に与えた。横顔しか見えていないのに、真正面からの様子をも見出した気分になった。断面と平面図を見ているような……。

「何がですか?」

「全部自己満足だったの」

「?」

「多分気づいちゃったんだよね。私たちのこと」

「……」

「さっきね、歌い終わった後の、岬ちゃんの顔ですぐにピンと来た。私たち皆を視界に入れないように、細心の注意を払って、私の顔だけを見るように拍手してた。その拍手も、砂漠にいるのかってくらい乾燥した音だったし」

「そんなことは……」

ないとは言えまい。

「いいのいいの」

そう言って、レイナさんは空を見上げた。

「全部、わかってたんだよね。でも、わからないようにできると思って」

ひゅるひゅると夜風が吹いた。レイナさんの後れ毛が彼女の頰を掠めた。レイナさんはその跡を柔らかな指先でそっとなぞっていた。

「これ見せたっけ?」

そう言って、レイナさんは私にある写真を見せてくれた。それは、広大に広がる向日葵を背景に、サーカスライオンのメンバーが肩を組み合って写っているものだった。皆飛び切りの笑顔で、やはり中央にはレイナさんがいた。

「これは?」

私はそう言って、レイナさんを見た。レイナさんは、向日葵畑を眺めていた。その瞳は、驚くくらいに優しげだった。

「結成当時くらいに、実はここに皆で泊まりに来たんだ。決起集会だなんだ言ったんだけど、本当は5人で遊びたかっただけ。この向日葵のように、皆で上を目指そうって、そうここで誓い合ったんだっけね。随分と陳腐な話だけど」

「そうですか」

「あれから、4年かな。早いものだよね。その間に色々とあって」

語尾は弱くなる。

「できるとは思ってたんだけどねえ」

「……」

「ごめんね。変な話して」

「いえいえ」

私は並一通りの言葉しか返せない。

「知ってたんですか?」

私は漠然と尋ねる。

「まあ、そうだね。詳しく知りたい?」

「……」

レイナさんのその返しに、私は黙り込むしかない。それは、私の幻想をとうとう再起不能にするという宣言に他ならない。

「お願いします」

そう言うと、レイナさんはふっと、自嘲じみた笑みを浮かべた。額に垂れ下がった前髪を面倒そうに一度かき上げて空を眺めた。

「あの二人は、あー見えても倒錯的でね。いつ頃くらいからかわからないけど、メンバーの前で露骨にそういう事を行い始めるのも厭わなくなったの。練習するって言って、部屋を借りたのに、二人は別の意味で汗かいてるなんてこともあったね。私は呆然とするしかなくって、それでもシュウとミワはいかにも平然としてたから、いつしか、私への当てつけってことに気がついたんだけど」

淡々とレイナさんは語った。私は言葉を失った向日葵を噛みちぎれば、平穏を取り戻せるだろうかと、そんな事を思った。

「どうしてそんなことをしたのか考えてね、二人に聞いたんだけど、何も答えてくれなかった。ずっと。今も黙ってる。でもいいんだもう。私に言ったって、ミワもシュウも無意味だってこと知ってるんだろうね」

レイナさんは悲しげにそう言った。私はミワさんの言葉を思い出す。

―みんなそればっかりだ。

あの言葉。私はあれが全てに思えた。みんな好きと答えるのは、出た当初の歌ばかり。そんな自分たちに限界を感じていたのではないか。私はそう考えたが、それは推論の域を出なかった。

「あーこれも言っちゃおうかな。あーどうしよう」

レイナさんはそんな独り言を言っていた。私はその言葉にうまく反応できない。気管に詰まった空気の渦を吐き出すのに精一杯だった。しばらくして、まあ良いか、と干からびた声が聞こえた。

