第16話 初デートはサボりとともに③

 ♦♦♦♦♦


 痛い視線の中、私達は肩身の狭い思いをしながら本屋を出た。もちろん、抱き着いた腕はその程度では離したりしてないが。


「……あはは~、やりすぎちゃった感じかな……」

「……やりすぎたと思うなら何故まだ腕に抱き着いたままなんだ」

「雅宣が嫌なら……離れるけど……」


 ちょっと残念な思いをしながらも、仕方なく雅宣と離れる。……ああ、腕の中が寂しいよぉ。


「あー……別に嫌ってわけじゃなくてだな…………ほら」


 雅宣は私の方に腕を出してきた。……これは抱き着いていいよってことかな?

 それなら遠慮なく抱き着かせてもらおう。

 さっきよりも強い力で、思いっきり腕に飛びつく。力を入れすぎたのか雅宣が「痛っ!」とか言ってた気がするけど、気にしない気にしない。


「つーか、トップアイドル様がこんなこと外でしてて大丈夫かよ。バレたら俺死ぬぞ? 社会的にも肉体的にも」

「骨は拾ってあげるよ」

「道連れにされたいみたいだな」


 じとーっと雅宣が睨んできたので、笑いながら謝る。


「ごめんって。……まあ、バレないと思うから大丈夫じゃない? 普通に考えて、トップアイドルが普通に道を男の子と歩いてると思う?」

「思わねぇな。たとえそれっぽい人が歩いてても、見間違えなんじゃないかって思うな」

「そ。だからこそ、こうしてイチャイチャしてるワケ。仮にでも恋人なんだし、それくらいいいでしょ?」

「それは全然構わないんだが……ちょっと歩きにくい」


 そう言われて雅宣の方を見ると、確かに少し歩きづらそうにしていた。

 私と雅宣にはまあまあな身長差があるので、少し体を下に引っ張られる形になっている。


「あっ……ごめん……」

「そんなに悲しそうにされたら俺も反応に困るんだが……」


 雅宣は苦笑いしながら、「ん」と言って手を突き出してきた。


「……これは?」

「……手」


 ……手?

 私がわからないといった表情をしたからか、雅宣は出した手と反対の手で頭を掻きながら頬を少しだけ赤く染めていた。……もしかして照れてる? なんか可愛い。


「……だから、手繋ぐくらいならいいぞ」

「えっ……」


 え、今手繋いでいいって言った? 雅宣の方から? 私が言い出したんじゃなくて?

 嬉しさと戸惑いが混ざり合い、私の頭は混乱してきた。


「……早くしてくれ。恥ずかしくて死にそう」

「繋ぐっ!」


 私は勢いよくその手を握った。

 初めて雅宣の方から誘ってくれたことが嬉しくて、自然と口元が綻ぶ。……これは露子さんたちに報告しなければ。


 そして私達は再び歩き出す。

 

 繋いでいる手は、指を絡ませたような本当の恋人のする繋ぎ方ではなかったが。



 ―――でもいつか、その繋ぎ方を躊躇なくできるような、そんな関係になりたいな。




☆あとがき

今回は短くなってしまいました。すみません。

作者のモチベーションアップにつながるので、面白いと思った方は是非星やコメントをつけてくれると有り難いです。

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