第12話 目覚め

 ♢♢♢♢♢

 

 いつもよりも寝苦しさを感じて、今日は目が覚めた。

 俺の体内時計は七時だと言い張っている。いつもより、三十分も早い。

 二度寝するには時間が無いし……早く起きてみるか。やることないけど。


 俺は伸びをしようと腕を持ち上げる、が……


 右腕、おっも!

 つーか、何か纏ってる感じするんですけど!


 ……これはもしかして、俺の右手に何かが宿ったのだろうか。

 まさか、この年にもなって中二病のようなことがあるだなんて……って、違うわ!現実逃避もほどほどにしろ!


 そう、今俺は現実逃避をしていたのだ。

 なんでかって? そんなの簡単さ。


 ―――右腕には天使のような美少女、もとい俺の偽彼女様がくっついているのだ。


 いや、普通に考えておかしいだろ?

 朝起きたら隣に美少女、それも腕に抱き着くように寝ているんだぞ。何その状況。


 幸せじゃないと言ったら嘘になるが、どうしてこうなっているのかが分からない。

 それゆえ、正直に言って怖い。


 ……そういえば昨日どうなったんだ?

 俺は確か理乃に膝枕をして……ずっと頭を撫でていた記憶がある。だが、それ以降はない。

 要するに、昨日はそのまま寝てしまったんだろうな。

 ……んならなんで俺は布団に入っているんだ? 理乃と一緒に。


 この状況でその理由を知ってそうなのは、理乃ただ一人。

 起こして聞くとするか。気持ちよく寝ているようなので申し訳ない気もするが。


 俺が空いている左手を使って理乃を揺さぶると、「…………んにゅ」と言って薄く目を開いた。起き方可愛いな、おい。


「理乃、寝起き直後に悪いんだが、これはどういう状況なんだ?」

「……雅宣? おはよぉ……今日学校休んでねぇ……」

「いや質問に答えてくれ。そして疑問を増やさないでくれ」

「それじゃあ私もっかい寝るねぇ……」

「ちょいちょいちょいちょい。勝手に話終わらせないでくれますかね理乃さんや。取り敢えずどうしてこうなったのか教えてくれ」

「あ~布団掛けてあげたの私だよぉ……おやすみ……」

「待て」

「むぅぅ……」


  俺の腕から手を離し、布団を掴んでそれに包まるように二度寝をしようとしていたので、慌てて理乃と布団を引きはがす。

 二度寝が防がれたことで少々不機嫌モードらしい理乃は、プクーっと頬を膨らませながらポスポスと俺のお腹を殴っている。……寝起きになると精神年齢下がっちゃう感じの人なのかな? なんでもいいけど可愛いから許す。


「んで、どうしてこうなってたんだよ」

「雅宣が寝てたから、布団掛けてあげたの。そこでわたしもちからつきたぁ……」

「おい、今は力尽きなくていいから。逆に力込めろ」


 ベッドへと再び倒れこんでいく理乃を支え、体を起こした状態で維持させる。朝弱すぎだろ。


「……まあ、一緒に寝てた理由は一応分かった。次は、何で俺の腕に抱き着いていたかだ」


 そういった瞬間理乃から力がより抜けて、悲しそうな雰囲気になる。そして、目を潤ませながら「駄目だった……?」と聞いてきた。それは反則。


「駄目じゃ……ないぞ?」

「えへへ~嬉しい~」


 嬉しそうな表情へと一瞬で変わり、再び俺の腕に抱き着いてくる理乃。この可愛さは最早チート。俺、もしかしたら幸福すぎて死ぬかもな。


 もっとこの幸福を堪能していたいところだが、残念ながら時間だ。今日も学校が普通にあるため、そろそろ準備を始めなければ。

 だが、理乃の抱き着いている右腕は、なかなか自由にならない。


「あー……理乃さん? ちょっと今から学校行くために着替えるから、部屋出るか布団の中にすっぽり収まるかしておいてくれない?」

「……さっき言ったよねぇ……今日学校休んでって」

「あ、そういえばそんなこと言ってたな。なんでだ?」

「今日私、久しぶりのオフだから……デート、しよ……?」


 で、デートですか……。

 確かに理乃は今日オフだと昨日の食卓で言ってた。でも、そのために学校休むのはちょっと気が引けるなぁ……。


「……ごめん、ズル休みできるほどの精神持ってないから、デートはまた今度って言うのは……」

「だいじょうぶ……そこは心配しないでいいから……」


 どうしてだ?と聞く前に、部屋がノックされた。


「はーい」

「あ、雅宣。今日学校行かなくていいからね? 先生には『風邪だから休ませる』ってもう伝えてあるから、学校は気にしなくていいわよ」

「手が速いな!」


 どうやら、俺の初デートは学校の初サボりとともにやってくるようだ。





☆あとがき

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