「二人が倒錯的って言ったけど、そのこぼれ話。彼らはちょっとした遊びをするの。私もよく目撃したんだけど、避妊具を男の人がつけるじゃない?それでね、一度果てると、その避妊具をコウタは、レイナの輪っか状のイヤリングに結えつけるの。それが何の儀式であるのか、何の目的であるのかは知らないけど、ともかくそうしてまたおっぱじめるわけ」

「……」

「避妊具の底の方では、ドロドロとした白い液体が澱のように凝固してた。ケイコはそれをさも振り回すのが幸福であると言いたげに、耳朶を赤らめて悶えてた。コウタも彼女の溌剌な肌を見つめるよりも、その避妊具の底に溜まった液体と、赤らんだ耳朶をじっと見つめていた。時折、それの感触を確かめるように二、三度摘んでは、鹿爪顔をして、鼻梁に流れる大粒の汗を手の甲で大雑把に拭ってた。一体それがどんな意味を持つのか、私にはさっぱりだけど、結構痛むのか、ケイコがコウタを宥めて、結局はそれをつけたまま別の体勢に変えるのがオチだったけど」

「……」

「部屋には妙な熱気が集まった。フラスコにいれられたのかって心地だった。とにかく、生物が饐えた臭いが充満した。きっと当人たちは気づかなかったんだろうと思う。きっと、あの避妊具の感触と、耳朶の赤らみが、二人には全てのものだったんだと思う。あるいは、自分たちの息遣いで精一杯だったのかもしれないね」

「も、もう大丈夫です……」

「驚いた?」

「……まあ」

子鹿のような声で答えた。だから、彼女はイヤリングを付けていたのか。あそこに避妊具がぶら下がって、独特の臭気を放って、ぶらぶらと揺れていた……。私はその光景を咀嚼して、変に笑った。

「さっきも言ったけど、これは多分、ミワとシュウが仕組んだんだと思う。私は強情だから、解散なんてしたくなかったの。みんなで一緒にする事を諦めてなかった。だから、二人はその頑固さへの徹底的な反証として、あんな事を仕組んだんだろうと思う」

もしかしたら、あの避妊具をイヤリングに結わえるってのも彼らの思いつきかもしれない、レイナさんはそんな見解も付け足した。

「仲、悪かったんですか?」

私は俯き加減で尋ねた。本来は土塊の香りがするはずなのに、どうにも私の鼻腔には、生臭い臭気ばかりが流入した。

「そういうのでもないのかもしれない」

「?」

「別に、私とメンバーの意思の疎通ができてないだなんてことじゃないの。こうして、旅行に来てるわけだし。ただ、もうみんなでやっていくことはできないって、そういうことを言いたいんだと、私は思う」

レイナさんはそう言って、大欠伸をした。目にはみるみる涙が溜まり、ポタポタと頰を流れ落ちた。それは、先日見た、向日葵を流れる夜露のようであった。

 私と言えば、依然として、レイナさんが言及した現実の意味と格闘していた。避妊具と輪っか状のイヤリングと耳朶の赤らみと。それが、プラプラとクラゲのように宙を揺蕩う姿は容易く想像できた。そして、何よりも、そのイメージは、私の精神衛生に多大な被害を与えた。その思い描くという行為がおそらく不味かった。そんなことはしない方が良かった。映像は現実と妄想を往来し始めた。その狭間で、私はその場の激情だけでなく、周囲の人間の瞳と顔色をもパノラマ的に手に入れた。それが多分、私に大きく打撃を与えのだと、私はそう思った。

「岬ちゃん、ちょっと歩かない?」

レイナさんは唐突にそう言って立ち上がった。私は無言でその後を追った。到着したのは、あの向日葵が荒らされていた場所だった。私は昨日の熱気が蘇る心地だった。

「初日に、コウタが帰って来なかったことを考えてね、すぐに思い当たった。私たち、女三人と、男二人の部屋割りだから、きっと二人で密会できる場所でも探してたんだろうって。それに、あの時の岬ちゃんを見る目。岬ちゃんは気づいたかな?」

