第11話 MHD③ ~作戦失敗?~
♦♦♦♦♦
心地よい眠りから目覚めて真っ先に感じたのは、頭の下にある柔らくて暖かい枕代わりの膝と、頭の上に置かれた、包み込んでくれそうな大きさの手の感触だった。
……やっぱり雅宣は優しいから、そのまま寝かせてくれてたみたいだな。
少しきつい体制で寝てしまったために凝り固まってしまった体を動かそうと身じろぎするも、頭の上にある手が動く素振りはない。……あれ、もしかして気付いてない?
私はそっと手をどけてゆっくりと体を回転させ、下から雅宣の顔を見上げると、真正面に目を閉じた雅宣の顔があった。
「っ!!」
それに思わずびっくりして声を上げそうになってしまったが、雅宣が寝ているということは一目瞭然。起こさないように頑張って声を抑える。
起こしていないかひやひやしながら、様子を窺うように雅宣の顔を見つめる。
……やっぱりかっこいいな、雅宣は。でも、寝顔はちょっと可愛いんだよなぁ……。
思えば、雅宣の寝顔を見るのなんて久しぶりな気がする。雅宣は基本的に夜型人間だし、夜遅くにはもう私は家へと帰ってしまっているから。
最後に寝顔を見たのは、私がまだ中学校に通ってた時だっけ。授業中に寝ているのを何回か見た。
三年近く前に見たっきりだった寝顔は、あのころと変わらずあどけなさが感じられて……でも、かっこいい。中学生の頃よりも少し大人びた顔立ちは、昔よりもかっこよくなっていることを表しているようだった。
そのまま雅宣の顔を見つめていると、何となく恥ずかしくなってきた。向こうはこっちのことを見ていないとはわかっていても、何故だか照れる。
顔がだんだんと熱くなっていく気がして、私は雅宣の膝から頭をどかした。
そっとベッドから立ち上がって、枕元にある目覚まし時計に目をやる。……十二時半か。
明日はオフの日だし、今から家に帰るのも面倒くさい。もういっそ今日はここで寝ちゃうか……あ。
そうして私は思い出す。
今私、MHD中じゃん。
第一段階はクリアできただろう。雅宣に甘えられただけで、私としては十分だ。
そして今この時間は、第二段階―――ツンデレする時間だ。
寝る前と寝た後でのギャップと、たまに思いっきりデレることで惚れさせようと思ってたのに、雅宣が寝ちゃったら意味ないじゃん。作戦失敗だぁ……。
落ち込んで視線を落とすと、ふと机の上に置いてある紙が目に入った。
どうやら、露子さんが書いたようだ。
『私たちはもう寝ますね。HMD頑張るのよ』
短いメッセージだったが、私はそれを読んで少し勇気づけられた。
まだHMDは終わっていない。
第二段階は出来なくなってしまったけど、私には第三段階がある。
第三段階なら、雅宣が寝ていようが関係ない!
私は雅宣の元に戻り、そっと倒す。
起こさないように優しくゆっくりと倒して、完全に横になったらちょっとずつ引っ張って横向きから縦向きへと変える。
起こしてしまう可能性は高かったが、幸運なことにと言うべきか、雅宣は起きることがなかった。熟睡していたらしい。
とは言っても、起きたところでやることは変わらないのだが。
その横に自分も並んで、一緒に布団を被る。
ベッドはシングルサイズなので、必然的に体同士が触れ合うことになる。
すぐ隣には、大好きな彼。
どんどんと自分の体温が上昇していくのが分かる。……暑い。布団の中にいるせいで熱が逃げないから、余計暑い。
……でも、離れたいとは思わない。
誰かと一緒に寝るのなんて、本当に久しぶりだから。
この暖かさがあるだけで、こんなにも安心できるのか。
もっと近づきたい。
その暖かさを、もっと分けて欲しい。
そんな欲望に、私は逆らえなかった。
私は腕を雅宣の腕へと伸ばし、一瞬迷ったのちに、えいっとその腕に抱き着いた。
こんなにも暑く、興奮していて、さっきまで寝ていたというのに、雅宣の腕に抱き着いていると自然と再び眠気が襲ってきた。
……ああ、幸せだなぁ……。
☆あとがき
作者のモチベーションアップにつながるので、面白いと思った方は是非星やコメントをつけてくれると有り難いです。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます