第22話 放課後のカフェにて③

 涼太と千春の痴話喧嘩(?)を落ち着かせた後、俺達は雑談に花を咲かせていた。


「――へぇ。告白は雅宣の方からだったんだなぁ」


 雑談といっても基本はお互いの馴れ初めについてだったり、そういう内容ばかりだ。


 ちなみに、涼太達の付き合った経緯は「なんとなくそんな雰囲気になったから」だそうだ。意味わからん。やっぱ根っからの陽キャは違うな。


「ニヤニヤ顔やめろウザい」

「なんて言って告白したんだ?」

「無視すんなよ」


 本っ当にウザいニヤニヤ顔をしながら聞いてくる涼太を一度キッと睨めつける。いつか絶対黒歴史を暴いて立場逆転してやる。千春に聞けばもしかしたら教えてくれるかもしれないな。後でこっそり聞いとこ。


「……別に、普通だよ。『俺と恋人になってくれ』みたいな」

「うっわ聞いてるこっちが恥ずかしい」

「今この瞬間、お前を『いつか絶対に殺すリスト』に入れること決めたわ」

「俺の他には?」

「居るわけないだろ」

「マジか。……だからといって、イジるのはやめらんねぇんだよな。俺の性分というかなんというか」

「墓の中に入れば治るか?」

「ちょ、ナイフ持つな怖いから」


 そんなやり取りをする俺達を、女子二人は横で呆れながら見ていた。


「……ほんと、男子ってくだらないことですぐ言い争いになるわよね」

「あはは〜、まあ、きっと私達には分からない感情とかあるんじゃない? 男子が私達女子の女心をわかってくれないのと同じように。……ほら雅宣〜どうどう」


 理乃に涼太に対して向けていたナイフを持った腕を押さえられた為、大人しく涼太を殺るのを諦める。今は理乃に免じて許すが、次はないと思えよ。


 にしても……理乃めっちゃ打ち解けてるな。

 最初の方は同世代の人と関わることが平均より低いが為に緊張していた様子だったんだが……これは、流石トップアイドルと言うべきなんだろうか? それとも千春が凄いのか……なんにせよ、普通に会話できるようになったのなら何よりだ。


 そうして、やっとまともな雑談のできる雰囲気となってきた気がするが……そこに、涼太が大きめの爆弾を投下した。



「――にしてもよぉ、何となくだが……飛坂さん、シャスの日坂理音ちゃんに似てるよな」



「「ぎくっ!」」


 ま、まさか……バレたか!?


 シャスというのは、理乃が所属している五人組アイドルグループ、shining☆starsの略称である。


 今の理乃の格好は一応は眼鏡や普段と違うメイクによって別人のように見せてはいるが……至近距離で見れば全然バレてもおかしくない。街中で目立たない程度の変装なのだから、わかる人にはわかってしまうだろう。


 ど、どうするか……!


 この件については誤魔化しにくい。

 もし「メガネ取ってみて」とでも言われようもんなら、確実にバレる。


 ……となると、事実をバラすか……?


 ……いや、それも危ない。

 涼太と千春のことを信じていない訳では無いが、ポロッと漏れてしまうことだって絶対に無いとは言いきれないし、それよりも俺達の会話を偶然聞いてしまう人がいるかもしれない。店内とはいえ、ここはあくまで公共の場と言っても過言ではないからな。


 俺が必死に頭を回転させ、この状況の打開策を考えていると、不意に理乃が口を開いた。


「――に、似てますか?」

「ん? ああ、素人目だけど、似てると思うぞ」

「……やたっ!」


 小さく片手でガッツポーズをする理乃。

 ……え、理乃さん何やってんすか。ちょっと俺には理解できないんだけど。


 俺含めた三人が「何言ってんのこいつ」という目で理乃を見ると、慌てた様子で左右に首を振った。


「いやっ、その……前に雅宣に似たようなことを言われて、自分なんかがあんな凄い完璧な人と似ているだなんておこがましいとは思いつつも、身長や体型も似ているっぽいから自分なんかでもちょっとは憧れの人みたいに可愛く、綺麗になれるかなって思ってメイク頑張ったりしてみたから……似てるって言われて嬉しくて」


 ……な、なるほど……その手があったのか。


 これならいくら似ているって言われたとしても、「頑張ったから」の一言で決着が着く。天才かよ理乃。

 しかも、トップアイドルということでドラマにも多く出演していたからなのか、演技も一流。本当に日坂理音に憧れている人そのものだ。


 ……にしても、アイツ謙遜してるフリして実際は自分のことを褒めまくってるだけなんだよな。傍から見れば完全にナルシスト。なんだよ完璧な人って。完璧(笑)がお似合いだろお前には。家では全然完璧な雰囲気じゃねぇぞ?


 とはいえ、ここはもう少し信憑性を増すことの出来るよう、適当に付け加えとくか。……それと、ちょっとした弁明もさせてもらうとするか。


「……まあ、そういうことだ。だから前に俺のスマホのフォルダの中に日坂理音の写真がいっぱいあったのも、理乃が参考にするために撮ったやつだ」


 全てを知っていた風に装う俺。

 いつしかの弁明ってのはずっと前に涼太にスマホを奪われ俺の女装の黒歴史がバレた時に同時にバレたやつのだ。勿論嘘だが。


「ふーん、そうだったのか。……つか、お前めっちゃ根に持つな」

「安心しろ。お前に対してだけだ」

「え、何その特別扱い。まさか、お前俺に惚れてんのか?」

「……お前の頭の中腐ってんな」


 なんで俺が同性愛者になってんだよ。俺はそもそも異性に対してすらなんとも思ってねぇのによ。変に薔薇の香りを匂わせるな。


 ……つか、理乃。引かないで……?

 確かに幼馴染の写真何枚もスマホのフォルダの中入れて持ち歩いてるのはヤバいけど……しょうがないじゃん。幼馴染がテレビに出るのってなんというか、嬉しかったり感慨深い感じするじゃん。

 だから、嫌そうな顔して「キモッ」とか言わないで? 確かにキモいとは自分でも思うけどさぁ……。


 どんどんと混沌化し始めたこの雰囲気を察してか、千春が注意をしてくれた。


「……二人とも、またうるさくなり始めてるわよ。ここは店内なのだから、もう少し静かにしなさい」

「「はい……」」


 さっきは俺が注意する立場だったが、今度は俺と千春の立場が変わったな。

 そして涼太。お前は固定かよ……。




 ☆あとがき

 久しぶりです。

 四ヶ月もの間待たせてしまって申し訳ないです。

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