私は静かに首肯する。あの時感じた、獣めいた違和感。あれはきっと、その先の出来事まで視界に入れていて、だからあんな眼をしていたのだろう。理性が本能に侵食され始めるように、彼の身体は怠惰にうねっていた。

レイナさんはそれ以上の言及を控えた。そして、徐にその現場へ侵入した。

「ほら、おいで。こんなにも無残に折れてる」

私は罪悪感にも似た感情を認めながら、レイナさんの横に至った。寒風の中、焚き火に燻られる白桃のような香りが立ち込めた。レイナさんは屈んで、一本の向日葵を手に取った。茎は茶色に変色し、辛うじてくっついている花びらはどれも干からびたミミズのようだった。

レイナさんはしばらくそれを眺めた後、付着した土を丹念に払い落として、元の場所へ安らかに置いた。その後、レイナさんはその場で大の字になった。止める暇も見出せなかった。

「綺麗なもんだよ」

私はその言葉に感化されるように、レイナさんの隣に屈みこんで、そっと空を見上げた。

「この景色を二人は見てたんだろうね」

「ええ」

「どう見えたと思う?」

その質問は私をギョッとさせた。私も考えていたことだった。

「私は多分、綺麗だと思ってたに違いないって、そう思う」

本人に聞いたわけじゃないんだけどね、レイナさんはそうとも付け加えた。地面にグリグリと髪の毛を押し付けていた。

「どうしてそう思うんですか?」

「勘かな」

「勘ですか?」

「うん。岬ちゃんはどう思う?」

「私は、……多分、何も考えてなかったんじゃないかって、そう思います」

私は明瞭に、昨日の音声を回復する。今思えば、あれは最早文明とはかけ離れた、部族的響きを保持していた。脳に溢れる何らかのホルモンの刺激を悦楽しているとしか感じられなかった。それが今は猛烈に苦々しい。

「そっかそっか」

レイナさんは優しくそう言った。しばらく、二人で夜空を眺めた。

「岬ちゃんは、この合宿楽しかったかな?」

レイナさんがふとそんなことを尋ねた。レイナさんは、悪戯小僧のような、童心を揺曳させた表情をしていた。

「どうでしょう」

私ははぐらかした。

「私はね、半分楽しかったよ。岬ちゃんに会えたから」

そう言って、レイナさんは上半身をゆっくりと擡げた。後頭部や背中に付着した土を無造作に取り払った。

「私たちを好きって言ってくれたこと、特にね、私たちを好きになった理由、あれが私には嬉しかった。実感がこもってて」

「それは……良かったです」

「だからなのかな、ちょっと割り切れて来た部分もあるの」

「?」

「この向日葵の下には何が眠っていると思う?」

「……?」

脈絡のない話に私はついていけない。ただ、レイナさんの満足そうな微笑だけが頼りだった。これでまでに見せていた自責の端緒が見られなかった。瞳には、眼前の光景をしかりと映し出しているように見えた。頰に女性的な丸みを響かせながら、微かに口角をあげた微笑。きっとそれは、自然的なものだろうと私は思った。

「向日葵が眠ってるの」

「向日葵が?」

「うん。女将さんの話だと、数百年来、ここは向日葵畑なんだって」

バンバンと、レイナさんは表土を叩く。土埃が僅かに舞って、私の膝にもその飛沫が飛んで来た。その感触はとてもひんやりしていた。

「寿命を迎えた向日葵がまた来夏の炎帝を夢見て、その花を萎れさせながら、種子を地面に落とす。それが毎年毎年、こうやって花咲かせている。それが幾重にも幾重にも積み重なって、この土は形成されている」

「……」

「ごめんね。変な話で。ただ、そう思うと、変わらないんだなって思って。どうせ、みんな死ぬから。ここに萎れてる向日葵だって、結局、他の向日葵より先に寿命が来ただけだから」

