第25話
家に幽霊がやってきてから数日が経った。
この日、ペルが妹とスーパーに買い出しに行った帰り道で、カグヤと出会った。カグヤは、かぐや姫の妖怪で、ひきこもりがちな性分だ。こうして外でばったりと会う事は珍しかった。
カグヤは妹を見て、目を輝かせた。
「あれれ、ペルくん。このような場所で会うなんて奇遇でおじゃる。もしかして、この子が妹さんでおじゃるか? 本当に顔が見えないでおじゃるね」
「カグヤちゃん、いいところで会ったね。そうそう、この子が僕の妹だよ」
妹はカグヤに向かってお辞儀した。
「わだすの兄がいつもお世話になってますだ。初めましてえええ」
「こちらこそでおじゃる」
「ところで、カグヤちゃん。誤解を解きたいからさ、妹に本の件について話してくれないかい?」
「本の件?」
カグヤは首を傾げた。
「ほら、君が勝手に僕の鞄の中に入れて、妹に見つかったと話した、あのアダルティーな本の事だよ。僕がいくら説明しても、妹は僕のものじゃないって事を、信じてくれないんだ」
「お兄さん、健全な男の人は、あのよーな本を持っていても、普通だー。だから、白状しろだー。男らしく、認めろだー」
妹がペルを責めていたところ、カグヤは満面の笑みで言った。
「おほほほ。構わないでおじゃるよ。妹さん、妹さん。その本はね、私がお兄さんに無理矢理家に持ち帰らせた本なのでおじゃる」
カグヤは何事もなかったかのように、あっさりと言った。妹の顔は髪とお面で見えないが、本が本当にペルの所有物でなかった事に驚いている様子だ。
「そ、そうなんけー」
「そして、私たちはセフレという関係なのでおじゃる」
「そ、そそそそ、そうなんけー。っで、セフレってなんだー?」
「セフレじゃなーーーいっ! 僕たちはセフレじゃないぞ」
ペルはすぐさま否定した。
「ひどーい、ひどいでおじゃる! 毎晩、あんなに激しくなぶってあげてるのに。あんなこともこんなこともペロペロペロリンコと許し合ってる仲なのにっ! 妄想の中でっ!」
「せっかく誤解が解けたのに、新しい誤解が生まれるよっ! 妄想の中でって、そんなの僕が知るかーい。それと、なぶってあげてるって、僕がなぶられる側?」
「お、おおおおお、大人だー。お姉さん、わだすには何が何だか、よく分からなかったけど、なんだか大人だと感じただ! さすがお姉さん、さすおね、さすおねー」
「おほほほ。可愛いでおじゃるなー。将来的には、本当のお姉さん、いや、お姉様になってあげるでおじゃるよ」
「ならないならない。っで、僕がなぶられてる側なの? そこんとこどーなの!」
「ところで妹さんの名前は、なんというのでおじゃる?」
「白面と申しますだー」
「スルーしないでっ!」
カグヤは持っていたバッグから、何かを取り出した。それを妹に手渡した。
こ、これは……。
「どれどれ白面ちゃん、お近づきの証しに、これをあげるでおじゃる」
「うわああ。なんだこれー」
「タケノコでおじゃる。皮に梅干しの実を巻いてチュパチュパしたり、炊き込みご飯にしてもよいでおじゃるよ。新鮮だからお刺身にもできるでおじゃる。上のお口でも下のお口でも美味しく召しあがれる奇跡の食材、それがタケノコでおじゃる」
「ちょっと待ったー。上のお口は分かるが、下のお口ってなんだー!」
突然、何を言い出すのだ!
