第33話

 ちゅどーーーーーん、と大爆発が1階塔内部で起きたからだ。そして、カランカランと、ロボットのもぎ取られた腕が、入り口前に転がった。


「い、いきなり勝っちゃった……」


「すごい大爆発だったなー」


 ナンマイダブとリンスは目を瞑った。僕も黙とうした。


「うふふ。全てが上手くいってるわ。さあ、モモくん、壁登り再開よ」


「おおっ!」


 僕は158キロの高さにある屋上に向かって、壁登りを再開した。


「しかし、びっくりしたぞ、いきなり大判ふるまいな勝負をぶっかけたなあ。本当に屋上にあいつらが先に到着したら、宝石を渡す気だったんか?」


「さーあね」


「さあねって、おい……」


「あの場を、とりあえず切り抜ける為よ。やつら、嘘をついたつかないかで悩んでいたけど、心変わりでもされてみなさいよ。こないだのような、メチャクチャな力で私たちを攻撃して来たら、きっと私たち死んじゃってたわ。しかも壁にひっついている状況で逃げ場がないときている」


「なら、やつらが、最初に屋上に到着してたら、どうするつもりだったんだ?」


「それはない。塔の内部には各国の軍隊などがこれまで、遺跡調査等で幾度も入ったりしてきたけど、生きて帰る者は1人もいなかったわ。人類がこれまで確認すらしていない、更におっかない古代生物も中にいるかもしれないのよ。ありえないから。うふふふ」


「わっかんねーぞ。あいつらなら、屋上までやってきてたかもしれない」


「まあ、そうだとしても、あの球体ロボはエネルギー式のようだからね。砂漠での時は、超必殺技ではなくて、准必殺技っていう、もっとランクの低そうな技でエネルギーが空っぽになったと言ってたじゃない。必ず内部でそういう技を何度も使うわよ、きっと。だから仮にやつらが先に屋上に到着していたとしても、きっとさっきよりも脅威ではなくなっているはず。そこを叩けばいいと思ったわけ」


「お、オメー。あくどいやつだなー」


 目を細めて見つめた。


「知能戦って言ってちょうだい! まあ、そういう計算も、あいつらが爆発してリタイヤした事で早期に終わったって……あれれ?」


「どうした?」


「あいつらからもらった発信器を見たら……あいつらの反応がまだ動いているのよ」


「えええええ。まじかー。しぶといやつらだな」


「……でも、まだ地上から20メートルしか進んでないわ。私たちはもう6キロも進んでいるみたい。ラクショーよ」


「ラクショーって、僕まだ残りが、これまでの何倍あるのかを頭の中で計算して、かなりショックを受けてるぞ。思ったよりも、疲れるー。腕がプルプルしてきたー! もう限界だあああっ」


「頑張って。モモくんなら大丈夫よ! 頑張れ頑張れ。私がボインになったら、美味しいもの、たらふくご馳走するわ。それだけじゃなく、うちのお抱えシェフに料理の神髄を伝授させるからさ。モモくん料理するの好きなんでしょ?」


「おお、好きだぞ。本当か? マル秘レシピとかも、色々教えてもらえるんか?」


「教えてもらえるわよー。マル秘でもバツ秘でもサンカク秘でもシカク秘でもー! だから頑張れー」


「おーし、僕、やる気がでてきたっ。しっかり掴まってろよー」


 魂に火が灯ると、キビダンゴを追加で食べてもいないのに、途端に疲れを感じなくなった。おそらく、そういう脳内物質が頭の中で分泌されたからだろう。僕は急ピッチで塔の壁をよじ登った。そして、雲が広がる高度に突入した。塔から見る景色は絶景でもあった。


「なあ、リンス」


「なーに?」


「オメーのご先祖、一体、何をやったんだよ、怪盗ウサギ団のあいつらに。しかも、2度も」


「知らないわよ。そもそも、ご先祖さんと会った事がないもの。ご先祖さんだけにねっ」


「そりゃそーだろうけどさ。なんか気になることを言ってたからさ」


「言ってたっけ?」


「オメーを殺すことが『呪い』を解く可能性に繋がるとか」


「そうだっけ? 記憶にないわあ。今の私が興味があるのはボインのみよ」


「オメー、やっぱりすげーやつだよ。田舎者だった僕も最近じゃ、一般常識ってやつを身につけたんだ。一般常識によるとな、普通、ボインために、ここまで命の危険をおかさないんだぞー」


