第30話
僕とリンスが冒険を始めた日から数えて357日目にし、ようやく6個目――おそらくは最後のグロウジュエリーの反応が検出された。
グロウジュエリーというのは世界中で複数個発生するが、特にその数は決まっていない。つまり6個出現する保証はないのだ。願い事をしないままでいると、最初の1つ目が出現してから約1年間……365日でその宝石の効力が一斉に消えるという言い伝えも残されており、リンスは日に日に焦っていた。なので、反応を見つけた時には、大喜びをしていた。ぎりぎり間に合った、と。しかし、その位置情報を確認するや、顔を青ざめさせた。
その場所は人が決して入ってはいけないとされる、禁断の場所だったのだ。
リンスは自社衛星というもので撮った写真を、僕に見せてきた。
「モモくん、グロウジュエリーが……確認できたわ」
「どれどれ……」
写真には、不思議な色が混ざり合った虹色の宝石が写っていた。
「これが、本当のグロウジュエリーなんか?」
「伝承によると、グロウジュエリーはこのした色とりどりのカラフルな宝石が多いらしいし、レーダー探知機の示す位置情報とも、合致するわ。これに違いないわ」
「ふーん。だったら、これをゲットすれば、オメーの目的は成就されるってわけだな?」
「そうなのよ。ただ、それが一筋縄ではいかない場所にあるわけなのよ」
「そうなんか?」
「禁断の地……人類が諦めた土地にあるの。昔、マチュピーチュンっていう遺跡があったんだけど、そのすぐ近くの場所ね。ああ、どうしよう。行きたくないわ。でもボインになりたい……」
「はっきりしねーな。行きたくないなら、諦めろよ」
「いや、行くっ!」
「行くんかああー」
相変わらずブレない。
「危険だけど、行くわよ! これまでボインの為にずっと努力してきたんだから。危ない橋を渡ってきたんだからっ」
「ちなみに、禁断の地って一体、どんなところなんだ?」
「簡単に言うと、古代生物がうじゃうじゃいるところね。『巣』といってもいいわ。もしかしたら、新しい古代生物がそこで誕生して、世界に出ているかもしれない、とも言われているくらいよ。ほら、随分と前にだけど、ガメーランっていう巨大亀と遭遇したでしょ? あれも、この『塔』から出てきた古代生物なの」
「そーなんか、あいつ、かなり強いやつだったな」
「普通はね、新しい遺跡が発見されたら、その周辺で眠っている、巨大生物の1体から2体が目を覚まして活動を始めるわけ」
「砂漠にいた、あの大ミミズみたいにか?」
まだ記憶に新しい。
「その通り。あれは、怪盗ウサギ団が、砂漠の古代遺跡の入口を解放した為に、連動して大ミミズの活動が始まったんだと思ってる。そんな古代生物が、この塔にはうじゃうじゃいるわけ。1匹や2匹どころではなく、大量にね」
「だったら、その塔に近づかないよう迂回して、グロウジュエリーを拾いに行けばいいんじゃないの?」
「無理よ。だってその写真のグロウジュエリーは、その『塔』の屋上で撮影されたわけだもん」
「……ふーん。グロウジュエリーが、塔の屋上で、ね……変なの……」
「そこに出現したんだから仕方がないっ! ちなみに、塔といっても、その広さは直径十キロ。高さは158キロはあるのね。つまり、屋上は『標高158キロ』の地点にあるってこと。なお、比較対象としての富士山は『標高3776メートル』よ」
「く、空気あるのか? 息が出来ないだろー。というか、高山病にかかって、さらには凍死するから。オメー、100メートル高くなる毎に気圧が下がって、0・6度づつ寒くなるんだぞ。そこんところ、分かってんのか! 成層圏を完全に飛び出てるからっ! マイナスの世界じゃないかよっ!」
背筋にゾゾゾと悪寒が走る。
「モモくん……最初に出会った頃と比べて、妙に知識をつけたわね。なんだか寂しいわ」
「毎日、テレビを見てっからなー」
