第36話
話によると、約6千年程前に、現在の怪盗ウサギ団となる3人とその親戚を含めたウサギ族たちが惑星『オツキサマ』より地球にやってきた。その目的は観光である。なお、移動手段として、宇宙空間を旅してきたわけではなく、瞬間移動をして地球に訪れたという。その時に使用されたのが『グロウジュエリー』である。真名『多種便利機能付き宇宙空間移動用エンジン』。蓄えたエネルギーを利用してのワープを行う事こそが、グロウジュエリーの本来の使い方であるらしい。グロウジュエリーはウサギ族にとって、人間にとっての家電製品と同じようなものであるということだ。一家に一台あれば便利な自動車程度な扱いなのだ。
ただし本来、ワープ用に作られた移動手段の機器ではあるが、勤勉でサービス精神旺盛なウサギ族の科学者が、求められてもいないのに様々な『おまけ機能』をつけた。その結果、蓄えたエネルギーは、ワープ移動する為だけにではなく、石ころを金へと錬成したり、生命を誕生させたりと、もう何でもありの道具となっていた。
かつて地球に訪れたウサギ族の一向は、とある地球の人間と仲良くなった。それがリンスの先祖である。笑い話として、こうした不要なおまけ機能がたくさん付いたワープ専用の機器――グロウジュエリーについて、おもしろおかしく話してしまった。
その後、リンスの先祖はウサギ族からグロウジュエリーを盗み、願い事をしたのだ。
「それは、どんな願いだったんだ?」
「我々に呪いをかける、という願いだったのでアリマス」
「その呪いがなければ、我々は、すぐにもオツキサマに還っていたですー。グロウジュエリー同様に自然界からエネルギーを集めるというテクノロジーを持っているですー。それを使えば、星に還るくらい、わけない事ですー」
「あなたたちも知ってる『准』以上の必殺技は、自然界から集めた、それらのエネルギーを使って『奇跡』を起こしていたのですワ。グロウジュエリーと同様にですワ」
「『子孫繁栄。そしてウサギ族が地球を出られなくなること』。これこそが小娘、てめーの先祖がしたグロウジュエリーへの願い事でアリマス」
「なんでよ。代々までの子孫繁栄ってのは、分かるけど、あんたたちを地球から出られなくするっていうのは、どんな意味があるわけよ?」
「欲……でアリマスね」
「グロウジュエリーが何度も、この地球で出現してるのは、どうしてか分かるかですー?」
「それは所有者である我々が、地球上にいるからですワ」
「つまり、所有者である我々がオツキサマに還ってしまっては、グロウジュエリーが地球上で出現しなくなる、とも話してしまったのであります。だからこそ小娘の先祖は、我々を地球に留めさせて星へ還さない、という呪いをかける事で、永久に地球でグロウジュエリーを出現させるよう計らったのでアリマス」
「だったら、地球に腰をおろせばいいんじゃないの?」
「……私たち3姉妹の他は、そうしたのですワ。つまり、オツキサマに還ることを諦めて、地球で暮らす事を選択したのですワ」
「それが現在のウサギ目となっているんですー」
「チャーミングでフワモコな可愛い……あのウサギたちは、みんな、我らのお父様、お母様、おじい様、おばあ様、そして他の親戚たちが不死を捨てた、なりの果ての姿なのですワ」
「本当なんか? なんか、嘘みたいな話だなー。僕にはその話、とても信じがたいぞっ」
「まあ、証明はしろと言われても、出来ないのでアリマスけどね」
宝石を奪われて星に還れなくなったウサギ族一行は、それでも尚、星に還るための手段を模索したという。
ロケットのようなものを作って直接帰ろうとするも、失敗が続いた。これは、呪いによる『地球を出られない』という『運命』によるものだ。例えば、ロケットが打ち上った際、『運悪く』、地球に降ってくることは稀でもある隕石が機体にぶつかってきたり等々……。
人間たちに奪われたレーダー探知機を取り戻し、グロウジュエリーを集めてオツキサマに戻ろうとするウサギ族もいたが、これに関しても『運悪く』最期まで集められた者がいなかったという。