「それは人それぞれよ! 価値観なんて個々で異なるのは当たり前のことなの。たわわに実ったオッパイが、世界平和と同等くらいに大事な人だっているんだからねっ!」


「………………ふーん」


 僕は再び塔の壁をよじのぼった。そして成層圏を出たところで下を向いた。


「すげー、地球が、青いぞ!」


「すごいわね。こうした場所で私たちが呼吸をしている事も凄いわ」


「もう、地上がはっきりと見えねーよ。怪盗ウサギ団のやつらは、どこらへんだ?」


「えーと、どれどれ。あら、18キロ地点まで登ってきているわ。意外に善戦してるわね。さっき見た時は13キロ地点で、ずっと停滞してたのに」


「ちなみに、僕たちは?」


「私たちは、62キロくらいかしら。18キロと62キロ! かなり差がついているわね。それに、便利ねこの発信器、高度が分かるってすごいわ」


「はひぃー。もう、疲れたぞー。僕、もう何時間も登ってるから」


「じゃあ……ちょっと、ここらで休みましょうか?」


「どーやって休むんだよ」


「うふふ。これよ!」


 リンスは、リュックから小包のようなものを取り出した。


「おいおい。オメーのリュックに入れてたのは、石だけじゃなかったのかよ。重くなるだろ」


「これは大事なものなの。この塔を一気に登ろうとは、さすがに思ってないもの」


 リンスが小包についていたボタンを押すと、シュルルルと、膨らんでいった。そして、尖端にある吸盤の様なものを塔の壁にくっつけ、固定した。なんと、吊り下げ式のテントが完成した。


「すげーーー。かっこいい。なんだこれ」


「壁吊りテントよ。本来、ロッククライミングをする人は、一気に崖を登り切れない時に、トンカチなんかを使って杭を岩壁に打ち込んで、こうした壁吊り式のテントをはるの。でも、この塔の壁は核爆弾でも壊せない素材だから、強力な吸盤で吊るす事にしたのよ。さあ、中に入りましょ」


「おう」


 僕とリンスはテントに入るや、栄養補助食品を食べてすぐに眠った。翌日、目を覚ますと再び壁登りを再開する。怪盗ウサギ団は朝の時点で、34キロの地点まで迫って来ていたようだ。とはいえ、34キロと62キロ……差はまだ倍近い。


 その後、105キロ地点で、再び同じようにテントを壁に吸盤をくっつけて吊るし、休息をとった。さすがに、この時点では僕の腕も無視できない程の疲労が溜まっており、壁を登ることが辛くなっていた。キビダンゴも大量に食べ続けたのは初めてだ。一方、怪盗ウサギ団は62キロ地点でしばらく停滞した後、一夜明けた現在では83キロ地点まで一気に距離を伸ばしたようだ。83キロと105キロ……まだまだ、僕達の方がリードしている。しかし、距離は着実に縮まっていた。おそらく塔の内部は、古代生物の密集率や戦闘力などにより、スムーズに進める箇所と、そうでない箇所の二通り、あるのかもしれない。テントの中で、リンスは発信器を見つめてプルプルと震えていた。


「まずいわ、モモくん。あいつら、きっと眠らずに突き進んでいるのよ。なんて卑怯なっ!」


「いやいや。それは卑怯とは言わねえと思うけど……というか、僕の腕がまだプルプルする。きょうは一日、このまま休ませてくれー」


「えええ! だめよ、だめだめ。どうしても? あと、ひと頑張りじゃない。さあ、テントを出て、出発しましょうよ」


「2日かけて105キロ登るなんて、どれだけ大変な事か分かってんのかー。そもそも、これはボディーガードの仕事なのかー」


「お願い。マル秘レシピ……マル秘レシピ……」


「……よし、のぼっか。あと、60キロくらいなら何とかなるっ」


「そうこなくっちゃ! 負けてられないわ。えいえい、おーーーーう」


「ぉーーーーーーーぅ」


 僕はキビダンゴを食べてから、リンスを背負ってテントを出た。残りの距離を一気に登る事にした。現在、僕たちと怪盗ウサギ団との差は105キロ、マイナス、83キロで、22キロも離れている。そして、これまでの僕と怪盗ウサギ団の純粋な上昇スピードを比べたところ、僕の方が早い。というのも壁を登るだけなので障害物が何もない為である。この調子でいけば僕たちの勝利は間違いなかった。

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