第23話
南極都市について――南極はかつて誰も住んでいなかったらしいが、温暖化反対団体やらが、南極に定住して温暖化についての抗議するという活動を行ったを最初の一歩として、インフラが整備された。そして、現在の都市の前身となった。更に数十年後、いつか遠くない未来に、火星やらに移住する際のモデル都市としても認定され、様々な国からの援助を受けて栄えた。そういう歴史を持つ南極都市は、巨大なドームに覆われており、巨大なかまくらの様な形をしている。都市への出入口はやや低い位置にある。暖かい空気は冷たい空気よりも上に上がるという原理を利用していて、中は暖かい。なお、この暖かい空気を作り出すエネルギーは、都市から離れたところにある、原子力発電所で作られているそうだ。
「またかよっ。どーせ、これまでみたく、古代遺跡が近くにあるってオチじゃないのか」
「いいえ。違うわ。だって、ほら……見てよ」
「……文字が読めねえ……」
レーダー探知機には文字が書かれてあった。しかし、僕は文字が読めない。
「つまり極寒過ぎて、使用不可って事。もっと暖かいところで検索をしてくださいって表示があるのよ。5メートル以内の探知は、なぜかできるみたいだけど、広範囲の探知については、最低でも周囲の温度が10度以上である事が必要不可欠らしい」
「めんどくせー機械だな。だったら、さっきの街まで戻って、そこでもう一回検索して戻ってくればいいじゃないか」
「馬鹿なの。そしたら、また同じじゃない。まあ、今回については解決策が色々と思い浮ぶけれど、まあ……いつものように、それらしい宝石を拾って、都市に戻りましょうか」
「えー。それらしい宝石っていっても、これまでのグロウジュエリーの見た目は、どれもが、ふつーの石だったぞ。ちっちぇー砂粒って時もあったしなー」
「でも、いつも、なぜか、モモくんがなんの考えもなく拾ったりする、そんな石ころがグロウジュエリーだったじゃない。私はね、こう分析したの。モモくんって意識せずとも無意識下にグロウジュエリーを探し出す、探し物の大天才ではないのかな、と。きっとね、脳のとある部位が、無意識に何かを感じとっているのよ」
「ほお……なるほど」
「というわけで、適当に幾つか、宝石を持ち帰りましょう。まあ、レーダー探知機が反応した位置は、ここら辺からだしさ」
「ふーん。じゃあ、こいつ」
僕は無造作に氷の壁から、氷の塊をポキン、と取ってリンスに渡した。
「なに、これ?」
「グロウジュエリー」
「………………はあ?」
リンスは眉間にしわを寄せて、僕を見つめてきた。
「これ、氷だよね? どぅーゆーあんだすたんど? 氷じゃないの。石を探してるの、私たちは!」
「それは分かるけどさ、ここに……石なんてないじゃん! 全部、雪か氷じゃないか」
「確かに……宝石はないわね……辺り一面が、氷か雪原……よね」
「もう、この氷がグロウジュエリーって事でいいじゃん。前回の砂漠の時もそれでオッケイだったんだから」
「あの時はあの時。今回は今回! これ持ち帰っても、溶けて水になって終わりだーーーー」
「クーラーボックスに入れておけば、問題ないっ!」
「モモくん、あんた、早くここから帰りたいから、適当な事を言ってるでしょう」
「だって、氷しかないところで、石を探すのは無意味だと僕は思っているからなー」
「あるのっ! 探すのよ! 逆転の発想をしなさい。こういう氷しかない場所に、コロンと転がっている石! それこそがグロウジュエリーだと! 超目立つじゃないの。これはラッキーな状況なのよ」
「うーん。分かった。僕、オメーの意見を尊重してやるぞ!」
「そう。それでいいの」
こうして僕達は、半日をかけて、周辺の探索を行った。しかし、結局、石らしいものはどこにも見当たらなかった。
「……戻りましょうか」
「そうだな。対策を考えて、戻ってまたくればいいしな」
「とりあえず、今日はここで泊まりましょうか。さあ、モモくん、かまくらを作って頂戴」
「オッケー」
僕は、てきぱきと作業を行い、10分もかけずにかまくらを作った。かまくらの作り方については、事前に南極都市の傍で練習済みである。