妹は、頭にクエスチョンマークを出しながら、カグヤに訊いた。
「お、お姉さんは、上と下、つまりは2つの口がある妖怪さんってことだか?」
「違うでおじゃるよ。3つでおじゃる。誰でも女は3つ。男は2つのお口を持ってるものなのでおじゃるよ。おほほほほ」
「どしぇえええええー。わだす、ますますわけがわからないだー。わだすは女だけど、お口は一つしかないだよー」
「それはでおじゃるね、単刀直入に言うとでおじゃる。おま……」
「やめーーーい。やめやめやめーーーーーい。妹に妙な事を吹き込むんじゃない。そもそもタケノコは、太さ的に無理だろー」
ペルは妹を庇うように、カグヤとの間に割り入った。カグヤは不思議そうな顔を向ける。
「はい? 無理かどうか、私の家に来て、その目で確かめるでおじゃるか? 足を運ぶのが面倒なら、公共の路上である、この場で見せてもよいでおじゃるよー」
「お姉さん、わだす、見たいだー。見せて見せてー。ワクワク」
「見なくていいっ。ええい、おまえはもう、妹に近づくな。悪影響にしかならんわ。このアンポンタンが!」
「そんなひどい事を言わないでほしいのでおじゃる。……っは! まさか、これは、プレイでおじゃるか? 言葉責め? アン、ポンタン。ちょっと文字を並べ替えて英語になおすと……」
「ちがーーーうわい! 何を言いたいのか……君の頭の中で何が閃いたのかを瞬時に悟ってしまう僕自身が悲しい! ちなみに、カグヤちゃんが今から口にするようなプレイもしないし、誘ってもないっ!」
妹はペルの服を引っ張る。
「お兄さん、一体、どういうことけー。わだすには何が何やらさっぱりだ」
ペルが顔をしかめていたところ、カグヤは言った。
「本当はしたいくせに。見たいくせに! 白面ちゃん、いいでおじゃるか? 男はね、口ではそう言いながらも、本音ではエロい事ばかり考えている生き物なのでおじゃるよ? 特に私の様な超絶美少女を前にすると、色々な欲望が渦巻くのでおじゃる」
「男は、エ、エロイ生き物なんけー。欲望が渦巻くって……ど、どういうことだー?」
「んな、嘘を教えるなよ。確かに、君の事を初見で、しかも中身を知らなかったら、百歩譲ってそういう気持ちにもなったかもしれないけど、僕は君がTZDHだと知ってるからね。もう、何も感じない」
「およよよよ……、ペルくんまでそんなことを言うでおじゃるか? およよよよ」
「TZDH……? お兄さん、TZDHってなんだー? わだすにも、教えてくんろー」
妹が、再びペルの服を引っ張り始める。
「分かんなくてもいいよ。さあ行こう。じゃーね、カグヤちゃん」
「ぷぅぅー。わだすの事、仲間外れにすんじゃねーだ! 話が全く分からなかっただよー。置いてけぼりにされただー」
ペルはプンスカしている妹の手を握って、家に向かった。
帰宅すると、すぐさまお姉ちゃんがテーブルに置かれたタケノコを持って調理を開始する。しかし、妹はその事に気づいていない様子だ。お姉ちゃんは『存在感を上げる週間』なるものを自らで設定し、最近は家事を積極的に行っている。
ペルはキッチンの椅子に座って、妹に訊いた。
「そういや、タケノコって、まだ食べた事なかった?」
「んだ。わだすの山には、あんな食材はなかっただ」
その時、床から顔が出現。霊子だ。
「そりゃあそうですよぉ。タケノコは竹林にしか、生えてこないのですぅ」
「うわああ。床から顔だけ出して、しゃべってんじゃなーーーい。霊子さん、怖いわー」
「あっ、居候さんだ。お兄さんに憑りついてる居候さん、竹林ってなんだべー」
妹の質問に、霊子は答えた。
「竹林というのは、『竹』が『林』のように生えている場所ですぅ。タケノコは、『竹』の『子供』なんですぅ」
「なんだか、『竹林』も『タケノコ』も単語の意味、そのまま言っただけじゃないのかい?」
「タケノコご飯、私も随分と、食しました。あっ、もちろん生きていた時にですぅ」
「へえ。そうだか。あれれ? そーいや、もらってきたタケノコ、どこに行っただ?」
