第13話

 旅館の部屋割りでは、家族と同部屋となっていた。部屋には現在、ペルを含めて4人いる。3人しかいないように見えるが、空気なお姉ちゃんもくつろいでいるのだ。母はバックを開けるや、いきなり酒を飲み出した。荷物が多いと思ったが大量のアルコール類を持参していたようだ。


 ………………。


 妹がペルに話かけてきた。


「わだすたちは、風呂に行くだー。お兄さん。わだす、ここのお風呂で温泉卵を作ってもいいだかー」


「はい?」


「温泉で、温泉卵を作ろうと思って、卵をパックで持ってきただよー」


「へー」


「じゃあ。お兄さん、リュックを空けて?」


「え?」


「わだすのリュックは、お菓子がいっぱいで入りきらなかったから、生卵、お兄さんのリュックに入れておいたんだー」


 ………………。


 ペルは急いで、自分の背負ってきたリュックのジッパーを開けた。早く中を確認しなくてはいけない。


「げげげげげ。人のリュックサックに、生卵を勝手に入れちゃダメー。全然、気にしてなかったから! 卵が割れてリュックの中、めちゃくちゃになってるかもしれないじゃーん」


「どっしぇーー。わだす、そこまで考えがまわらなかっただ。無事だかー?」


 ペルと妹はリュックの中を覗いた。


 卵が割れてグチャグチャな状態には、なっていないようである。ペルは卵のパックを取り出した。


「一応、無事のようだね。ってか、卵って、うずらの卵?」


「んだんだ。スーパーのうずらの卵に、有精卵ってのが混じってる時があるって、テレビで放送されていたのを見て、ずっと温めていたんだけっど、全然孵化する様子がないから、温泉卵にして食べる事にしたんだべ」


「これまで温めてたってさ、それって、食中毒の危険性とかないわけ?」


「さあ? そん時はそん時だ」


「そん時はそん時って、白面ちゃん、もう、サバイバル生活してるわけじゃないんだからさ……あっ。殻が割れた」


「ふ、孵化しただっ!」


 ウズラの卵からウズラが誕生。ペルと白面はヒナのうずらをじっと見つめた。


「か、かわいいだー。生命の神秘を感じるだ」


「まさか温泉地に旅行に来て、スーパーで買ったうずらの卵が孵化するなんて、これは中々ない事だよ……でも、どーすんの?」


「え? 食べるんじゃないのけー? わだす、卵より、うずらの焼鳥が食べたくなって、温めてたんだー」


「食べるの?」


「だって、スーパーの食品コーナーで買ったんだべ」


「確かにそうだけど……」


 じーっと見つめる。ピーピー鳴いている。


「かわいいだ」


「そうだね。お母さんに、ペットにしていいか、訊いてみよう」


「んだ」


 既にほろ酔い気味になっていた母に聞いたところ、すぐに了承してくれた。


 ペルは温泉に浸かるために風呂場に向った。道中、浴衣姿の孫悟空と遭遇。彼も風呂に行く様子である。


「おっす、ペル。今から風呂か? オラもだぞ」


「丁度いいね。じゃあ、一緒に行こうか」


 ペルと孫悟空は、一緒に風呂場に向かって歩いた。その途中、ペルは恐る恐るといった様子で孫悟空にある質問をした。


「と……ところでさ悟空君、君に訊きたいんだけど、覗きに関しての……君の意見を教えてもらいたいんだ」


「はあ? どういう意味だ?」


「ほら、数多くのアニメや漫画、ラノベでは、温泉回と言ったら、覗きが王道じゃないか」


「だなー、確かにそういう回で登場するキャラクターたちは、誰かが覗きを行うねえ」


「僕たちも、それにならった方が、いいのではないのかな?」


「つまりは、覗きを行いたい、と? ムッツリスケベえな、ペルにしては、珍しく積極的に自分から提案してくるじゃねーか。オラ、少し意外だなー」


「な、ななな、何を言ってるんだよ。悟空君がしたいのなら、僕も付き合ってもいいかなーなんて思ったりしてねー」


 額から、汗が流れた。


 孫悟空は、あはははは、と笑った。


「おいおい。あれはフィクションの世界だから許されっけど、普通だったら事件だかんな。知ってっか? 昔、芸能界に越えられない壁というか、偉大な先輩がいて葛藤していたコメディアンがいたんだ。そいつ、ひと様の家の風呂場の覗きをして、逮捕されて芸能界を追放されたわけ」


