第20話

 球体は通路の出入口前から動いていない。


「おっととととと、ストッープでアリマス。なぜなら、超あくどい『罠』を仕掛けたからでアリマス」


「罠?」


「少し会話をしてやる、という事でアリマスわ」


「何か質問などがあれば、訊いても構いませんワ。というか是非とも質問してもらいたいのですワ」


「あんたたち、質問してくれって、こないだはそれで時間稼ぎをしてたんでしょう。また、穴を掘るつもり? その手には乗らないわ」


「そんな事はないのでアリマス。土以外のものでは静かに掘る事は出来ないのでアリマス。この床は土ではない。我々は静かに掘れない穴は掘らない主義なのでアリマースっ!」


「それに、さっき、巨大生物から助けてやったですー。そのお礼に、質問をしてほしいですー。頼むですー」


「……まあ、いいわ。なんでそんなに質問をしてもらいたいのか、怪しさ満開だけど、助けられたのは事実だし、1、2個してあげる」


「では、勝手に質問すればいいのですワ」


「じゃあ……あなたたちの目的ね。一体、なに? こないだ、モモくんが訊いた時、世界征服みたいな事を言ってたけど」


「ぷっぷっぷ。あれは単なるジョークですー」


「うさぴょんお姉さま、ブラックジョークが冴えわたっておりましたワ」


「私たちは、ただ帰りたいだけなのでアリマスよ」


「帰りたい? どこに?」


 その質問に関しては、3人が同時に言った。


「オツキサマに」


 ロボットは上を向いた。


「お月様? お月様って、えーと」


「夜になると空に見える、あれですー」


「十五夜の満月がとても綺麗な、地球の周りを自転しながら回っている天体でアリマス。ススキを飾って餅を食べると、いつもより美味しく感じられるのでアリマスよ」


「直径3474・3キロメートル。表面積3800万平方キロメートル。なお、黄色く光っているのは、自らが発光しているわけではなく、太陽の光を反射しているだけなのですワ」


「……嘘おっしゃい! 本当の目的はなんなのよ。月に行っても何もないじゃないの。空気だってないし」


「ぷっぷっぷ。だったら、世界征服とでも思っていればいいですー。おまえらごときに、嘘だと思われようと本当だと思われようと、我々にとっては、どーでもいい事ですー」


「我々はくされ人間のように『嘘』を頻繁に吐く種族ではないのですワ。我々は嘘を決してつかない誇り高き種族なのですもの」


「ちなみに、『嘘をこれまでについたことがない』っていうのも嘘ではないのでアリマス。そこを信じてもらいたいのでアリマス」


「よく分からないわね……」


「ぷっぷっぷ。小僧の方は我々に何か、質問はないかですー」


 質問を考えてみる。


「だったら、オメーら、何か好きな食べ物はあるか?」


「食べ物?」


「どういう事でアリマスか?」


「おほほほ。まあ、お姉さま方、一応は質問なので答えて差し上げましょう」


「我らの主食は餅ですー」


「特にうさぴょんお姉さまは『きな粉もち』に目がないのですワ」


「たくさんの種類の餅を作っても、きな粉もちだけを黙々と食べ続けるストイックさが際立つのでアリマス。ちなみに私は、『餡子もち』に目がないのでアリマス」


「私はシンプルに醤油をつけて、海苔で巻いて食べる餅が好きですワ。『おはぎ』だってイケル口です」


「おはぎは邪道ですー。あれは餅とは認められないですー」


「何をおっしゃっていますのやら。同じもち米だし、きな粉をつけたらうさぴょんお姉さまだって、喜んで食べておりますワ」


「確かにおはぎも美味しいけど、餅かどうかといえば、半分だけ餅って感じで、厳密には餅とは思えないですー」


「まあまあ、お二匹とも、おはぎが餅であろうと、餅でなかろうと、どうでもいい事でアリマスよ。さあ、小僧、これを質問の答えとしても、いいでアリマスか?」


 思いついた質問を投げかけただけだったが、思いのほか、濃厚な返事だった。


「お、おう。オメーら餅が好きなのか」


「好きというか、餅しか食べる気が起きないのでアリマス。最初に餅を発明した者には、今でも感謝感激でアリマス」


「じゃあ、次は私が質問するわ」


「いいですよー」


「勝手に質問すればいいのですワ」


 リンスが一歩前に出る。


「だったら聞くけど、あなたたちもレーダー探知機を持っているわけなのよね。そのレーダー探知機はどこで手に入れたの?」


「………………手に入れた、というかでアリマスか……厳密には手に入れたわけではないのでアリマス」


「なぜなら、これは元々、我らの所有物なのですから」


「まあ……小娘の納得のいく回答をするのなら、『とある骨董屋で故障している状態で見つけ、買戻し、修理した』とでも言っておくでアリマス」


 リンスは首を傾げながら言った。


「へ?」


「そろそろ、質問タイムも終わりですー」


「うさぴょんお姉さま、結局は最後に勝ったものこそが『勝者』なのでアリマスね」


「遂に我らの念願が叶うのですワ」


「ちょっと、何を言ってるの?」


「我ら怪盗ウサギ団は、これまでに狙った獲物は一度たりとも逃した事がなかったですー。どんなに警備が厳重な博物館であろうとも、必ず盗みを成功させてきた超優秀な怪盗団ですー」