「……」

「来年にはまた、そんな出来事が全くなかったように、黄色の花びらを携えて、太陽の方に伸びてるんだろうなあって思って」

何百年前からずっと変わらずに、レイナさんは独白するようにそう呟くと、また尻餅を着くような音を立てて寝転がった。

「ほら、岬ちゃんも」

そう言って、促される。私も少し夢見心地で、レイナさんに倣った。

「星ってこんなにあるんだね」

「そうですね」

「私、随分とこんな夜空は拝んだことなかったかもしれない」

「私もです」

「だったら、良かったんだろうね」

「?」

「ここに来たことが」

「そうかもしれませんね」

しばらく夜空を眺めた。夜空が回転した。緩慢な鼻呼吸で、胸部が僅かに上下した。衣服がそれに伴って、浮き上がる。ちらりとレイナさんを伺ったが、死者のように穏やかだった。

「こうしてると、昔のこととか私は考えてしまうんだよね」

「昔のこと?」

「うん。それも、うんと昔の。全然知らない人たちのこと」

そう言って、レイナさんは、大きく息を吸う。月明かりが、突き出された唇の桃色を艶やかに映し出した。

「小学生の頃、理科の授業で言われなかった?地動説と天動説」

「ガリレオの奴ですよね」

「そうそう。異端審査会的なのに掛けられて、それでも地球は回っているとかなんとか言った奴」

「それが?」

「あれが提唱されたのっていつ頃なんだろう?」

「どうでしょう。何百年と前じゃないですか?」

「まあ、いつでもいいや。すんごい昔だよね?少なくとも、私は生まれてない」

「それは、そうでしょうね」

私のその言葉にレイナさんは、私今バカみたいな事言ったね、と笑っていた。

「うん。ともかく、そのことを考えさせられるというか」

「?」

「岬ちゃんは、地球は回ってると思う?」

「習いましたからね」

一般真理を否定できるほど、私は神話じみてはいない。

「そうだよね。そりゃそうだ」

レイナさんはそう言って、深い溜息を吐く。隆起した胸が沈み込むのを、私は罰悪く眺めて、すぐに空へと視線を擡げた。衣服にも月明かりが当たるから、それはレイナさんの体つきを妙に強調させていた。

「私は、昔の人が、地球じゃなく、天が動いているんだって思った理由が、すごいわかる」

「確かに、見たままを言えば、天は回っていると考えるのが妥当ですよね」

「実際は、私たちの方が回ってる」

「ええ」

「でもね、もしも、変な衛生写真とか、宇宙の概略を語られなかったら、地球が動いているって説を信じれると思う?」

「……難しいかもしれませんね」

「私も同じ。事実と信念って相性が悪い。それに、信念には、ある種、理想論的な、空想も入っているように私は思うんだ」

「空想?」

「そう。見たいものを見るという、都合の良い解釈。ジンクスと言っても良いのかもしれない」

これをしたらうまく行くみたいな迷信の類ね、レイナさんは静かにそう補足した。

「それ……かもしれません」

私は曖昧に肯定した。確かに、私が向日葵荒らしの犯人を積極的に探さなかったのは、良からぬものが見えてきそうだという不安も一端にあったからだった。

「どっちが幸せだと思う?」

レイナさんが質問する。

「どっちとは?」

「信念を守るか。真理に従うか」

レイナさんが顔だけこちらに向けた。右の頰が地面に擦り付けられるような具合だったが、それを気にも留めない表情をしていた。私はそれを視界の端に捉えるだけに留めて、眼前を占領する夜空から質問に対する答えを探した。

 夜空が回っているのか、はたまた私たちが回っているのか。私は星々が瞬くその景色を見つめて、全てどうでもよく思った。どうなろうが、今私の目の前に広がる景色が壮麗であることに変わりはない。夜空が回っていようが、地球が回っていようが、その気持ちだけは変わることはないだろう。それに、例え事実に反して、夜空が回っていると考えても、一体何か問題があるだろうか。科学的、理性的、学術的反論には耐えられないが、個人で信ずる分には、それを犯す権利は他者には与えられないはずだろう。