「大丈夫よ。たぶん……宇宙から塔の屋上に着陸した冒険者がいるんだけど、何とそこには空気があって、さらには気温も20度くらいだったらしいの」
「おお。そうなんだ! 僕、アンビリーバボーっ!」
「ただし、塔の屋上には、ライオンにも似た、巨大な古代生物がいてね、その人、この情報を通信した後に、死んじゃったけどね。『ベヒーモス』って呼んでいる巨大生物……今回の写真にも写ってるわ。あまりにも動かないから、古代人の作ったインテリアと思ってたのでしょうねー、その当時の人たち」
「大丈夫なんか? その屋上にいるベヒーモスって古代生物への対策は? というか僕閃いちゃった。『ヘリコプター』なんかで屋上に向って、釣竿みたいなのを垂らして、宝石をゲットすればいいじゃん」
しかし、リンスはかぶりを振った。
「残念。それは無理よ。そもそもヘリはそんなに高くは飛べませんっ! 屋上には本来ないはずの空気があるとも言ったでしょ。温度も普通とは違うって。これは、塔の周辺に、透明な壁があるからだと、考えられているわ」
「透明な壁?」
「大昔の人はね、この塔を発掘した時、中の巨大生物を積極的に攻撃して、根絶やしにしよう試みた時があったの。現在襲ってはこなくても、巨大生物は将来的なリスクになるからね。そこは、どぅーゆーあんだすたんど?」
「いえすあいどぅー」
「人は将来、害敵になるだろうスズメバチの巣を発見した場合、駆除しようと考えるものなの。それが普通の考えね。スズメバチ一匹一匹に対してではなく、巣を攻撃しての駆除を行うわけ。一網打尽にするって事ね。当時も同じように、発掘と共に、突然姿を現わした巨大な塔の中に棲んでいる古代生物を塔ごと根絶しようと、各国の軍隊が『核爆弾』という兵器を、そりゃあ、ありったけ塔に向けて発射したの。でも、その『透明な壁』に遮られて、塔に傷一つ与えられなかったわ」
「外から駄目なら、内部からその核爆弾で壊せばいいじゃないのか?」
思いつくままに言ってみる。
「勿論、それも試みたそうよ。透明な壁は塔の入口部にはないみたいなの。でも駄目だった。どんな材質で出来ているのかは分からないけれど、塔の内部で核爆弾を使っても、内壁を欠けさせる事すら出来なかったそうなの。……っで、その時に撒き散らかした放射能による汚染が原因で、人は塔の周囲に近づかなくなったわけ。これが、禁断の地……人類が諦めた土地と言われるようになった由縁ね」
「放射能って人の染色体を変えたり、細胞を破壊したりする、おっかねえ波動だろう? もうそれがある時点で僕達も近づけねえじゃないのか」
「大丈夫、今のは何百年も前の話だから。もう放射線による危害は、ほぼ受けないと思うわ。たぶん……」
「たぶん、かいっ! 僕、心配だっ!」
本当に心配だ。
「塔での一番の問題はね、屋上に辿り着く事だけど……たぶん、何とかなるわ。作戦があるの」
「作戦? どんなの?」
「それは現地に到着するまでは内緒よ。だって、モモくん……『行くの、やだ』とか言い出しかねないんだもん」
「ほんまか? 僕、それを聞いて、逆にワクワクしてきたぞ! 一体、どんな無理を言ってくるんだろう、ってな。早く出発しようぜっ」
「ふふふ。たった今、モモくんの奥底にドMな一面を発見したわ。今後はモモくんを上手く扱うために、その性質を上手く利用させてもらう事にするわ」
「すげーな。オメー、策士だな。やっぱり、すげーやつだよ。当人の目の前でそんなことも、普通は言わねえーぞ。肝も据わってんなー」
「うふふ。もっと褒めてちょーだい」
「すげーすげー! すげーよ。すげすげーすげーーーーゲスゲスゲスゲスー」
「あれ? なんだか途中から……いや、いいわ! さあ、行きましょうか!」
「おうっ!」
