第17話 初デートはサボりとともに④

 ♢♢♢♢♢


 手を繋ぎながら、俺達は歩く。特に行先もなく、ただひたすらに歩き続ける。

 左手に感じている熱は未だ消えず、身を焦がすような温度となって心に届く。

 その熱で、一滴、また一滴と、俺は水を外へ送り続ける。


 ―――つまり何が言いたいかっていうとですね。


 この俺、西本雅宣は今、めちゃくちゃ緊張してます。


 だってそうだろ?

 俺が今手を繋いでいるのは全国誰でも知っている、知名度ランキングを作れば余裕で上位に食い込むであろうトップアイドル様なのだ。


 単純に照れてるってのもあると思うが、何よりも、今の俺は理乃のことがバレないかでひやひやしている。ちなみに、「水」ってのは汗のことな。もう背中とかびしょびしょですよ。

 

 バレたら死。社会的にも、肉体的にも。

 ……鬼畜ゲーすぎるだろこれ。


 そんな俺の状況など露知らず。

 隣のトップアイドル様は大層ご機嫌なようで、スキップなどしちまってる。……いくら変装してるからって、目立ちすぎるのはよくないだろ。


 俺は繋いでいる手をギュッギュッと二回強く握る。


「ん~? 雅宣どうかしたの~?」


 満面の笑みでこちらを向く理乃。

 アイドルとバレていなくとも、理乃はめちゃくちゃ可愛い。そのため、バレていなかったとしても浴びる視線の量はとても多い。……もしバレたら、俺は視線だけで殺されるんじゃないか?死因、大量の殺意による精神の崩壊って感じで。……何その死因。独特すぎだろ。


 なので、もう少し目立つことのないようにと釘を刺すために理乃の耳元でささやくことにした。


「あのだなぁ……」

「ふわぁっ!」


 ビクッと理乃が反応したために、忠告できず。


「……ちょっと、耳は敏感なのっ!」

「さ、さいですか……でも、ちょっとだけでいいから我慢してくれ」

「うぅ~……がんばる」


 気合を入れるように、俺の手がギュッと握られる。なんか凄く申し訳なくなってきたわ。


「……今のお前、可愛すぎて目立っちゃってるから、こういう人の多い場所ではもう少し抑えてくれないか?」

「か、可愛すぎっ! ……それって、二人でいるのに私が注目浴びちゃうの嫌ってこと……?」

「……まあ、そうだな」


 なんとなく俺と解釈が違うような気がするが、間違ってはいないので訂正する必要はないだろう。

 すると理乃はふにゃっと表情を崩し、「そっかぁ~そうなんだぁ~」とニヤニヤしながら言い始めた。……どうしたんだろ。僕、ちょっと怖いなぁ……。


「うん! じゃあもうちょっと大人しくするねっ! 雅宣が妬いちゃわないように」

「妬いちゃうって……」


 うん、絶対俺と解釈違ってたわ。

 とはいえ理乃がとてもうれしそうにしているのに、それを訂正するほど俺は無粋ではない。

 理乃の発言を華麗(?)にスルーして、別の話題を切り出す。


「んで、次はどこ行く?」


 このデートはノープラン。次ぎ行く先だって決まってなどいない。

 理乃に希望を聞くと、恥ずかしそうに顔を俯けた。


「……雅宣さえよければ……」

「……なんだ?」


 え、恥ずかしがるようなところなの?

 男と一緒だと大丈夫じゃなかったりしない?


 俺の心が不安で満たされていく中、理乃は勇気を振り絞った! といった表情でこちらを見上げた。


「そのっ……お腹が空いちゃったのっ!」


 顔を真っ赤にしながら、半分叫ぶように言った言葉は、俺には理解不能だった。


「……ごめん、もっかい言って?」

「だから……お腹が、空いたのっ……」


 ……やっと理解。

 理乃は腹が減ったんだな。……ごめん、やっぱり理解はできないわ。


「……俺達、一時間前に朝食を食べたばっかりだよな?」

「……うん」

「食パン一枚半って、理乃にとっても十分な量だったよな?」

「……うん」

「ちゃんと満腹になってたよな?」

「……うん」

「…………燃費悪すぎねぇか?」

「っ……だから恥ずかしがってたんでしょうが! 察せよバカ!」

「あ、……すまん」


 純粋な罵倒って、心に響いちゃうな……確かに察し悪くて傷をえぐったのは申し訳けないわ。

 顔を真っ赤にしたままプルプルと恥ずかしがっている様子を見て余計罪悪感を感じた俺は、それ以上何も追及することなく、「……何食いたい?」とだけ言う。


「……パスタ」

「おっけ」


 そう呟くのを聞いた俺は、速攻で周辺のイタリアンレストランを検索するのだった。




☆あとがき

作者のモチベーションアップにつながるので、面白いと思った方は是非星やコメントをつけてくれると有り難いです。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る