多くの場合、なぜか『対立者』というものが現われ、彼らが集めきってしまうというのだ。まさに今回の怪盗ウサギ団が宝石を集めようとしたところ、その対立者である僕とリンスが現われたように、だ。
「お前達が、これまでスムーズに宝石を集めてこられたのは、幸運に頼ったところもあったんじゃないですかー?」
「なんで、そう思うの?」
「これまでが、そうだったからでアリマス! 私たちの親族で、宝石を集めきった者は誰もいないのでアリマスよ。対立者というものが現われ、不思議な幸運が、そいつらに舞い降りるのでアリマス」
「昔は、数年のスパンで宝石は誕生していましたワ。それが、数十年となり……現在は数百年単位での間隔……」
「何度も何度も、オツキサマに還ろうと、宝石を集める努力してきた親族も、一匹、また一匹と、諦め出したですー。そして、不死を捨てて、ウサギの姿となったですー。完全に、地球で暮らすために。星に戻りたいという気持ちを強く持っていても、戻れないという、そんな猛烈な葛藤から目をそらすために、この素晴らしい知能を捨てたんですー」
「確かに僕たち、意外な形でグロウジュエリーをゲットしてきたなー」
「ふん。それは、お前らが有能とか幸運とかではなく、実際のところは、我々のアンフォーチュンの副産物なのですワ。こういう言い方ができるのですワ。『私たちが宝石を集められないように、運命が、対立者に宝石を集めさせた』と」
ウサギ族の親族らは不死を失わせる薬を開発し、自らの体内に注入。ウサギ目になる事で、段々と数を減らしていった。知能がなければ悩みはしない。苦しみもしない。つまり、ウサギ族にとってこれは、人間でいうところの逃避……つまりは『自殺』に該当するものだという。
そして、地球に残ったウサギ族は3姉妹だけとなった。しかし、この3姉妹は決して、星に還ることを諦めなかった。そして遂にレーダー探知機を人間たちの手から再び取り戻し、6個のグロウジュエリーを集めかけた。だが、この時、再びリンスの先祖が彼らの前に立ちふさがった。
二女である、ばにーが策略に嵌められる事で、集めたグロウジュエリーとレーダー探知機を同時に奪われてしまったのだ。リンスの先祖は、『世界征服』を望んでいた。しかし、願い事を行う寸前で、レーダー探知機が壊れるというトラブルが起きた。身内での揉め合いというか、レーダー探知機の取り合いとなり、落として壊したのだという。そして急遽願い事の内容を『世界征服』から『新しいレーダー探知機が欲しい』と変更。そして現われたのが、現在リンスが持っている第二のレーダー探知機である。この時の、リンスの先祖には誤算があった。すでにグロウジュエリーの復活するスパンが数百年単位となっていたのだ。『世界征服』の願いは叶えられる事なく、このレーダー探知機はリンスが発見するまで、家の宝物庫で埃を被る事になった。
3姉妹はレーダー探知機を失い、深い落胆に襲われていたが、それでも星に還る事を諦めなかった。そして『怪盗ウサギ団』を結成。これまでグロウジュエリーが『宝石の形で出現する事が多く、類稀な魅力を放っている』という性質に着目し、数々の博物館等から、宝石を盗み出してはグロウジュエリーであるかどうかを調べる、という日々を続けていた。
そんな時、好機が訪れた。次に狙う博物館の下見にやってきた時、たまたま訪れた骨董屋で、壊れた状態のレーダー探知機を発見したのだ。
「あの時はビックリしたですー」
「うさぴょんお姉さまが、オシッコが漏れるって言いながら、トイレを借りに入ったその骨董屋で、売られていたのですから」
「しかも、300円の激安値段でアリマス!」
「当然ながら、すぐに購入したですーっ!」
「そして、それを修理したというわけなのですワ。人間には直せずとも我らには直せるものですからね」
レーダー探知機を再び手に入れた3姉妹は、グロウジュエリーの反応が検知されるのを待ち続けた。そして、桃源郷の僕の家を訪れる運びになったという。
