第8話 お疲れモード
「ただいまぁ~……」
「お疲れさん……って、うぉっ!」
九時を過ぎたころに、理乃はものすごく疲れた表情をしながらうちに帰って来た。「ただいま」とか、もう完全うちの子じゃん。最早第二の家……いや、生活している時間的に今はこの家の方が長いから第一の家と言ってもいいんじゃね? まあ何でもいいけどさ。
玄関まで迎えに行ってやると、そこにはふらふら~と揺れている理乃がいて、慌てて近くに駆け寄ると俺に倒れこんだ。
「だ、大丈夫か!?」
「へーき……ただ疲れてただけだから……」
「それならいいけど……」
倒れこんできた理乃を抱きとめ聞いてみたが、明らかに大丈夫じゃなさそうな声と顔色で言われても信用できない。
念のため熱があったりしないかおでこに触れてみるが、熱はなさそうだ。本当にただ疲れているだけだろう。
ホッと安堵の溜め息をついていると、ふと俺は理乃を抱きしめてしまっていることに気付く。……良い匂いがして女性特有の柔らかさも……って、まずいまずい。
いったん離れようと思ったものの、離れれば理乃は力尽きて倒れてしまうだろう。
少し悩み、少々抵抗があるものの俺は理乃を抱きとめていた腕を解き、理乃の膝の裏と背中にそれぞれ移動させる。そして理乃の体を横に倒して、二本の腕で支えた。――いわゆる“お姫様だっこ”ってやつだな。
「えっ、ちょっ、ええ!?な、何やってるの雅宣!?」
「どうせお前疲れて動けねぇだろ?ならこれが手っ取り早い。取り敢えず部屋まで運ぶぞ」
「えぇ~~!た、確かにそうだけどさぁ……うぅぅ~~!」
理乃は顔を真っ赤にしながらじたばたした。危ないからやめろ。落ちたらどうする。つーか、俺だって恥ずかしくないわけじゃないんだからな?
だが、それを言う前にじたばたは終わり、代わりに「……えいっ」と言って俺の首元に腕を巻き付けてきた。
「……これは?」
「……こうしないと落ちちゃうでしょ。い~から早く歩く!」
「……わーったよ」
首の皮をつねって急かされる。地味に痛いから止めてくれ。肉つままれるより皮だけつままれる方が痛いんだよ……。
そして玄関から部屋まで歩いている最中、階段の陰から太い腕とカメラが出ているのを見つけた。……何やってんだ父さん。あなたこんなことする人じゃなかったでしょ。あなた最近変ですわよ?
まあ、だからといって理乃から手を放してカメラをひったくるわけにはいかないので、無視して部屋まで運ぶ。後で詰問するのは確定事項だけど。
理乃を部屋のベッドに寝かせようとしたが、理乃が巻き付けた腕を放さない。……どうしたんだ?
そんな俺の疑問に答えるように理乃は言う。
「……お風呂」
「……は?」
「お風呂。連れてって」
「……はぁ……」
どうやら理乃さんは入浴をご所望のようですね。
理乃は基本家で風呂に入らず、向こうの家で入ることにしているそうだが、偶にこうしてうちの風呂を使うときがある。主に今日みたいな疲れてる時だな。
再び理乃を持ち上げて、階段の下まで行く。
母さんに理乃を風呂に入れさせていいか大声で尋ねると、二つの悲鳴のような歓声と、「……わぁお」とういう野太い声が聞こえた。……ただ風呂場に連れてくだけなのに何興奮しちゃってんだか。ってか父さんどこ行きやがった。階段からいつの間にか消えてるんだが。逃げんなし。
悲鳴が収まると、「もちろん!」というテンションの高い声と同時にバスタオルが階段に二つ降ってきた。……なんで二つ。
一旦タオルが二つある件については無視し、俺はしゃがんで理乃にタオルを取ってもらってそのまま洗面所に向かう。
「……服も脱がして」
「流石にそれは却下」
「むぅ……」
洗面所で理乃を立たせると、手をバンザイの形にしながらそんなことを言ってきたので、丁重に(?)お断りする。男に服脱がせようとするとか、正気を疑うわ。……まあ、それだけ疲れている証拠ってことか。
「んじゃ、ごゆっくり」
「むぅぅぅ……」
俺はそっと扉を閉め、洗面所を後にした。
……え、何、理乃の奴俺に服脱がされたかったの? 変な性癖でも持ってんのかなぁ……幼馴染として心配だよ。
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