「そんな質問から離れられた時、それが一番幸福なんじゃないでしょうか」

だから、私はそんな言葉を返した。議論を放棄した投げやりなものだった。

「それもそうだ」

レイナさんは優しくそんな相槌を打った。そこでレイナさんは顔を元に戻した。服の擦れる音が、よく聞こえた。瞼を重そうにして、空を見上げていた。

「多分だけど、天動説から地動説へと移行する過渡期にね、きっと俺は絶対地球が動いているなんて信じない!って強情な人がいたと思うんだ」

「幾らかはいたでしょうね」

「その人たちは、どんな気持ちだったと思う?」

「信念を否定された人たちの気持ちですか?」

「うん。どうなんだろう」

私はしばし黙った後、

「私たちとそう変わらないんじゃないですか」

と言った。レイナさんは、驚いたように私へ目を向けたが、すぐに安堵したような笑みへと遷移した。

 私は多分、全く普段と変わらない顔をしていたと思う。先の言葉は、腹の底から出た本音だった。 

 信念は、個人に依拠する。個人それぞれに信じられる、不定形な根拠に由来する。他者には理解され得ない経験や主観が基盤になる。それは決して、客観的な正論では排斥されない。いや、むしろ、強烈な抵抗を伴う。

「天動説を信じていた人は多分、地動説が真実だとかそんな話はしてなかったんじゃないかなって、私はそう思います」

「どうして?」

「地球を中心に太陽がぐるぐる回って、夜には月やら星が上って、それもまたぐるぐる回って、まるで円状の巻物を見ているかのような、そんな心地が、彼らにとっては具合が良かったんじゃありませんか?」

「天動説には夢があって、地動説には夢がないってこと?」

「平たく言えば」

私は大きく息を吐いた。風に揺れて視界を阻害する前髪を乱雑に払い除けた。

「難しいよね。そういう信念を持ち続けるのは」

「そうだと思います」

「正論は口うるさいからね。カラスの鳴き声みたいだ」

レイナさんは珍しく怒気混じりにそんなことを口走った。

「私たちのグループね、そこそこ前から、解散は秒読みだって、そう言われてたの。メンバーの友達とか、芸能関係の記者とかが、あることないこと言ったり書いたりするんだよね。知ってた?」

「全然知りませんでした。疎くて」

「そっかそっか。ならいいんだ」

レイナさんはそう言って、目を2、3度ぱちくりとさせた。その後、手についた土をパンパンと払って、額に手の甲を当てて見せた。

「私はね、ずっと思ってたの。まだやれる。まだやれるって。でもね、周りは誰も言わなかった。まだ私たちがやれるってことを。コケシみたいな顔をして、みんな口を揃えて、もう終わりだって、そう言ってた」

「そうだったんですか」

「うん。それは、メンバーも一緒。とっくの前に、散り散りバラバラ。直接は言わないんだけど、形だけは成立してた。私だけはできると思ってた。……いや違うね」

そこでレイナさんは言葉を区切った。小さく首を横に振っていた。

「今でもできると思ってるんだ。色々とわかり切ったような口を聞いても。これって傲慢かな?私はやっぱり未練あるんだよね。最高のメンバーだと思うし、もう一回一致団結できるって、今でもそう思ってるんだよ」

レイナさんはそう言って、懐から先の写真を取り出した。暗がりでも、その写真の向日葵の輝きと笑顔はよく見えた。それを見つめるレイナさんの目つきは、魔法で固められたように動かなかった。瞳孔には、写真の黒だけを映し出していた。