こうして僕たちは古代遺跡であり、古代生物たちの巣でもあるという禁断の土地……『塔』に向って出発した。近場までは空路で向かい、そこから更にレンタルしたバイクで向かうのだ。なお、この塔に近づくにつれて、人の姿が見えなくなっていった。塔周辺には古代生物が闊歩しており、人は居住を構えない。その為、距離的に一泊だけ道中で野宿する必要があった。
僕たちはテントを張り、焚き火をし、飯ごうで飯を炊いていた。その時、僕たちが岩壁だと思って背中を預けていたのが、巨大なカタツムリだと分かった。
「う、うわああ。なにこれ、目? 目なの?? いや、ツノっ!」
突如、伸びてきたカタツムリのツノが僕達に反応するも、すぐに興味がなさそうに戻していった。僕たちは小声で話し合った。
「モモくん、逃げるわよ。私は火を消すから、モモくんは荷物をまとめて」
「おうっ」
音を出さない用に荷物をバイクに乗せ、押しながら移動した。そして十分に離れた場所で、再び野営を再開した。
「いやあ。ビックリしたわね。いきなり古代生物と遭遇するなんて、幸先が思いやられるわ」
「でっけーカタツムリだったなあ」
「塔に近づいているわけだから、またいつ遭遇してもおかしくないわよ。さっきの奴は好戦的ではなかったけど、モモくん、いつでも動けるよう、心の準備をしておいてちょうだい」
「分かったぞ! でも、僕が想像していたよりは、随分と静かな土地なんだな……もっとわんさかいて、わんさかわんさかと活動していると思ってたけど」
「古代生物って基本的に、動かないのよ。寝るのが好きみたい。それに、こちらから仕掛けない限りは攻撃的でもないわ。それが人類がまだ存命していられる理由でもあるけどね」
「そうか? 砂漠の巨大ミミズ……あれ、僕たちを積極的に襲ってきたように思えたけど」
「多分、遺跡の防衛のためじゃないのかしらね。不審者を排除しようって。これまでにも、そういった事例はあったわけだし」
「ふーん。古代生物って一体、ナニモンなんだろうな」
「気になるの?」
「うん」
素直に頷いた。
「あれはね、古代人の兵器って説が有力ね。生態系はまだよく分かっていないけど」
「そーいや、古代生物って食べ物とかは、どうしてるんだ?」
「食べなくても平気らしい。エネルギーをどこからともなく生成しているそうよ」
「そんな事できるの?」
「体内で、核分裂を起こして、そのエネルギーで活動しているとかしていないとか……まあ、私たちにはどーでもいい話ではあるけどね。あんなのが食欲旺盛なら今頃、地球上の有機物がほぼ絶滅状態になってるわよ」
「よかったなー」
「基本的にやつらも不老不死でもあるわ。ただし、特定の遺跡から離れて、自由徘徊を始めたら、なぜか寿命が10年前後で尽きるっぽい。だから、ほっておくのが一番なのよ。古代生物のいる遺跡には近づかない。古代生物がやってきたら、ただただ逃げる……それが現在の国際的な考えね。天災みたいなものかしら」
「ふーん」
僕は遠くにそびえる塔を見つめた。月明りに照らされ、神々しい印象すら感じた。とても大きく、塔は雲を突き抜けて、さらに伸びていた。
「今日はもう寝ましょうか。明日はいよいよ最後のグロウジュエリーのゲットに挑戦よ」
「やったな! ついにボインだなっ!」
「うふふ。モモくんには、一生死ぬまで、ボインになった私のポロライド写真を送ってもらえるという、めちゃんこハイパーな報酬もつけてあげるわ」
「いや、それは別にいらない……というか、ゴミを送り続けられても困る……」
「もー、恥ずかしがっちゃって。うふふふふ。じゃあ、寝よーっと。ぐーぐー」
「うわああ。いきなり寝やがった。いつみても、その特技には、僕びっくりさせられるぞ。すげー、すげーよ、オメーは。よし、僕も負けずに寝るかっ」
僕も眠りにつく事にした。
そして翌日、朝食をとった後、すぐに塔へと出発した。そして正午前には到着した。
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