妹が周囲をきょろきょろと見回した。ペルはタケノコがどこにいったかを説明する。
「ぬらひょん姉さんが今、調理中だよ」
「え? え? 何をとち狂ったことを言ってんだ、お兄さん。わだすらにお姉さんなんてのはいないだよ」
「いや、いるよ! 君は中々、お姉ちゃんの存在を覚えようとはしないねえ……」
シンクの前にいるお姉ちゃんは、仏頂面でペルたちを見つめていた。
………………。
「ところで霊子さん、あんたは一体、どーしたら、成仏してくれるの?」
「ええええー。突然、何をおっしゃるのですぅ。私が邪魔なのでしょーか?」
「邪魔と言うか、あなた……僕は、憑りつかれてるんでしょ? 確かに本体じゃないけど、妙に最近、疲れるんだよねえー」
「売り飛ばしちゃいましょうか? お化け屋敷にでも」
と、お姉ちゃん。タケノコの調理を一時中断して、ペルの隣に立った。
ペルは眉間をぴくぴくさせながら言った。
「ね、姉さん、突然どーしたのさ。姉さんがそんな過激な事を言うなんて、珍しいね」
「本当に人に憑りつける悪霊。きっと、高く売れるわよ」
「高く売れるのぉー? いやいやいやいや、誰も買わないって!」
ペルとお姉ちゃんが会話しているのを不思議そうに見ていた妹も、ようやくお姉ちゃんの姿に気付いたようだ。
「あんれーーー。いつの間にやら、人がいるだー。はじめましてぇぇぇえええええ」
「………………99回目」
そして、霊子まで驚いていた。
「本当ですぅ。ビックラコイタですぅ。初めまして。この家の居候の霊子と言いますぅ。本当は、人間だった時の名前もあるのですが、未練が残るので、その名前は使いませーん」
………………。
お姉ちゃんは霊子を睨みつけた。視線というのはぶつかり合うと、バチバチと火花を散らす、という表現がある。しかし、なぜか一方的に、霊子の顔面で、本当にバチバチと火花が散っていた。もはや怪現象。
「いたたたたた。視線が痛いっ。一方的な視線が痛いですぅ」
「霊子さん、あなたは、私とキャラが被っているのよっ! 幽霊だけに『見えなくなる』っていうキャラ性がね。あなたがいたら、迷惑なの! ますます、私の存在感が薄くなるわっ! ただでさえ空気なのに、さらに空気になっちゃうからっっっ」
「いや、姉さんの場合、霊子さんがいてもいなくても、存在感は薄いままですからー。あと、姉さんの場合は視覚的に『見えなくなる』どころの特徴じゃないしー」
お姉ちゃんは頬を膨らませた。直後、妹と霊子がお姉ちゃんの事を思い出したようだ。
「思い出した! わだす、思いぃぃぃーーーーー出したっ! いつも優しくしてくれてる、わだすの本当のお姉さんだー」
「そういえば、私もお会いした事があるのですぅ。すっかり忘れてたですぅ。どうしてでしょうー?」
お姉ちゃんはずんずんと霊子の前にやってきて、腕を組んだ。
「ねえねえ、霊子さん。どーしたら、この家から出て行ってくれるの?」
「私は……じゃ、邪魔なのですぅー?」
「うん、邪魔。超邪魔っ! お願い、さっさと消えてちょーだい」
「ね、姉さんが……あの姉さんが、自己主張をはっきりとしてるっ! そんなにも、キャラが被った相手が近くにいるのが嫌なのかっ。こっちからしたら、全然被ってないように、思えるのにっ」
霊子は、お姉ちゃんの質問に答えた。
「まあ、何度か観察実験を一緒にできれば満足できますぅ。もしくは、生前に出来なかった願いが叶えられたら、幽霊として現世に留まる理由も消えますのでぇ、あの世に帰りますですぅ」
納得した。
霊は普通、現世には留まらない。死後、霊魂はそのまま、あの世に向うのが通例なのだ。霊子がそもそも現世に留まっていたのは、何かしらの未練があったからだろう。
「確かに最初は地縛霊として、死んだ後も、この世に留まっていたみたいだから、それなりに留まっていた理由もあるんだろうね」
お姉ちゃんは首を上下に動かして提案した。