僕とリンスは、かまくらの中で、食事をした。水は、ガスの火で、氷を溶かして作った。
「この火でさ、暖かくしてさ、レーダー探知機を作動させる事はできねーの?」
「無理ね。火力が弱過ぎる。水を作るために持ってきただけよ。火力を強めるボンベはあるけど、重いし荷物になっちゃうから」
「ふーん。だったら、次はそれを持ってくればいいわけか」
「まあ、基本的にはそうね。レーダー探知機の周囲の温度を暖めれる何かしらの道具を持ってくればいいだけの話だから、対処法は幾らでも考えられるわ」
「とりあえず、順調にいくってことだな?」
「そうよ。さあ、寝ましょうか。あーあ、今日は実のりがなくて、残念だったわ」
リンスは電灯を消した。僕達は持ってきた寝袋にそれぞれ潜って眠った。
翌日、かまくらの出入口が雪に埋まっている事に気が付いた僕は、力づくで掘り起こして外に出たところ、異常事態が発生している事を知った。外は大吹雪で、周囲が真っ白なのだ。まったく何も見えない。僕はすぐにリンスを起こした。
リンスは目を擦りながらも、のっそのっそと外の様子を見に行き、瞬時に顔を青ざめさせた。
「これは、ホワイトアウトよ……天気予報では、確率は10%だったのに」
「10%もあるじゃねえかよっ」
「天気予報で10%とか20%とかの降水確率の日には、誰も傘を持っていかないのよっ!」
「雨は命には関わらないけど、これは命に関わると、僕は思うんだが……」
「大丈夫! 一応、念の為に3日分の予備の食糧と燃料を持ってきたから! ホワイトアウトが収まったらすぐに戻りましょうか。南極都市まで、8時間も歩けば着く距離だしさ」
「おお。さすがは、リンス! 用意周到だな」
「そうよ! 私は用意周到ですごいのよ。久々に褒めてもいいわ。大絶賛してもいいわよー」
「すげーよ、オメーはすげー奴だよ。これで、僕達はなんとかなるって事だよな」
「おほほ。私には、先見の明があるのよ」
しかし大吹雪は3日経っても収まらなかった。燃料も食料も底をつき、このままでは飢えてしまう。なので、ホワイトアウトの状態で、視界は依然として悪いままではあるが、僕はリンスを背中におぶって、強行突破で南極都市まで走る事にした。
しかし、かまくらを出て10分程走っただけで方向感覚が分からなくなり、遭難してしまった。ズボズボと足場も悪い。だが、僕はその後も足を止めなかった。そして……。
「リンス。どこに行けばいい?」
「分からないわよっ! もうもうもうっ!」
「ごめんな……僕が強行突破で戻ろうって提案したばっかりに……」
「なに謝ってるの! 悪いのはモモくんを巻き込んだ私なのに。この、ばかばかばか。私の方こそ、ごめんなさーい。うぇえええん」
リンスは泣きながら僕を叩いてくる。
キビダンゴを齧りながら、あれこれ、もう4時間もぶっ通しで走り続けている。しかし、ここがどこだか分からない。脱水症状や体温も低下してきた。更に2時間ほど、走り続けるも南極都市がどこにあるのか、見当もつかない。お互い死を覚悟したその時だ。なにやら遠方に、光が見えたのだ。
「お、おい。リンス、あれ。光じゃないのか?」
「………………」
「おーいおーい。寝るなっ! リンス、光だぞっ!」
「……え? ええ。あっ! 光だ! 行ってみましょう」
「おう」
リンスは、かなり危うい状況となっている。
僕は吹雪の中、光に向かって駆けた。すると、そこには家があった。遠くから見えていた光は、その家の窓から漏れていた光のようだ。煙突からは、もくもくと煙が出ていた。人が住んでいるようだ。
「なんで、こんなところに家があるのかしら? 山荘のような観光施設?」
「そんなの、どうでもいいじゃねえか。とりあえず、中に入れてもらおうぜ」
「そうね」
僕は家のドアの前までやって来るとノックした。しばらくして、ドアが開き、70歳ほどの、おばあさんが現われた。
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