第15話 初デートはサボりとともに②
「――というわけで、本屋にやってきました!」
「…………え、雅宣急にどうしたの?」
「あ、いや、何でもないぞ。だから俺から距離を取らないでくれ。傷つく」
……とまあ、さっき言った通り俺達は本屋に来ています。
デートの一番最初から本屋かよ! ってツッコミは止めろよな。こっちはデート初心者なんだから。
朝ご飯を食べ終わった後、どこに行くかって話し合いになり、「二人とも楽しめるところ」っていうのが最低条件に決まったんだ。
二人とも確実に楽しめるところって言ったら、二人の共通の趣味と関わるところだろ?俺達の共通の趣味として真っ先に思い浮かんだのは“ラノベ”だった。
それに、新刊奢りシステムのこともあったしな。
つーことで、最初は本屋に行くことに決まった。
ちなみに、外に出るにあたって理乃は帽子を被っていて、メガネもかけているためにトップアイドルの日坂理音とわかる人はそうそういないだろう。……あとはこれがフラグとなっていないことを祈るばかりだ。
「あ、このシリーズもう最新刊出てたんだ」
「そっか、理乃はあんまり本屋行けてないからそこらへん疎いんだったな」
「お金はあるのにどんどん本が溜まっていっちゃってね……買う本絞らないとな」
「んでも、一昨日おすすめしたのは全部良かったから、買って損はないと思うぞ」
「買うのは雅宣で、私は貰うだけだけどね~」
「そうだった」
一昨日俺が理乃に奢ることを決めた作品は全て本屋に並んでいたため、はしごをする必要はなさそうだ。
そのまま本屋のラノベが置いてあるスペースをぼーっとしながら見ていると、不意に視線を感じた。
「……どうかしたか、理乃」
「いや……相変わらず雅宣は恋愛ものばっかり買うなって」
「ああ、そのことか……」
事実、俺がおすすめした三冊の全てがラブコメだ。
……まあ、これにも訳があるんですよ。そこまで大したことじゃあないんだけど。
「俺は“恋”って感情がわかんないっていうのは言ったことあったか?」
「初耳」
「あっ、そうでしたか……んま、とにかく俺は“恋”って感情が分からないわけだ。そこで、ラブコメを読んでいけば“恋”が何なのかってのが分かるんじゃないかと考えているわけですよ」
「……ラブコメを現実の恋愛に当てはめるのは違うと思う」
ぐっ……そんな呆れた目で正論を突きつけないでくれ……俺もちょっと思ってるから。
「……確かに、ラブコメは現実の恋愛とは違うけどさぁ……」
理乃に呆れられた俺は、がくりと項垂れる。わかってはいるんだけどな。
でも、俺には頼るものがそれしかなかったんだよ……。
すると、下を向いた先に一冊の本を見つけた。
「……なあ理乃。この本……」
「ん?何その本……」
俺の見つけた本は、とある事情で女神様と呼ばれる学校の美少女と偽恋人になった少年とその美少女が、一緒にいるうちに互いに惹かれあっていくというものだった。
「なんか……似てるよな」
「内容は読んでないから何とも言えないけど、確かに偽恋人っていう設定は一緒だね」
この本では「学校の美少女」、俺の場合は「トップアイドル」。
スケールこそ違うが、どこか似ている状況だ。……現実の方がより異常なんだけどな。これが「現実は小説より奇なり」ってやつか。
「まあこれもラブコメだし、最終的にお互いが恋に落ちるんだろうけど……現実はそうなるとは限らないしな。実際俺達だって恋に発展するような関係でもないだろ?」
「…………」
俺がそう言うと黙り込んでしまう理乃。……え、何で黙り込んだの? 俺間違ってる?
顔を片手で覆いながら「まあわかってたけどさ……」と呟いたかと思うと、頭をブンブンと振ってにやりとした笑みを浮かべてきた。何をわかってたんだろ。
「決めつけるのは早いんじゃない? 雅宣が私に惚れないとも限らないし」
「……少なくとも今は理乃に恋愛感情は抱いていないからな……何とも言えないわ」
「じゃあ……これでも同じこと言える?」
えいっという掛け声とともに、理乃が俺の腕に抱き着いてきた。
腕に抱き着かれたくらいで意見が変わるわけないだろ、と思いながら再び恋愛感情を持っていないと伝えようとする。が――
「……り、理乃に恋愛感情は……い、抱いていないと思う……ぞ?」
どうしたか、先程よりもその言葉を言うのがつっかえつっかえになってしまった。心臓の鼓動も、先程とは速さがまるで違う。これはもしかして、俺が理乃に恋をしているっていうことなのか……?
そこで俺は冷静になれた。
普通可愛い女子に抱き着かれたらドキドキするもんだろ。恋じゃねぇわこれ。
「ほんとかなぁ……?」
「……ああ、男なら理乃みたいな可愛い女子に抱き着かれたらドキドキしちまうもんなんだよ。恋愛感情とは、違う気がする」
「か、可愛い……うん、そうだよね!」
すると突然理乃は上機嫌になった。元々テンション高かったけど。
ってか最初の方だけ聞こえなかったけど、理乃はなんでそんなに嬉しそうなんだよ。……恋愛感情抱かれてないのって嬉しいのか?好かれてるってのは喜ばしいことなんじゃ……あ、もしかして理乃は俺のことを異性として見れてないから、告白されて気まずくなる可能性があったということなのか? それなら納得。
気を取り直して、手に持った三冊を買いに行くことにした。
「……取り敢えず会計しに行くか……って、なんか俺達注目されてね?」
「……ほんとだ。もしかして……バレた?」
少し遠くから俺達のことを見ている人が数人いた。……マジでバレちゃったのか?
聞き耳をたててみると……どうやら理乃のことがバレているというわけではなく、本屋でいちゃついている――俺達はそんなつもりがないのだが――ことに対して好奇の視線を向けているようだ。一応安心かな。変な視線浴びてるって言うのは嫌だけど。
「バレてはないっぽいけど、取り敢えず早くこの本屋出よ。凄くいたたまれない雰囲気だから」
「……だね」
二人でそそくさとレジに向かったのだが、レジの店員さん(男)が「妬ましい……」と呟いていた気がした。……それは気のせいじゃないだろうな。なんかごめんなさい、店員さん。
☆あとがき
更新の時間コロコロ変わってしまってすみません。
もう少ししたら安定させると思います。
取り敢えず明日は午前7時更新予定です。
作者のモチベーションアップにつながるので、面白いと思った方は是非星やコメントをつけてくれると有り難いです。
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