第23話 アフターデート
理乃の件が終わってからは特に大きな問題が発生することも無く、穏便に時間が過ぎていった。
強いて言えば、理乃がどの高校に通っているのかという質問をされたことだが……それも理乃のアドリブ力と演技力で上手く誤魔化したので問題ナシ。いやマジ理乃さん尊敬しますわ。演技もそうだけど、咄嗟に嘘つけるその才能ね。才能って言っていいのか知らんが。
まあとにかく、無事に理乃と友人の邂逅を終えることが出来たのだから、良かったのだろう。色々秘密にしている事があるのが心苦しいが……立場上しょうがないよな。いつか笑い話として話せることを願うばかりだ。
談笑を終えた俺達は、誰からともなくグループラインを作ろうという話となり、俺は人生初のグループライン作成をした。初めてですよ初めて――これ自分で言ってて寂しくなるな。やめよ。
というか、考えてみると涼太と千春は期せずしてトップアイドルである理乃のラインを入手したんだな。なんというか……自分だけの特権が奪われちまうみたいで残念だ。理乃に友人が増えるのはいいことだが。
「……それで、どうだった?」
涼太達と別れ、二人に戻ってから帰り道を歩きながら俺は理乃に聞いた。
「どうだったって?」
「今日のデート全体もそうだし、涼太と千春の二人についても。……ほら、芸能界だとどうしても理乃の年上ばかりが周りに居るだろ?」
「あー、そゆことね」
理乃は少し考える仕草をし始めた。
「その……なんというか、あの二人が悪い人ではないっていうのもわかってるし、一緒に居て楽しかったからちゃんとした『お友達』になれたらいいなって思ってはいるんだけど……でも、嘘をつきながら一緒にいるっていうのもあんまりだし、なによりも、もし私がアイドルってバレた時に色んな人に迷惑かけるって考えると……ちょっとね」
「……なるほどな」
確かに、もしも理乃の正体がバレてしまったとしたら、事務所は当然のこと、あの二人にだって何かしらの影響を及ぼしてしまう可能性が高い、芸能界というところは、何が火種になってしまうか分からないからな。
折角仲良く出来そうな存在が見つかっても、本当に仲良く出来るとは限らない。理乃がアイドルという立場にいる限り。
もしかしたら、あの二人と会わない方が良かったんじゃないか……?
「――だけど、雅宣には感謝してるよ? 二人と会わせてくれたこと」
すると、理乃が俺の心の中を読んだかと思うような言葉を発した。
「どうせ雅宣のことだから、私のためを思って『会わせないほうが理乃も気が楽だったんじゃないか』って考えてるんでしょ?」
「…………」
図星、だ。
何で理乃はこう、俺の心の中を読むことができるんだよ……俺には無理だわそんな芸当。
「確かに会わない方が気が楽だったかもしれないよ? だけどさ、会わなかったらさっきまで感じてた楽しさも失うってことじゃん。私としては、そっちの方がやだな」
そして理乃は俺の横から一歩分前に進んでから、くるりと回って俺の方を向いた。
「――今日のデート、楽しかったよっ! これでまた、しばらくの間頑張れそう」
そう言いながら、理乃は最高級の――まさに世界一と言っても過言ではない、飛びっきりの笑顔を見せた。
「ありがとう、雅宣っ!」
……どうしよう。
心臓の鼓動が、これまでになく早まっている。
全身が熱を帯びて、熱い。
今にも胸が張り裂けそうなほど苦しくて――愛おしさが身体の芯から込み上げてくる。
……なんだ、この感情は。
正体を知りたいと思っても、名前を付けたら消え去ってしまいそうな儚さを持ち。
それでもって、本能的にこの感情は大切にしたいと思っている。
この得体の知れない感情が毒なのか、そうでは無いのか。それすらも分からないが……
きっと、これから先に理解できる機会がある。なんの根拠も無しに俺はそう思った。
気付けば俺は、理乃に背を向けながら顔に手を当てていた。
「何〜雅宣。照れちゃってんの?」
「……んなわけあるかっ!」
顔の火照りも収まらない。
ほんとに、なんなんだよこれはっ……!
俺は理乃から顔を隠しながら、一人で悶えるのであった。
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