第26話

 後日談だが、ガールズバンドは本当に結成した。しかし、始動する前に、霊子はあの世に帰ってしまった。ペルは、ガールズバンドのリーダーである桃子に訊いた。丁度、彼女はペルの教室に遊びに来ていた。


「桃ちゃん、ガールズバンドは、まだ結成したばかりなんだよね?」


「そーだよ。今日あたりに、楽器を購入しに行くとこさ。っで、ペルくん、霊子さんがあの世に帰っちゃって、ドラムのポジションが空いたから、代わりに入ってよー。ドラムしてよー。えーとね、ベース役にも、誰かいたような気がするけど、思い出せないなあ。とにかく、ドラム、お願いねっ。それをお願いしにきたのよ」


 ………………。


 ガールズバンドの話は、霊子がいなくなったのに、進んでいた。


「姉さん、どうなってるのさ?」


 ペルは隣の空席に……いや、訂正する。空席のように見えるが、実は空気のごときお姉ちゃんが座っているのだ。


 桃子が不思議そうにペルを見つめた。


「ペルくん、一体、誰に話しかけてるの? そこに、誰もいないじゃ………………あ、あれれれれ? 人が、いるっ!」


「ぬらひょん姉さんだよ。……っで、姉さん。霊子さんが、あの世に帰ったって本当なの?」


 お姉ちゃんは頷いた。


「本当よ。霊子さんはね、美味しいものをたらふく食べたい、というのも、叶えたい願いの1つだったみたいなの。それで、スイーツ食べ放題のお店に連れていって、ケーキとかをたらふく食べさせたら満足したみたくて、あの世に帰っちゃったの」


「そ、そうなんだ……。それで、ガールズバンドは、どーするの?」


「折角だしさ、ペルくんも、やろうよ? ちなみに私がベースだよ」


「いやいやいやいや。僕がやるのは無理でしょう。そもそも、僕はガールじゃないし」


 ガールズバンドとは、ガールだけがメンバーなのでガールズバンドというのだ。男のペルが加入したら、それはガールズバンドとは、もう言えなくなる、が……。


 その時、ドタドタと教室に何者かが入ってきた。


 犬賀美のようだ。犬賀美は満面の笑顔で、桃子に向ってジャンプして抱きついた。


「きゃぅうううん。桃子様。私もガールズバンドに誘ってくれるなんて、なんという、ありがたき幸せ。天上の至極だワン」


 明らかにマリオネットバージョンの犬賀美だ。


「ワンちゃん………………まさか」


 ペルはお姉ちゃんを見つめた。お姉ちゃんは、ぷいっと顔を背けた。そして、小さい声で白状した。


「こっそりと、キビ団子の欠片だけを食べさせたから、そんなに効果は長くは続かないと思う……わ」


 ………………。


 一方、桃子はニコニコ笑顔で、自身に抱きついている犬賀美に言った。


「ワンちゃんは大事なメンバーだからね。ワンちゃんのギター、頼りにしているよ」


「頑張るワーン。ギターを、一生懸命に覚えるワーン」


「おりこうさんだねぇ。ワンちゃん、ナデナデしてあげる」


「ワンワン。ワンワン。嬉しいだワン。幸せだワン。私の頭は、桃子様に撫でられる為だけに存在しているんだワン。くぅぅうぅううううん………………ん?」


 ………………。


 突然、犬賀美は正気に戻った様子。顔を真っ赤にして、後ろに飛んで、桃子から離れた。


「な、なななななな、んなバカなーーーーーーーーーだワン。そんなアホなだワン。ありえない。なぜ私が桃子なんぞに!」


「どーしたのワンちゃん。ギターやってくれるんでしょ?」


「やるわけねーだろーワン。アホかっ!」


「お手!」


「きゃふーーーーーーん。桃子様! アイラブ桃子様あああああん。私の手は、桃子様にお手をする為だけにあるんだワン。桃子様の手の柔らかさ、暖かさ。桃子様こそ私のいきぼとけだワン」


「ギターしてくれる?」


「するワンするワン。ギターするワン。だからもっともっとナデナデしてほしいワン」


「いいよ。なでなでなで」


「くぅぅぅぅぅん、くぅぅぅぅん。嬉しいワン。まるで天国だワン。もっともっとナデナデを………………あ、あれ? う、ううううう、うわあああああああああああああああああああああああああああああああああああああ。私は一体、何をやってるんだーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー」


 犬賀美は、血相を変えて、教室から走り去った。


 ………………。


 その日の夜、スイーツを食べ、あの世に帰ったはずの霊子が、再び家に戻ってきた。お姉ちゃんは眉間にしわを寄せながら、霊子を睨んだ。


「ちょ、ちょっと霊子さん、あなた……あの世に帰ったんじゃ……」


「そうなのですけどぉ、ガールズバンドを結成したばかりなのに、途中で消えるだなんて無責任じゃないですかぁ、だから、戻ってきたのですぅ」


「ええええええー」


「何と言いますか、生前の未練ではなく、死後の未練……それが残ってしまったようですぅ。ガールズバンド、成功させたいのですぅー」


「そ、そんなー。死後の未練が残って、あの世から戻ってくる霊なんて、聞いた事がないわ」


 お姉ちゃんは口を開けて、ポカーンとした。


 ………………。


 隣の部屋から、バタン、とドアが閉まる音がした。


 睡眠から目を覚ました妹が部屋に入ってきた。妹はお姉ちゃんを見るとお辞儀した。


「お兄さんの部屋、騒がしいだすなー。眠ってたのに目が覚めただー。……あんれー。どなた様ですかー。初めましてー」


「………………103回目」


 ガールズバンド、再結成。


 在籍メンバーは桃子。お姉ちゃん。妹。霊子。犬賀美。


 なんと、ジャンルは『ヘビメタ』だ。

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