「そ、そうなの?」


「そーだぞ! アニメとか漫画の作家はな、世間に無知なもんが多いから、主人公に異性の風呂場を覗かせて、それが見つかってしまう展開を描いても、投げられた桶でカコーンされてしまいにする。けどな、リアルな世界だったら、そうはいかないぞ。社会的な信頼も何もかも失う事になんだからなー。今後の未来が、壊滅的になんだぞ」


 孫悟空は真顔で言った。とても恥ずかしい気持ちになった。なんで先程、あんな事を言ったのだろうか。確かに犯罪だ。


「そ、そうだよね。ああ、僕は一瞬、悪魔にそそのかされていたようだよ。悟空君、忘れてくれ」


「あははは、ペル。とはいえ、異性の体に興味を持つというのは、自然な事じゃねーのかな。じゃあ、覗き見すっか?」


「え? えっ?」


「だから、覗き見すっかって言ったんだよ」


「おおおお! さすがは悟空君、潔いなあ。師匠と呼ばせてくれっ」


 ペルの中で再び悪魔が囁き出したようだ。孫悟空の背後に後光が見えているのかもしれない。


「呼んでくれ。呼んでくれ! あははは」


「でも、社会的な信用が失うとか壊滅的な未来になるとか、大丈夫なのかな」


「なんだ、オメー。自分から言っておいて、尻ごみしてんのか? 少年法が守ってくれるさ。あははは」


 孫悟空はニコリと笑った。


 ………………。


「悟空君、君は、とても今、あくどい顔をしているよ……」


「そっか? ところで、あとでまた、観察実験の打ち合わせをするらしーからよ。じゃあな」


 風呂場前に到着すると、孫悟空はペルに軽く手を掲げ、女湯に突入しようとしていた。


 おいおいおいおいおいおーーーーい!


「ちょっと待って。なに、何気に、女湯に入ろうとしてるんだよっ」


「うん?」


「覗きをするといっても堂々と女湯への正面口突入はないだろう、って言ってるの!」


「だって、オラ、女だもん」


「え?」


 首を傾げた。何を言ってるのだろう。


「だから、オラ、女なんだって」


「何を冗談を言ってるだよ。そんな事を言ってさ。学生服も、男用じゃないか」


「ああ。それは単なる趣味。ファッションさ。証拠を示してやるよ。ほら」


 孫悟空はペルの手を握り、自身の股間に持っていった。


 すると。


「ちょ、ちょっと……え? え? ない?」


「チョンチョンがねーだろ? それはオラが、女だから。わかったか? じゃあな」


「………………うん」


 ペルは女湯に入って行く孫悟空を唖然と見つめていた。なお、風呂に入った孫悟空は宣言通り、露天風呂の岩場をよじ登って顔だけを出し、男湯を覗き見した。運が良いのか悪いのか、露天風呂にはペルしかいなかった。


「おーい、ペル! オメーのチョンチョンみせてくれー」


「あほー、見せるかー」


「あははは。湯から出て、オメーのちっちぇーチョンチョンをオラに見せてくれよー。早く早く。あははは」


 ペルは近くにあった桶を持つと、孫悟空に向かって投げた。


 桶はカコーンと孫悟空の顔にヒット。ジャバーンと風呂場に落下した。


 まさかペルが桶を投げる側になるとは、思いもしなかった。

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