「岬ちゃんはどう思う?」

レイナさんはそう言いながら、起き上がった。良い景色だった、と呟いた。私もそれに従うように起き上がった。地面が私の背中についてきた思えるくらい、背中はまだひんやりした。

「レイナさんがどう思うかじゃないですか?」

「どういうこと?」

私は髪の毛や服に付いた土を払いながら、周囲を見回した。一面、向日葵が咲き誇っている。私はそこで思い出しかけた小説を思い出した。梶井基次郎だ。桜の木の下には死体が埋まっているとか、そんなタイトルだった。あれだけ綺麗な花を咲かせるのだから、きっと死者の血液でも啜っているに違いないという具合の話だ。

 私はそこでなんとなく、レイナさんはこの地に夢を見に来たんじゃないかと思った。

「レイナさんは、もしかして、天動説派なんじゃないですか?」

だから、私はそんなことを尋ねてみる。

「正解」

物悲しい笑みを浮かべた。月明かりに、レイナさんの腕の血管が透き通って見えた。古色蒼然とした蒼色が、向日葵の茎のように掌まで一本線で結ばれていた。マニキュアも何も塗られていない親指の爪には、土塊の残骸がまだ詰まっていた。

 私は大きく息を吸い込んだ。私はサーカスライオンのファンであったことを思い出しながら、こう言った。

「ここで、ケイコさんとコウタさんは何してたんでしょうね」

「……」

「私は、昨日夜中ここにやって来ました。そしたら、聞こえました。甘ったるい女性の声と、荒い息遣いと、砧を打つような音を。松虫が涼やかに鳴いていましたけど、その心地良さを取っ払うくらいには、鼓膜によく響く声と音でした」

ケイコさんの嬌声が地縛霊のように地中から聞こえた。熱気も押し寄せる。それは、私の気分を酷く害するものだった。押し隠されていた感情の一端を私は犀利に見つけ出す。

 彼らが性行為をこの場でしていたという事実。それは、案外私に大きな翳りを加えていたらしいことをその時理解した。ドロドロとした感情の波が、一過性的に私を支配した。癇癪を起こすように、私の思考は鈍化する。頭に血が上って溢血したようだった。向日葵全てをへし折ってやりたくなった。

「これはあくまで私の意見です。あくまで私に意見ですが……」

私はそこでちらっとレイナさんを見た。レイナさんは、私の方を見ていなかった。空を見上げていた。そして、ハラハラと涙を流していた。先ほどの欠伸によるものではなく、何かを悟ったような、そんな涙だった。

「何?」

レイナさんが私の言葉の続きを促した。瞳はもう砂漠のように乾いていた。頰を伝った涙の跡だけが、月明かりに照らされていた。

「あ、いや、なんでもないです」

私はそこで、言葉を失った。レイナさんの涙が意味したものを私は明瞭には知覚し得ない。ただ、私が奪うべきものではないということは朧げに理解された。彼女なりにずっと何かを守ってきたのだろうと、私はそう思った。

 私はそこで初めて、自分が何を言おうとしていたのかについて、考える余裕を認めた。私は失笑する。その言葉は、怒りに任せた、酷く暴力的な言葉だった。口腔と唇が急速に乾くことを感じながら、その言葉について私は反芻していた。

「ともかく、向日葵畑を勝手に荒らして、未開人みたいにセックスに明け暮れてる二人がメンバーにいる限り、私はもう何しようとも終わりだと思いますけどね」

 ……。

 ……。

 ……。

「そうだ。岬ちゃん、初日に私が言ったこと覚えてる?」

帰り道、レイナさんがそんなことを言った。

「なんでしたっけ?」

「私にしてほしいこととかないかなって話」

「ああ。ありましたね、そう言えば」

私は懐かしむようにそう言った。あの時目を輝かせていたことを思い出す。今はもう、ナマケモノように瞼を垂れ下げるしかない。

「願わくば、この合宿中の記憶を抹消してもらいたいところなんですが……」

その言葉に、レイナさんは痛ましそうに目を細める。

「それ以外で頼めると嬉しいかな」

「それなら……」

私は手を顎に当てて、考える。何を思っても、寒々しい諦観に襲われた。そんな私を、レイナさんは、初日と変わらない、いや初日よりも、優しげな表情で、横並びで見つめていた。