「だったら霊子さん、あなたが何が原因で悪霊になってたのか、教えてくれる? なにか、事情があったんでしょ? それを私が解決してあげるわ。未練があったら晴らしてあげる」
「そうですねぇ……。なんでだったのでしょうかぁ……」
「どうして死んだの? 死因は?」
「交通事故ですねぇ」
「交通事故で、悪霊になるのかしら?」
「実は生前……というか、こちらのお母様に祓ってもらい、成仏させてもらえる迄は、ネチッコイそれはそれは陰湿な性格だったのですぅ。私は色々なものに逆恨みしていたのですよぉ。なんで私が死ななくちゃあ、いけないんだよ。私より死んでもいい人間なんて、たくさんいるじゃないかょぉぉぉーって」
確かに暗いっ。生前と死後直後の霊子は、現在の霊子と、かなり性格が異なっているようだ。ペルは霊子に言った。
「うわあああ。本当にネチッコイね。陰湿だね、霊子さんっ」
「私はまだまだやりたい事があったのですぅ。それを自由にやれる学生さん達が羨ましくて怨めしくて、呪い殺してやろう、って思ったのですぅ。ほら、自分が出来なかった事を、なんの苦労もなくやってる連中を見ると、ムカツクじゃないですかぁ。リア充シネシネって感じですぅ。っで、誰でもいいので、呪い殺してやろーと、学園をウロウロしてたところ、お坊さんに、お札の中に封じられた次第ですぅ」
……なるほど。
ペルは頷いた。
「そーだったんだねっ! 悪霊になったのは、そのジメジメした性格にも原因がありそうだね」
「っで、いつしか、お札も風化し始めて、僅かながらに、電波を送れるようになりましてぇ、誰か様にお札を剥がしてもらった次第ですぅ」
お姉ちゃんもうんうん、と頷いた。
「そうして雪ん子さんを呪い殺し、温泉地で桃子さんをも呪い殺そうとしたわけね」
「いえいえ。私は誰も殺していないですぅ。桃子さんという方は確かに呪い殺そうとはしてましたが、雪ん子さんは勝手にバナナの皮に転んで、頭をぶつけて死んだのですぅ。なぜか今は、生き返っていて不思議なのですがぁ……」
「僕らの学校に、不死子っていう死人を蘇生させる能力者がいるんだよ。確かに、雪ちゃん自身も、そういう死に方をした、とか言ってたなぁ」
お姉ちゃんは、霊子に再び質問した。
「まあ……どうでもいいけど、大量の相手を道ずれにしたい、ってのは本質的な願いじゃないでしょう。それは死後、悪霊になってからの希望よ。私はあなたが生前の希望を叶えたら、本当の意味で成仏すると思うわ。なにをやり残していたの?」
「そうですねぇ。生前にしたいと喉から手が出る程に望んでいた願い……きっと、どれか1つでも叶ったら、きっと満足して、あの世に帰るかもしれませんねぇ」
「だったら協力するわ! で、どんな願いなのかしら? お願い、教えてっ」
「しょ……」
「しょ?」
「処女を捨てれば、成仏するに違いないですぅ」
「よしっ! それなら簡単。ペルくん、やっちゃって! やっちゃって! 霊子さんを即刻、昇天&成仏させちゃってちょーだい」
お姉ちゃんは爆弾発言を投下。
「ええええええ。弟になに言ってるんだよ、姉さんっ?」
「おねがい、ペル君。お姉ちゃんのために、男になって、かえってきて!」
お姉ちゃんはペルに手を合わせて、頭を下げた。必死である。これまで黙って成り行きを見守っていた妹も、同じく手を合わせて頭を下げた。
「お兄さん、わだすにはよくわからないけど、男になるだー。男になってかえってくるだー」
「いや、すでに僕の性別は、男だからね。それに、誰でもいいわけじゃないんでしょ? 霊子さん?」
「ぽっ……。私は誰でもいいですぅ」
お姉ちゃんは喜びで、飛び跳ねた。
「やったーーい。ビッチ幽霊で助かったわ。さあ、ペルくん、血でベッドが汚れるのが嫌なら、私のベッドを使ってもいいから、ゴーよ!」
「ゴーって言われても、僕に選択権はないの? 逆に姉さんは僕のために誰かと関係を持ってと言われたら、やるの?」
「うん。やるっ」
「なるほどっ!」
即答だ。そして、訊いてもいない妹も、便乗してきた!
