第10話 MHD② ~第一段階・甘える~

「あっ、雅宣!?ごめんっ!大丈夫?」

「……ああ、ちょっと痛いけど、問題ない」

「ほんとにごめんね……おでこ赤くなっちゃってるし」


 惚れさせるための作戦なのに、攻撃しちゃったよ……。

 思わず赤くなっている部分に触れる。痛みが消えるわけじゃないけど、さすってあげれば少しは良くなるかもしれない。


「だ、大丈夫だから!だからその……頭撫でるのはちょっと……」

「あっ……ごめんね、勝手に触って」

「いや、いいけど……恥ずかしいから……」


 雅宣の顔を見れば真っ赤になってしまっている。……照れてるのかな? ふふっ、そんな雅宣も、可愛い……


 はっ! まずい!

 危うくこの部屋に来た意味を忘れそうになるところだった……。


「と、取り敢えず座ろっ!」


 軽く雅宣の手を引っ張って、ベッドの上に腰掛ける。

 ……よし、作戦を開始しよう。


 雅宣を惚れさせる大作戦、通称MHDには、三段階用意してある。

 

 第一段階、ただひたすら雅宣に甘える。

 とにかく雅宣大好き~って気持ちを解放させて、好き勝手する。雅宣の押しキャラの中にもそういうタイプの人がいたし、動揺してくれると思う。

 そして全力で甘えた後は、雅宣に膝枕をしてもらって、そのまま寝る! ……ああ、想像するだけで幸せ……。


 ……とまあ、ここまでが第一段階だ。

 次は第二段階。


 第二段階は、膝枕から目覚めてからスタートされる。

 この段階では心苦しいけど、全力でツンとすることが大切だ。

 多分雅宣は優しいから、膝枕からしばらく起きなくてもそっとしておいてくれると思う。目が覚めるまで膝枕を続けるはずだ。

 そして、目が覚めた時は私は寝る前と雰囲気が違って戸惑うことだろう。

 散々不安を煽っておき……たまにデレる!

 いわゆる“ツンデレ”になるのだ。


 前に雅宣が、「ツンデレっていいよなぁ……」とか言っていたし……これは結構効果的なんじゃないかな?


 最終段階は、誠さんと露子さん、葉月ちゃんに協力してもらう。

 その最終段階とは――一緒に寝ること。


 膝枕状態で寝て起きれば、時間も遅くなってしまうことだろう。

 そこで、露子さんが私をこの家に泊まらせることにするのだ。

 寝る部屋を雅宣の部屋だけに絞れるように三人に協力してもらって、多少強引にでも一緒に寝る。

 一緒に寝ることになれば、嫌でも意識することになるだろう。


 これで、一気に距離を縮めることができるはず!

 結構強引なプランだとは思うけど、恋は攻めてなんぼだって露子さんも言ってたしね。



 まずは第一段階―――


 ♢♢♢♢♢


 理乃に引っ張られ、俺はベッドに腰掛けた。理乃は俺の隣に、密着しても過言ではない間隔を空けて座っている。急にどうしたんだ? いつもよりも距離が近い気がするが……。


 そんな俺の疑問に答えるように、理乃は俺の肩に頭を預けてきた。

 ……なるほど、これがしたかったのか……って、納得できるか! 答えてねぇよ! むしろ謎が深まったぞ!


 俺が脳内ツッコミをしていると、今度こそ俺の疑問に答えるように理乃が口を開いた。


「……今日はね、パフォーマンスのレッスンがあったんだ。頑張って練習してたら疲れちゃって……だから、もうちょっとこのままでいい?」


 ああ、だから今日帰って来た時にへとへとだったのか。


「どーぞ、お好きなように。……つーか、パフォーマンスのレッスンってあれか? 前に理乃が言ってた新曲の」

「そーだよ。まだ詳しくは言っちゃダメって言われてるから、あんまり教えてあげることはできないけど、その曲のサビ前のダンスが難しくって……でも、頑張って一日で覚えたんだ。完璧にはもちろん程遠いんだけど」

「凄いじゃんか」

「えへへ~もっと褒めていいよ~」


 いつもよりもグイグイと迫られている感じがするが、そんな理乃がとても可愛く思え、思わず肩の上にある頭に手を伸ばして、そっと撫でた。


「ひゃっ!」

「あっ……ごめんつい……」

「ううん……嫌なんじゃないよ。ただ、ちょっと驚いちゃっただけで……雅宣さえいいなら、もっと続けてほしいなっ」


 肩から頭を浮かせ、俺の顔を覗き込みながら可愛い笑顔を見せてきた。

 そんな理乃に俺はどこか気恥ずかしさを感じてしまったので、照れ隠しをするように理乃の頭を、さっきよりも雑に、そしてそれに勝る優しさを込めた手つきで撫でた。


 五分ほど続けていると、不意に理乃が俺の手を避けた。

 どうかしたのか、と思ったのもつかの間。ぽすっという音とともに俺の膝に小さな衝撃が加わった。

 そのままもぞもぞとベストポジションを探すかのように動いて、良い位置が見つかったのか数分で落ち着き、すぅすぅという可愛い呼吸音が聞こえてくる。……どうやら寝てしまったようだ。


 今日は疲れたって言ってたし、無理矢理起こすのは止めておこう。

 俺は再び暇になったなと思いながらも、理乃の頭を撫でる手は止めなかった。

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