第9話 ボギンスの指揮所活動

 カインは勇者を探し求めた。勇者を殺すために…アイリが望んだことを叶えるために。

 アイリはカインを求めた。自分の思い通りに動くカインを……そして、カインはそれに応えた。

 アイリにはカインを孤児院に連れて来る前から目的があった。自分が愛した男の望みを叶えるという目的が……


 「あとは、私がいなくなるだけね…」


 

 ボギンスは、また悩んでいた。

 今まで、まっすぐに進んでいた勇者が、進行方向を変えた可能性がでてきた。これまでは、進路上の幅30km以内の主要都市や村を襲っていたが、120km以上離れた場所で勇者の痕跡が出てきたのだ。その襲われた都市の名前は「デレス」、孤児院の火災を皮切りにデレスはに消された。


 この報告の後、3日間は荒れに荒れた。指揮所には、民間団体や個人や部内から問い合わせが多数あり、部下達が対応に追われていた。避難自体が間違いではないかと言う話もボギンスの所まで聞こえてきていた。この三日間は、BOSSとして対応しているところを見せるために前倒しに指揮所を立ち上げ、ボギンス自身も泊まり込みで勇者対応の必要性を示し続けた。一部の住民が避難を止めて戻ってきたりもしたが、大きな騒動になる前に騒動はおさまった。


 おさまった理由は単純だった。勇者がもとの進路に戻ったことが確認されたのだ。ボギンスは「ほっ」としたが、現実は勇者という圧倒的な脅威がまたことちらに向かっているという厳しい状況である。


 ボギンスは、指揮所での「全般勇者対処作戦会議」で全幕僚、指揮官を集めて語った。

 

 「勇者は来る!そして、このダンジョンが魔王国としての最終防衛ラインだ!全員もう一度認識しろ!このダンジョンで勇者を止めなければ、魔王城に直接踏み込まれる。それは、魔王国の崩壊を意味する。ここには、他のダンジョンからの応援や支援、魔王様からの直接近衛部隊も迎えた。この戦力は、魔王国最大規模である。

 絶対に勝つ!

 今回の任務は簡単だ!勇者を行動不能にするだけだ!

 もう一度言う!勇者を行動不能にすればいいだけなのだ!武力!謀略!何を使ってでも止めるのだ!

 その方策を今から作戦として説明させる。よく聞いて、不明な点があれば確実に確認して任務を邁進してくれ。以上だ」


 「軍事幕僚長のアスラムが、作戦を説明します」


 アスラムは、現在の状況から敵である勇者について敵が行うであろう行動について見積もりを説明した。

 その後、プランA〜Dまでの作戦について説明したが、プランCの人族との共同戦線についてだけは、ボギンスが直接説明を行い、長引く説明を引き締めた。


 最後に、ボギンスはプランCについて魔王様からの直接の指示を具体化した内容だと語り、魔王様の指針も合わせて説明した。


 会議後、ボギンスは家族への手紙を書きながら呟いた。


 「守りたい者…みんなもいるんだよな…」




 勇者は、眺める地図がまっすぐ進むべき道を示し切ったことを確認し、地図を燃やした。そして、少しだけ表情を緩めた。


 勇者のそのわずかな変化にテトだけが気づいた。だけど、何もできなかった。


 勇者はいつも一人だ。勇者に仲間はいらない。勇者に必要なものは守りたいひとだけ…

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