第9話 MHD① ~作戦開始~

 理乃が風呂から出るとすぐに食事となったのだが……正直に言って、家族がこんなに鬱陶しいと感じたのは今日が初めてではないか? と思う程ウザがらみされた。


 玄関でのお姫様だっこに加えて風呂に入れる発言――あの後誤解を解くのが大変だった――について弄られ、怒鳴りそうになる直前で話が終わる。そして別の話を始めるものだから文句を言う機会を逃してしまう。……ああ、思い出しただけでイラついてくる。


 そのせいで、今俺は夕飯を食べ終わった瞬間に自分の部屋へ来て引きこもっているのだ。

 二階からは楽しそうな笑い声。……べ、別に寂しくなんてないぞ! あんなとこに戻っても弄られるだけだし。

 

 ……でも、寂しくはないけど、めちゃくちゃ暇。


 いつもなら騒がしくも楽しい会話を家族全員――もちろん理乃も含む――で繰り広げたりしているため、一人でいる時間というのが少なめだ。

 その時間は大抵本を読むのに充てられるのだが、生憎俺は「買った本は買った当日又は翌日までには読み終える」ことを目指しているため、積読が生まれにくい。そして今、積読はゼロだ。


 携帯でのゲームなどをやるという手もあるのだが、俺は飽きっぽい性格のためゲームをすることに飽きてしまったのだ。しかも強くなる前に飽きたせいで、余計にやる気も起きない。


 だから、本当にやることがない。

 何かの本を二周目するくらいしか、やることが思い浮かばないんだよな……。


 俺はベッド横にある本棚の前に立ち、なるべく内容を覚えていないものを選ぶ。……なんでかって? いや、普通に内容覚えてるの読むよりも「ああ、こういう場面もあったな」ってちょっとずつ思い出していく方が楽しいじゃん。


 まあ俺の趣味趣向はどうでもいいとして、取り敢えず今は本だ。

 何読もっかな……。


 その時、二階から大きな歓声(?)が聞こえてきた。うるせぇな。今更楽しそうにしたところで、戻るわけ……な、無いからな!

 ……んでも、ちょっぴり気になりはするな。

 ドアから覗くくらいなら、いいよな?


 そうして俺は本棚の前からドアの前に移動して、ほんの少しだけ開けてみようと――


「痛っ!」

「あっ雅宣!? ごめんっ! 大丈夫?」


 ドアに手をかける前に、勝手のドアが開いて俺の額とぶつかった。痛い。


 ♦♦♦♦♦


 誠さん――雅宣のお父さんね――と露子さん、葉月ちゃんの三人の声援を浴びながら、私は一階に降りて行った。

 三人は私が雅宣のことを好きだと知っている。それこそ、二年半前に恋に落ちた時から応援してもらっている……雅宣は気づいていないみたいだけどね。本当に鈍感なんだから。


 だから、偽とは言えど恋人になっているこの状況で雅宣を惚れさせると宣言したら、全力で応援されて送り出された。それはもう、戦争に行く兵士を見送るかのような勢いで。


 でも、そのおかげで退路を断てた。

 恥ずかしいからと、逃げることは出来なくなった。


 やるしかない。

 

 これより、雅宣を惚れさせる大作戦、略してMHDを開始する!


 雅宣の部屋の前で深呼吸をして、ドアノブに手をかける。……ああ、緊張するなぁ……でも、やらなくちゃ。やらなかったら、きっといつか後悔してしまうかもしれない。雅宣はカッコいいし、すぐ彼女とか出来ちゃうだろうから。


 ……よし、いくぞ!


 そうしてドアを開ければ―――


「痛っ!」

「あっ、雅宣!? ごめんっ! 大丈夫?」


 私の開いたドアで雅宣が頭を打ち付けてしまったようだ。

 何しょっぱなからやらかしちゃってるんだろ、私。

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