第26話

「うわあああ、なんだこりゃ。お、おい、リンスっ!」


 僕のすぐ横で、リンスも同じように手錠をかけられた状態で眠っていた。僕は急いで体を揺すって起こした。リンスはまだ眠そうに瞼を開いた。


「モモくん……もうちょっと、寝かせてよ……」


「おい! リンス、起きろ! それどころじゃねえぞ!」


「……あと、5分だけ……」


「5分も待てられっかー、起きろ。おい、起きるんだっ」


「もうもう、5分ぐらいいいじゃないの……どケチね……って、あれれれ? なんじゃこりゃああああああ!」


 リンスは自身の手足にかけられた手錠を見て、目を剥いた。


「モ、モモくんまで! なんで、私たち、手足を拘束されてるの? どーなってんのよ?」


「知らねえよ。僕も目を覚ましたら、こうなってたんだ」


 僕とリンスはふと、前を向いた。すると、そこには3人の女が同じように手足を拘束された状態で座っていた。なぜか3人とも和服姿で、頭に『ミミ』の様なアクセサリーをつけている。それぞれ5歳程の幼女、十代後半の少女、三十代の大人といった外見だ。そして3人共、整った顔立ちをしていた。リンスは軽く会釈をして話しかけた。


「あの……あなたたちは、誰でしょうか? どうして、ここに捕まっているのですか?」


「………………」


 無言。僕も3人に話しかけた。


「おい。教えてくれよ。僕たち、わけもわからないうちに、ここにいるんだよ。これは一体、何なんだよ」


「………………そんなの、知らないですー」


 幼女が、ぷいっと顔を背けながら応えた。


「あれ? どこかで聞いた事のある声ですね。もしかしてテレビか何かに出演なさって……って、その喋り方はっ!」


「まさか、オメーら……」


「き、気のせいでアリマス。ウサ……ひ、人違いでアリマスよー」


 十代後半程の女の子が、かぶりを振りながら言った。


「そうですワ。我々を怪盗ウサギ団と勘違いしないで頂きたいのですワ。ウサギ……ひ、人違いですワ」


「ああああああ。何をいってるですー! あいつら、一言も『怪盗ウサギ団』なんて、語彙は発してないですー」


「す、すすすすすす、すみません、うさぴょんお姉さま」


「だああああ、こっちから身元を明かして、何してるでアリマスか!」


 30代ぐらいの妖艶な美女が、ぷんすか怒っている幼女と少女に、本当に申し訳なさそうに謝っている図は、妙にシュールに思えた。


「オメーえら、あのロボットの中の人だな。砂漠で爆発したと聞いてたけど、僕は死んでないと思ってたぞ」


「あの球型ロボットの操縦者の人たちはあんたたちだったわけかー。このやろー。何度も私たちを殺そうとしやがって。許せないわ! 許せないわ! こんちきしょー」


「落ち着くんだ小娘。あと、我々は人ではないのですー! ウサギ族ですー」


「もうバレてしまっては、隠し通す必要もないでアリマスね。そうでアリマス。ここで、ミジメにも人間ごときに囚われてしまっている我々こそが、誇りあるウサギ族、怪盗ウサギ団でアリマス。しかし、今は誇りどころか、埃を被っているような状態。ミジメでアリマス」


「ふん……、存分に笑うといいですワ。ドアホウな我々を、思う存分に笑うといいのですワ」


 とても自嘲いるようにみえる。


「いや。僕たちも同じく捕まってるんだから。というか状況がわかんねー。一体、どうなってるんだよ。確か僕たち、遭難して一軒の家を見つけて、そして助けを求めたんだけど……」


「ふーん。まさに、私たちと同じ状況だったのですねー」


「そうなの?」


「我々が、ここにグロウジュエリーを探しにやってきたのが11日前なのでアリマス。最後の6個目の出現を目前とした中、ここは1つでも我々が所有しておきたく、5つ目の宝石の反応が検出されるなり、おまえらに先を越されないよう、急ぎで南極に駆け付けたのでアリマス」


「しかし、その時にトラブルが発生したんですー」


「出発時に潤滑油の容器を、あまりにも急いでましたので、蹴飛ばしてこぼしてしまったという不手際ですワ。それで、通販で新しいのを注文しようとするも、発送まで2日もかかるという事でしたワ」


「なので、近場のホームセンターに行って、そこで安売りしていた、スキンクリームで代用したのでアリマス。それが不幸の始まりでアリマス」


「こちらでの捜査中、グロウジュエリーを発見した直後に、マシーンが動かなくなってしまったのですワ。あまりの寒さでか、潤滑油代用のスキンクリームのせいなのかは、現在調査中ですワ」


 リンスは渋い顔になって言った。


「………………それって、動かなくなって、当然じゃないのかしら。というか……よく、そんな状態で、南極まで来られたわね。私にはそこが驚きっ」


「だから、私は言ったんですー。スキンクリームなんかで代用できるわけがないって」


「あらら? あらら? うさぴょんお姉さまだって、スキンクリームの爆安値段を見て、顔を縦に振ったでアリマスよ?」


「あ、あれは、心に悪魔が舞い降りてきたんですー! 立て続けにマシーンが壊れて、貯金が激減していたんですー」


「私は思ったのですワ。あそこでは、やは……」


 ってな具合で、ウサギ族を名乗る3人は代用した潤滑油を巡っての言い争いを始めた。それは、とても低レベルな言い争いだった。

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