「わだすもやるだよ! 何のことかよく分からないけど、お兄さんの妹として、お兄さんのために、やるだ」
「いや、やらなくてもいいから……」
ふと霊子を見ると、慌てた様子で手を振っていた。
「待ってください、皆さん。ただしペルちゃんとの場合は、数年後ですぅ。私は未成年さんとは、体の関係は持たないのですぅ。法律的にもグレーですからねぇ。知っていますか、こんなニュースを? 恋人である女子高校生と破廉恥な行為をしていた、35歳の彼氏についてのニュースをですぅ。両親公認で交際していたはずの2人ではありましたが、女性の実家でチョメチョメしていたところを彼女の母親に見つかって、警察に通報され、彼氏さんが逮捕されたという事を」
お姉ちゃんは首を傾げながら訊いた。
「霊子さん、それは本当なの? 恋人同士なのに?」
「彼女の両親が、交際を認めていた上での通報ですからねぇ。逮捕ですからねぇ。なので、ペルちゃんでもいいとは言いましたが、成人するまでは、駄目ですぅ。私は逮捕されるような悪い事はしないのですぅ」
お姉ちゃんは、頭を抱えた。
「あと、何年かかるのよーーー。オーマイガーーーーーーーーーーーーーー」
「ちなみに、ペルさん以外では、触れ合っただけで衰弱していき、死んじゃいますから……」
「がぁぁーん。ちきしょーーーーーーーーーーーーーう」
お姉ちゃんは叫んだ。
「ね、姉さん……今日は、やけに弾けてるね。まるで別人のようだよ。それに、いつもなら、そろそろクールダウンして、存在感が薄まって、見えなくなるって頃合いなのに、かなり存在感が、続いているね」
「それは、私にとっての死活問題だからね! このまま霊子さんがでしゃばっていたら、完全に私のキャラが乗っ取られちゃうっ。皆から忘れられて、二度と思い出されない空気になっちゃう。それだけはダメダメダメダメーーーー阻止せねば」
「考え過ぎだと思うよ……。ちなみに、霊子さん、他の望みは、なんだい?」
「ガールズバンドを結成する事ですぅ。そして、アイドルデビューする事ですぅ」
「よし! それなら簡単だわ」
お姉ちゃんは、手を叩いた。
「いやいやいや姉さん、それは簡単な事じゃないですから」
「大丈夫よ、ペルくん。桃子さんを巻き込んで、ガールズバンドを作ればいいわ。彼女のキビ団子を、今の学園の生徒でもう食べようとする者はいないでしょうけど、私なら気付かれずに誰にでも、こっそり食べさせられるわっ!」
「うわああ。桃ちゃんのキビ団子と姉さん……すごい怖いコンボだね……」
お姉ちゃんは唇の端を捻りながら笑った。
「音楽プロデューサーにも、キビ団子を食べさせてやるわ! これでデビュー確実よ。だはははは」
「自分の存在感の薄さを自ら利用する事を、いつもは、あんなに嫌がっている姉さんが、積極的になってる!」
「桃子さんに電話しなくちゃ! ガールズバンド結成のために!」
お姉ちゃんはやる気だ。やる気で燃えている!
「うわああい。うぷぷ。本当に、叶っちゃうのですかぁ? 私、ドキドキしてきたですぅ。心臓は動いてないですけどぉ」
お姉ちゃんは桃子に電話をするも、桃子は出なかった。寝てるのだろうか? それともお姉ちゃんからの着信ゆえに、気づかれてないだけか? ここにきて、お姉ちゃんもようやくクールダウンしてきたようで、段々と存在感が薄まっていく。お姉ちゃんの本質は、熱しやすく、冷めやすい。
「あれれ? わだす、いま、誰かと話していたよーな」
「私もですぅ。どなたでしたっけ? まさか、幽霊だったり。ぶるぶるぶる」
「あんた、自分が何者か、忘れたのかいっ!」
ペルは霊子にツッコんだ。
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