「今回も、確かにグロウジュエリー6つ。頂いたでアリマス。我々の長かった怪盗生活も、これにて終焉でアリマスなー。というか、怪盗生活とは一体なんだったのか……と」


「ここまで来るの、本当に長かったですワ。辛い事も辛い事も辛い事も……はっ! 嬉しい思い出が、ないっ!」


 リンスが、眉を寄せながら言った。


「なに言ってるの? モモくん、様子がおかしいわ。グロウジュエリー、取り戻しちゃって」


「お、おう!」


 僕はロボットに向かって駆けた。そして、奪われたバッグと6つ目の宝石を取り返そうとするが……。


「あ、あれ? あれれ? なんだこりゃ」


「どうしたの?」


「すける。触れねえー」


「まさかっ」


 リンスも駆け寄ってきた。そして、じっとロボットを見つめ、手を伸ばした。すると……。


「ス、スクリーン?」


 通路の出入口に、布のようなものが貼ってある事に気づいた。それを、ビリっと破いたところ、奥に映写機のようなものが置かれており、布に光を当てていたようである。その傍らには、スピーカーのようなものが置かれていて、そこから3人の声が出ていた。


『気付かれましたワ。3Dメガネがなくても3Dに見える映写機で映した映像、どうでした? まんまと騙されて足止めされてましたワね』

『実は、私たちはもう地上に出ているのでアリマス』


 リンスの顔が、段々と赤くなっていくのが分かった。


「だ、騙したのねー! また、会話で時間稼ぎをしてっ!」


『ご苦労様でしたでアリマース。うっしっし』

『ぷっぷっぷ。お前らは戦いの本質を理解しているのかですー? ドンパチやって最後に立っていた者が勝ち、だなんて、脳味噌が筋肉なヤローの考え方ですー』

『戦いの勝者とは常に、目的を達成した者の事を指すのでアリマス』

『私はバトルの神髄に辿りついたんですー。ここでは逃げる事こそが、勝ちなんですー』

『戦わずして勝つ。エコですワ。超エコですワ! さすがはうさぴょんお姉さまっ!』


「オメーら、ズリーぞ」


『いくらでも言うといいんですー。本来なら、正面からのぶつかり合いも想定していたですが、准必殺技を使用したせいで、エネルギ―残量がほぼ空になっていたんですー』

『そのため力と力で戦い合っても、負ける事が明白だったため、頭を使っただけの話でアリマス』

『ズリーと言われるのは、心外ですワ。現在できる事で最大限の結果を出すように努める事が、ズリー、と?』


「くっ……」


 確かにその通りだ。反論しようがない。


『お前ら、喜ぶといいですー。本来の予定ならば、このまま遺跡の出入口をぶっ壊して永遠にその遺跡内で孤立無援の状態にさせるつもりだったけど、恩赦を与えてやるですー。ばにー、教えてやるんですー』

『分かりましたでアリマス。おまえたち、この遺跡のメインシステムに接触した我々は、この遺跡をもっと地中に潜らせる事が出来ると知ったのでアリマス。この遺跡には、どうやら土の中を移動できるという一風変わったテクノロジーが使われているようでアリマスからね』

『つまり遺跡の出入口をぶっ壊した上で、そのシステムをこちらから遠隔操作で起動させて、とことん地中に潜らせてやれば、おまえらを100%殺害できるのですワ。おまえらには遺跡を再浮上させるための技術も知識もないわけですからね』

『干乾びて白骨になっても、そこからは出られないんですー。ずっとずっと助けを求めたとしても、お家に帰りたいと心の底から望んでも、どうする事もできなくなるんですー』

『それが本当のレッツ復讐でアリマス』

『しかし心優しい我らは本日は機嫌がいいのですワ。待ち望んでいた願いが、夢がようやく叶うわけですから。なので、おまえらにチャンスという名の恩赦を与えてやる事にしたのですワ』


「どういう事だ? オメーら、何をする気だ』

『ぷっぷっぷ、ですー」


 直後、ゴゴゴゴゴと地震が起きた。


『たった今、潜水艦の如く地中に潜るシステムを、起動させましたワ』

『ただし、すぐに潜るというわけではないようでアリマス。エネルギーを溜める必要があるようで、潜るまでの時間差があるのでアリマス』

『お前らが生き残るには、遺跡が潜り込んで脱出が出来なくなる前に、地上に抜け出す事ですワ。恩赦として遺跡の出口は特別に破壊しないでおいてあげますワ』

『ぷっぷっぷ。でも、どこに出口があるのか、分からないだろうですー。グッドラックですー。バーイ』


 スピーカーと映写機のようなものが、ボンと爆発した。僕はリンスと顔を見合わせた。


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