第21話 放課後のカフェにて②

「あ、涼太。こっちこっち」


 それからしばらく経ち、俺達は昼ご飯?を食べた喫茶店で涼太たちを待っていた。


 俺達が着いた時間の三十分後くらいに涼太と千春がやって来たので、入り口で俺達を探しているのであろう二人に向かって、見えるように大きく手を振った。


 それに気づいた二人は、店員さんに何かを言って(多分待ち合わせです的なこと)、こちらにやって来た。


「……雅宣、お前本当に風邪ひいてたのか?」

「あー……うん、まあ、一応……」


 ……確かに、こんな元気なんだったらそりゃ疑うか。気を付けよう……って言っても、どうしようもないんだが。


「初めまして、雅宣君の……友人? の小杉千春よ。これは、自称雅宣君の親友の秋津涼太。一応私の彼氏よ」

「おいおい、一応ってなんだよ」

「なんでもいいでしょう? 器の小さい男は嫌われるわよ」

「お前ら、公共の場で喧嘩は止めろよな……」


 現れるや否やすぐに喧嘩を始めそうな雰囲気になった二人を落ち着かせる。

 ……これは、喧嘩するほど仲が良いってことでいいのか? 付き合ってはいるし……そういうことなんだろう、うん。


「ああ、すまん。……千春に既に紹介されちまったが、秋津涼太だ。よろしくな」

「よ、よろしくお願いします……」


 涼太が挨拶代わりに握手を求めるように右手を出した。

 その手をいかにも緊張していますといったおもむきで、理乃はおずおずとその手を取った。……理乃が異性と握手とはいえど手を握ってるのを見ると、なんかムズムズしたものがあるな。


 そんな正体不明な思いを抱きながらも、俺は緊張でカチコチに固まってる理乃に、肘で軽く小突いて自己紹介を促す。


「あっ……えーっと、雅宣の、か、彼女の、飛坂理乃ですっ」


 言い淀んでいる部分があるのは、恐らく俺達が偽の関係だからだろう。

 改めて、嘘をつかせることにしてしまったことが申し訳なくなってくるな。


 理乃が自己紹介を終えれば、涼太は指をクイクイとして俺を呼んだ。


「……んだよ」

「なあ雅宣。お前の彼女、めっちゃ可愛いな」


 何かと思って涼太のすぐ近くまで行ってやれば、突然そんなことを言い出した。


 おいおいそんなこと言ったら……。


 その瞬間、ゴツンという音とともに涼太の顔の位置が一つの拳によってずれた。

 

「このクソ男は何を言っているのかしらね……」


 涼太は椅子に座り込んで、瀕死状態となっている。まあ、自業自得だな。


 そして涼太をこんな風にした張本人は、まるでゴミを見るような目で涼太のことを見ていた。まあ、自業自得だもんな。


 千春はペシペシと涼太の頬を叩き、目を覚まさせている。


「……はっ、ここは」

「一回死んで来たら?」

「このストレートな罵倒……もしかして千春⁉」

「そうよ。バカな貴方の彼女の千春よ」

「くっ……ここは地獄だったか……」

「もう一発行っとく?」


 そんな恐ろしい会話を繰り広げている二人を横目に、俺はここが喫茶店であることを思い出し、ふと周りを見る。


 店内には昼に来た時と同じような客層で、こちらのことを鬱陶しそうに見る人もいないし、それどころか微笑ましそうに見ている人ばかりのようだ。

 

 でも、申し訳ないことに変わりはないので、少し声を張り上げて謝罪する。


「うるさくしちゃってすみませんね」


 するとやっぱり店内には良い人ばかりで、「私たちのことは気にしなくていいからね~」「若いんだから、遠慮なんかしないでいいわよ」などといった声が聞こえてきて、少し感動。

 店員さんも、客の人が良いなら多少は構わないといった様子で、特にこちらを注意することは無かった。


 だが、うるさくしすぎるのはよくないので、俺は二人に注意する。


「うるさくするならここ出るぞ。流石に周りに迷惑かけすぎはよくないからな」

「「……あ、ごめんなさい」」


 見事に二人はシンクロし、喧嘩を止めた。

 一応、常識はわきまえているっぽいな。


 そして、先程から理乃は一人で「……これがカップル……」と戦慄しているのであった。

 ……理乃、これは特別なんだからな。普通はこうじゃない。







☆あとがき

更新を徐々に再開していきます。

具体的には、毎週日曜の九時に更新で行こうと思っています。


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新作、『強キャラだったら、振り向いてくれますか?』の投稿を始めました。

次回更新までの間、拙作でお楽しみいただければ幸いです。

こちらは毎日九時更新です。

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