「我々一族は、その宝石を何千年も探し続けてきたんですー。決して集める事ができない、そういう運命だと分かっていても諦めずに探し続け、ずっと運命に抗い続けてきたんですー」
「そして、現在、待望し続けた6つの宝石が揃って、目の前にあるという状況でアリマス」
「更に言うなれば我々はこれを最後であるとも、考えているのですワ」
「グロウジュエリーにも寿命があるですー。延び続けている、宝石の復活のスパンから推測して、もうこれが最後。運よく、あと1度か2度、願いを叶えられるかどうか、といったところですー」
「その為に、この数千年間、溜め込み続けたエネルギーの全てをアジトから持ってきて、勝負をかけたのでアリマス。……が、この塔を登る際に、それらエネルギーをほぼ全部、使い切ったのでアリマス。つまり、准必殺技以上の『奇跡』を起こす必殺技は、もう使えないのでアリマス」
「我々の戦力は、本当の意味で空っぽになったんですー」
「ふーん。なるほどね。事情は分かったわ」
「譲ってくれるでアリマスか?」
「やーだね。ボインの方が大事だもーん」
「こ、この小娘! 若干は、心が動いてくれるかと期待していたのですが、やはり、でしたワ」
「あわよくば同情を誘おうと思っていたですーが、やはり動じなかったですー」
「だって、あなたたちが星に還っても還らなくても、私のボインには関係ないでしょ?」
「この薄情者めぇええええ」
「リンス、オメー、すげーゲスだな」
「モモくん、忘れないで。私たちは、こいつらに何度も殺されかけてるのよ」
「ああ。そっか。そーだった。僕も殺されかけてるんだっ」
「あ、あれは、小娘が『繁栄』しているのが腹ただしかったからでアリマスよ」
「『子孫繁栄』という点について、小娘を殺す事で反故にできるのなら、その後に続く『そしてウサギ族が地球を出られなくなること』という文言の願いも、キャンセルさせれると思ったからですー。呪いを解く為ですー。本来、我々ウサギ族は殺傷を好まない種族ですー」
リンスは強張った表情で言った。
「その割には漂流させて殺そうとか、無人島で放置して殺そうとか、地下遺跡に閉じ込めて殺そうとか、悪質なやり方での殺害を企ててきたわよねー」
「それは、こいつらが、同じようにオメーにも『帰りたくても帰れない苦しみ』を味あわせたかったからじゃねーのか?」
「そのとーりですワ、小僧」
「モモくん、あんたも巻き添えで殺されかけてるんだからね」
「あっ。そっか。僕も、巻き添えで殺されかけてたんだっ! こんにゃろー」
「ぐぐぐ。小僧には悪い事をしたと思っているのでアリマス」
「話は、これまでかしら?」
「そ、そうですー……」
「残念だけど、私の回答はこう。『ボインになるお願いをするのに、邪魔だからどっか行ってて』」
冷静にそう言いきった。
「オメー、本当に血も涙もないなー」
「どれほど、オツキサマがいい星なのかは知らないけれどさ、地球に住むのが嫌? どこも住めば都なの。帰りたい帰りたいばかりで、ここを第二の故郷にするという選択肢がない時点で私はね、地球をバカにされた気がして腹立たしいわ。さあ、モモくん、追い払っちゃって」
「………………わりーなー、オメーら。僕は深く同情したけどさ。リンスも本気でボインになりたいって思っているんだよ。強い想いでさ」
僕が追い払おうと3姉妹に近づいたところ、うさぴょんが手を前にかざした。
「待て、小僧。我らは、お前らに勝負を申し込むですー」
「おう。受けて立つぞ」
「やっちゃって、やっちゃって! 申し込まれたら、どんどん受けちゃっていいわよ、モモくーん。私が許可するわー」
更に僕は歩いて、3姉妹に近づいた。
「ま、待つのですワ。単なる力勝負ではないのですワ。暴力はんたーい!」
「は?」
3人が同時に懐から、豆粒のようなものを親指と人差し指で挟んで掲げた。
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