第19話

 なお、ここでの探索は容易だった。行く先々に、不思議な形状をした神殿のようなものがあり、そこに入ると、まず通路がある。そして、大広間のような場所に続いており、その中心部に不思議な岩……現代でいうところの『宝箱』のようなものの中に入っているのだ。ボタンで開く仕組みになっており、中からは、カラフルに光る宝石が見つかった。なお、建物内に入ると照明が点く仕組みになっているようで、暗さによる不便はなかった。


 ただし気になるのが、その道中、行く先々で白骨遺体を見つけた事だ。あらゆる場所に無造作に転がっており、一体ここで何が起きたのかが気になった。


 リンスはこれまでに集めたグロウジュエリーを見つめ、頬を緩ませた。


「きゃああああ。やっぱり、きれーーい」


「そういえば女って、宝石ってのに弱いんだろ? 父ちゃんが言ってたぞ」


「弱いって……ちょっとカチンとくる言い方よね。でも、それは本当の事よ」


「それは一体なんでだ?」


「そりゃあ。女の子は永遠の美しさを願っているからよ」


「だったら、ボインよりも永遠の美しさをお願いすればいいじゃないか」


「考えが浅いわ。確かに永遠の美しさも、眉唾ものだけど、私はボインの方がいいのよ」


「わっかんねーな」


「モモくんはまだまだガキンチョだから分からないのでしょうけどね、もののあわれ、というか、すぐに散るがゆえの美しさってのがあるわけよ。例えば桜とかね。頑張って頑張って、一瞬だけ満開になって輝く、私はそういう生き方がしたい。そして、その短い期間を、私はボインでありたいのっ!」


「………………ふーん。まあ、オメーの勝手だけどさ……。えーと、こいつか?」


「うん。そうよ。開けて開けて」


「おうっ! あったあった。これで5つ目か?」


「やったー! これであと残り1つよ!」


「つーか、これまでにゲットして、オメーの家に置いてきた3つのグロウジュエリー、あれ、なんだったんだよ。全くの無駄骨だったじゃねえかよ」


「知らないわよ。私は願い事さえ叶えられたら、過程なんてどーだっていいって派よ」


「願いを叶えた後、これまで集めた3つの宝石、どーすんだ? 怪盗ウサギ団にでも、譲ってやるのか?」


「さっき助けてもらったお礼くらいはしてやらないといけないだろうけど、それはないわ。だって、世界征服とかも出来ちゃう宝石だからねえ」


「じゃあ。どーすんだ?」


「だったら、もう3つ集めて、今度は美脚にでもしてもらおうかしら。まあ、今でも十分に美脚なんだけどさ。おほほ、うふふ、えへへ」


「くっだんねー。足なんていつもズボン穿いてりゃ見えないだろー」


「うっさいわねー」


 そして僕とリンスは最後の6個目のグロウジュエリーの反応が感知された、神殿のような建物内部に入った。

 構造はこれまでの建物と殆んど同じで、迷わず大広間へと向かった。


「うっきうっきうっき♪ やっと私もボインちゃーん♪ ラララノナーン♪」


「なんだよ、その即興で作ったような歌は?」


「だって嬉しいんだもん。もうすぐ、念願が叶うわ。グロウジュエリー6個が揃うわ。モモくんにはお礼として、何でも食べさせてあげるわ。飲食店も開きたいんだっけ? いいわいいわ。私にドーンと任せなさいっ。しばらくは、私の豪邸に住んでてもいいわよっ」


「本当か? いやったー。オメー。でぶっぱらだなー」


「……それをいうなら太っ腹よ。私の家の敷居は大きいから、空き部屋なんてケチな事は言わないわ! モモくんの家を建ててあげちゃう」


「えー。家を?」


「それが、お金持ちの中でも超一流のお金持ちの、お・も・て・な・しの心よ」


「なんだか知らねえけど、お前んち、すげーんだなー。客人をもてなすために、家を建てるって、どんだけだよー」


「あっ。あったわ! 最後の、6つ目の岩の入れ物が」


 僕はボタンを押して、中にあった宝石を手に取った。これでグロウジュエリー、6個全てが揃った事になる。


「コンプリートよ! モモくん。お疲れさま」


「やったー。リンス、約束だぞ。僕に、たらふく美味しいものを食べさせてくれよ。腕を磨いて、店も出すぞー」


「もっちろ……ん?」


 突如、照明が消えた。しばらくして、通路側より、眩しい光がピカりと輝いた。僕とリンスは目を瞑った。


 目が周囲の明暗に慣れてきたころ、僕はある事実に気が付いた。


「ああああああああああああぁぁぁぁー。な、ないっ!」


「え? え? モモくん、どうしたの? なにがないの? あっ」


 リンスも気が付いたようだ。僕が持っていた5つのグロウジュエリーが入っていたポケットバッグと、手に持っていた最後の6個目の宝石がないのだ。そしてそれは、怪盗ウサギ団の球体ロボットが持っていた。大広間へ通じている通路の出入口前に、球体の姿があった。


「くらったか必殺、ピピン腕ですー」


「うっしっし。我らの存在を忘れていたのでアリマスか? ばーかばーかでアリマス」


「おほほほ。伊達に我々は『怪盗』を名乗ってはいないのですワ。演算処理によると我々の位置から小僧の位置まで手が到着する時間は0・3秒。予めこちらの建築物の照明設備システムを掌握しておき、唐突に暗転させる事で生まれる一瞬の隙をついたのですワ」


「ぷっぷっぷ。これも盗みのテクニックの一つですー。ざまーですー。おまえらがここにくるのは、簡単に予知できたですー」


「そうですワ。私たちもレーダー探知機を保持しているのですワ。おまえらがここにある6個のグロウジュエリーを探していると分かった時点で、我らはこの計画を思いついたのですワ」


「全部集めてしまう、その瞬間にこそ勝機があるのでアリマス! 喜びによって生まれるだろう油断。そこを更に光の暗明によっての隙の拡大」


「あとは気付かれないよう準備万全の状態で待ち構え、奪っちゃうだけだったんですー」


「ワルですワー。こいつらに宝石を集めさせ、最後の美味しいところだけを、ガブっと頂いちゃうってところが、私には到底思いつかないワルさ」


「鳴かぬなら鳴くまで待つですほととぎす! 名づけて『部下の功績を横取りしちゃう上司大作戦』大成功ですー。サラリーマンの社会は厳しいですよー」


「おい。僕たちの宝石を返せっ!」


 僕はキビダンゴを3つ口の中に放り入れた。暗闇の中、こぶしを握りながら、光を発している球体ロボットに駆けた。

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