「こんなものもいらないね」

レイナさんは入り口まで辿り着くと、弱々しく貼られたテープを引きちぎってしまった。粘着力もないようで、それはあっさりレイナさんのズボンのポケットに収まった。

「一つあるとすれば」

私は思いついたようにそう言った。

「うん」

「変な話ですけど良いですか?」

「うん。良いよ」

「それなら、炭酸ジュース奢ってくれませんか?」

そう言って、もう一度来た道を引き返すことを提案した。レイナさんは早く言ってくれと嘆いたが、承諾してくれた。

 自販機へはすぐ着いた。

「こんなところに自販機があったとはねえ。とは言え、品揃えは意味不明だ」

レイナさんが感心したようにそう言った。私は興味本位でこんなことを口にした。

「1000円札、入れてみませんか?」

「1000円札?まあ、良いけど、どうして?」

「これです」

私はそう言って、1000円札お断りの看板を指差す。

「私を生贄にってこと?岬ちゃんも随分遠慮がなくなったね」

「あ、嫌なら嫌で全然構わないんですが」

変に夜中の時間を腹割って過ごしたせいか、私の態度は明らかに大きくなっていた。私は強烈に恥ずかしくなった。

「別に怒ってないって。むしろ嬉しい」

「そうですか?」

「うん」

レイナさんは笑ってそう答えた。

「はい、1000円。どう転ぶか見ものだね」

そう言って、レイナさんは優しく笑っていた。私も、そうですね、と笑った。

 恐る恐る、私は投入口に1000円札の先端を当てがおうとしたが、夜風がその先っぽを揺らすものだから、うまく読み取ってくれない。私が代わりにやろうか、とレイナさんに呆れた声で言われ、結局一任した。すぐに1000円札は認識されて、機械的な音を伴って、自販機の中へ消えた。

「どうだろう?」

「どうでしょうね」

二人して、先行きを見守った。しばらくして、ウインウインと、極めて耳に悪い音が向日葵畑に響いた。

「えちょっと何これ」

次の瞬間、次から次へと自販機からペットボトルやらジュースがぼとんぼとんと落ちてきて、取り出し口を覆ってしまった。

「ウィンウィンウィンウィン」

どこについていたのか、警音器が鳴り響いた。暗がりの中、自販機は赤色の蛍光灯を乱雑に明滅させた。

「こらあああああああああああああああああああああああ」

遠くの方で声がした。それが師範であることを理解するのに時間はかからなかった。

「とりあえず、適当に取って逃げよう!」

レイナさんにそう言われて、私たちは取り出し口から適当に飲み物を取り出して、脱兎のように逃げ出した。

「あははははははははは。まさか1000円さつを入れたらエラーが起こるなんて。あははははははははは」

レイナさんが笑ってそう言った。私はついていくだけでやっとだった。

「あー気持ちいいいね走るのって」

レイナさんが走りながら両手を広げた。両脇では向日葵が揺れていた。それは夏の終わりをほのめかせているようだった。私たちはなんとか逃げ果せた。女将さんが心配そうな顔で私たちに駆け寄ったが、私たちはただひたすら笑うだけだった。

 私たちが手に取ったのは、偶然にもどちらも炭酸ジュースだった。祝杯のように二人で蓋を捻ったが、噴水のように中身が溢れ出して、手をベトベトにしてしまった。

「あははははははははははははははははははははははははは」

「あははははははははははははははははははははははははは」

二人で笑い合った。何事かと色んな人がやって来たが、構わなかった。手に流れた炭酸は少しだけ泥の味がした。

……。

……。

……

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