第8話

 敵の電波妨害が激しいとかで、今回は降下フェーズからのスタートとなった。

 各機、グライダーを装備した状態で、輸送機から飛び立っていく。

 高い所は、得意な方ではない。だから降下は出来る限り避けたい。

『次、7号機』

 こちらの気持ちなどお構いなしに、射出機構が自動でわたしの機体を空中へ放り出す。尤も、グライダーの展開から姿勢の安定まで、全て自動で行なわれるから、わたしが特別頑張らなければならないこともないのだけど。唯一気を付けるべきは、錐揉み落下中の目眩ぐらいだ。

『皆さん、聞いて下さい』

 雑音混じりの、チーフの声が聞こえる。

『ブリーフィングの場では話せませんでしたが、今朝のニュースを見た人は多いかもしれません』

 誰かが何か言ったけど、ノイズが返答を掻き消してしまう。

 灰色の雲を抜けると、機体は今日の戦場である市街地へと降下していく。世界中、どこにでもあるような、戦場になった都市の街並み。どの建物も漏れなく崩れかかっているか、既に瓦礫の山と化している。

『世間が何と言おうと、わたしたちはわたしたちの任務を遂行するまでです。どうか、そのことは忘れないで下さい。自分自身に、胸を張って下さい』

『はい』

『はい』

『はい』

『はい』

『はい』

 はい。わたしも呟いたけど、丁度通信が一旦途切れた。

 視界の隅で、何かが光る。

 アイ・ウェアが爆ぜたのだ。バラバラの火の玉となった残骸が、「降下」ではなく「落下」していく。

 地上から、高速で飛んでくるものがある。

 対空砲火。

 ブリーフィングの情報にはなかった攻撃だ。

 途切れていた通信が、回復してはまた途切れる。繋がる度、味方の混乱が伝わってくる。 誰もが狼狽えている。

『皆さん、落ち着いて!』

 チーフもまた、例外ではない。冷静さを保とうとしているのがわかる。

 こんな日に限って――。わたしなら、そう思うに違いない。今日は、少なくとも今日だけは、作戦を失敗するわけにはいかない。してはいけない。なのに、今日に限って――

 右前方を降下していた味方が頭を撃ち抜かれた。続けて右肩、左の膝、胴と砕かれる。5号機のタグが消える。殆どノイズにまみれた謝罪を残し、その機体は爆散した。破片と化したグライダーの羽が木の葉のように舞い上がっていく。

 左の肩に、打たれたような衝撃が走った。座禅を組んでいる時に叩かれる、あの感じ。

 視界に機体損傷の表示が出る。アンテナをやられたらしい。

『各機、散開! なるべくばらけて降下して下さ――』

 チーフの声はノイズの向こうに掻き消えた。

 着陸ももちろん、コンピュータ制御で行なわれる。わたしは瓦礫の上に降り立った。

 一体、何機が降下に成功したかはわからない。

 レーダーも通信も使用不能になっている。生きているのは、精神癒着の危険を示すカウントダウンを初めとした、機体に備わったスタンドアロンの機能のみ。尤も、カウントダウンが見られるからといって、無事にログアウト出来る保証もないのだけれど。

 取り敢えず、歩き出す。当初の目的地がどちらかもわからないので、空が明るくなっている方を目指す。

 暗中模索。

 五里霧中。

 瓦礫の中を、歩く、歩く。

 歩く。

 ターゲットサイトが反応を示す。崩れた建物の壁に寄っていき、ロックオンする。

 またアイ・ウェアの残骸だろうか。

 けど、カーソルは左右に揺れている。

 ターゲットが移動しているのだ。

 形を留めた窓枠の向こうを何かが横切った。カーソルはそれを追い、視界の端へと滑っていく。

 わたしも追う。散乱する瓦礫を踏み砕きながら、誰かの家だったらしき廃墟を進む。

 戸口のような四角い穴に、飛び出してくるものがあった。

 人影――小さな。

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